横須賀市に学ぶ、公務員のためのDX改革ー行政の構造的な課題を変える、不屈の突破力~寒川孝之・神奈川県横須賀市デジタル・ガバメント推進担当部長インタビュー(4)~ 

神奈川県横須賀市デジタル・ガバメント推進担当部長 寒川孝之
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2025/07/09 横須賀市に学ぶ、公務員のためのDX改革ー行政の構造的な課題を変える、不屈の突破力~寒川孝之・神奈川県横須賀市デジタル・ガバメント推進担当部長インタビュー(1)~

2025/07/10 横須賀市に学ぶ、公務員のためのDX改革ー行政の構造的な課題を変える、不屈の突破力~寒川孝之・神奈川県横須賀市デジタル・ガバメント推進担当部長インタビュー(2)

2025/07/15 横須賀市に学ぶ、公務員のためのDX改革ー行政の構造的な課題を変える、不屈の突破力~寒川孝之・神奈川県横須賀市デジタル・ガバメント推進担当部長インタビュー(3)~ 

2025/07/17 横須賀市に学ぶ、公務員のためのDX改革ー行政の構造的な課題を変える、不屈の突破力~寒川孝之・神奈川県横須賀市デジタル・ガバメント推進担当部長インタビュー(4)~

 

デジタル改革の成果と展望

小田 20年にデジタル・ガバメント推進室が設立されて5年余り経ちましたが、目に見える成果はどのようなものがありますか?

寒川氏 最大の成果は総務事務センターの設立です。神戸市での実施例があり、これにより総務部門の人員14人の再配置が実現します。人員削減を含めたDXが初めて実現した点が大きな前進です。また、我々が主導せずとも各部局が自ら予算を獲得して改革を推進する流れができてきたことも成果と考えています。

 

小田 どの自治体も同様の課題を抱えていますが、人口動態から鑑みるに将来的には同品質の業務を4分の1から5分の1程度の人数で行う必要があると考えます。その実現方法が重要ですね。

寒川氏 その通りです。人材・人員配置の抜本的見直しを進め、「困ったときには我々を頼る」体制を構築したいと考えています。この流れで生成AIは重要な役割を果たしており、文書作成やアイデア出しに積極的に活用しています。現在、6割以上の職員が使用し、作業時間を短縮して他業務に時間を割けるようになっています。

 

小田 それにより、住民との接点など、本来人間がすべき仕事により多くの人員を配置できる展望も見えてきますね。

寒川氏 それこそが市長の目指すDXの方向性です。まだ道半ばですが、着実に進めています。

 

小田 横須賀市は中核市で人口も多いですが、人口が3000人程度の小規模自治体などでは少ない職員で全業務をこなしています。総務事務センターのように、ルーティン業務は複数自治体をまとめた方が効率的ではないでしょうか。

寒川氏 全くその通りです。自治体が共同で業務プロセスを統一し運営すれば、費用も削減できます。10人で行っている業務が2人でできるなら、明らかに効率的です。

 

小田 ですが、文書管理や決裁システムの自治体間統一は進展が難しい状況です。小規模自治体では職員が多数の兼務を抱え疲弊していますし。

寒川氏 「条例の順守」を理由に変化を避ける傾向がありますが、このままでは自治体の存続も危うくなるでしょう。総務系の内部業務は、簡素化して低コストで実施すべきです。

 

小田 財務部長が「投資」という言葉を使われたのは印象的でした。行政では通常、人件費を含めた投資と費用の概念があまり浸透していません。この取り組みの中で進展はありましたか?

寒川氏 KPIは事務事業の総点検などで形式的につくられることが多いですが、職員も徐々に理解しつつあります。私たちの部署では、改革による効果(時間外勤務の削減や必要人員の変化など)を試算することが基本になっています。ただ、組織全体ではまだそこまで浸透していないと思います。

 

小田 少ない人数で業務を回すためには、投資と費用の概念、人件費や紙のコストなどへの意識が現場に浸透することが重要ですね。

寒川氏 おっしゃる通りです。さらに根本的な問題として、現在ある業務が本当に必要なのかという視点からのスリム化が、組織のリセットや再生には不可欠だと考えています。

 

小田 今後チャレンジしていきたいことはありますか?

寒川氏 デジタル化も必要ですが、私は会計年度任用職員の業務は委託化すべきだという信念があります。基本的に外部委託・BPOできるところは徹底的に出していきたいと考えています。その部分の人材を、本当に必要とされている部署に回したいと思っています。すでに多くの候補を検討しています。

 

小田 ルーティン業務はどんどん外部化して、職員は本当に職員である必要がある業務に集中するということですね。

寒川氏 そうです。そうしないと人材も確保できませんし、品質も担保できません。

 

DX推進の核心:「デジタルより変革」

小田 最後に、他の自治体に「ここが大事」というヒントを頂けますか。

寒川氏 大事なのはデジタルではないということです。役所の決まり事、条例、それを全て見直すことから始まると思っています。デジタルに詳しくなくても構いません。「なぜこのような方法で仕事をしているのか」という課題を見極める目があれば、後は実行するだけで難しいことはないと思います。それに尽きると思います。

 

小田 ありがとうございます。そのマインドと実行力は人それぞれですし、環境も重要ですね。横須賀市はトップと議会の強力な同意があるという点が優位性ですね。

寒川氏 これが横須賀の本当に改革を進めやすいところだと思っています。

 

横須賀市のデジタル改革の事例から学べることは多岐にわたります。組織の縦割りや前例踏襲の文化を変えるには、トップのリーダーシップと議会の理解、そして現場の「改革マインド」を持った人材の育成が不可欠です。

寒川氏の「大事なのはデジタルではない」という言葉は、真の行政改革の本質を捉えています。技術導入はあくまで手段であり、目的は市民に寄り添う行政サービスの実現です。「なぜこのような方法で仕事をしているのか」という根本的な問いから改革を始めることで、持続可能な行政運営への道が開かれるのです。横須賀市の取り組みは、人口減少や高齢化という課題に直面する日本の自治体にとって、貴重な先行事例となるでしょう。

 

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2025年6月9日号

 


【プロフィール】

横須賀市|寒川部長インタビュー記事

 

寒川 孝之(さむかわ・たかゆき)

窓口・福祉部門を経て2001年に情報政策課(情報システム部門)へ配属。ICカードの実証実験「IT装備都市研究事業」を担当。05年に横須賀市コールセンターを開設後、大規模土地利用によるまちづくり事業に従事。
14年から複数回実施された臨時福祉給付金支給業務を統括、17年からオリンピック担当となり、イスラエル柔道チームの事前キャンプ誘致を実現。20年4月、横須賀市経営企画部デジタル・ガバメント推進室長に就任、2024年から現職。

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