信頼関係を礎にスピーディーな課題解決~橋本正裕・茨城県境町長インタビュー(2)~

茨城県境町長・橋本正裕
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2024/04/03 信頼関係を礎にスピーディーな課題解決~橋本正裕・茨城県境町長インタビュー(1)~
2024/04/05 信頼関係を礎にスピーディーな課題解決~橋本正裕・茨城県境町長インタビュー(2)~
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2024/04/11 目的思考の自治体経営~橋本正裕・茨城県境町長インタビュー(4)~

 

自動運転バスの定期運行を始めた理由

小田 境町は、自治体として初めて自動運転バスの公道での定期運行を始めました。これも驚くべきスピードで実現した取り組みですよね?

橋本町長 19年11月26日に「Yahoo!ニュース」で、自動運転バスの運行管理を行うBOLDLY株式会社(ソフトバンクの子会社)の記事を発見しました。すぐにアポイントメントを取り、12月26日には同社の代表と面談し、翌年の1月9日に議会の予算承認を得ました。その約1週間後の1月15日から町民試乗会を行い、20年11月26日に公道走行を開始しました。これまで延べ2万3000人以上にご利用いただきました。

 

小田 自動運転の実証実験は全国各地で行われているものの、実用化に至った例はまれです。なぜ境町はできたのでしょうか?

橋本町長 「誰もが生活の足に困らないまち」という目的から、ぶれなかったからだと思います。境町は鉄道が通っておらず、地域公共交通が脆弱です。高齢者は自動車の運転免許を返納すれば、たちまち買い物や病院へ通うことが困難になってしまいます。このため多くが返納をためらいます。では90歳以上の方の運転と、緻密な制御による自動運転では、どちらが安全でしょうか。答えは明らかなはずです。何が重要かを考えて課題を一つずつクリアした結果、実用化に至ったというわけです。(写真)

 

小田 自動運転は事故のリスクばかりが注目される傾向にあります。この点に関しては、どう説明しているのですか?

橋本町長 事故のリスクが大きく取り上げられる理由は単純で、「信用していないから」だと思います。しかしセンサーは人の目の約1万倍の精度です。人が運転するより、はるかに正確性があります。

境町が導入した車両はフランス製の「ナビヤ・アルマ」で、世界で最も走行実績があります。万が一のときに備え、自動運転バス専用保険や救助サポートを付けています。とはいえ、現在も無事故で運行を続けています。公道走行を始めた当初は車両内にオペレーターと保安要員を配置していましたが、現在では安全性が認められたため、オペレーター1人のみで運行しています。

 

※境町で運行中の自動運転バス

 

小田 自治体が何か新しい取り組みを始めるときは、問題が起こらないようにと消極的になる傾向があります。境町の自動運転バス運行はその壁を乗り越えたのですね。

橋本町長 自動運転やドローンなど、新しい技術を実用化するためには規制緩和が必要な場合があります。それは誰かがやらなければなりませんが、民間企業のみでは難しいのが実情です。ですから境町が率先して実証実験を行い、企業と共に国へ提言しています。

 

小田 境町とつながりたい企業は他にもたくさんあるだろうと推察します。

橋本町長 民間企業との接点については、こちらからアポイントメントを取ることもあれば、人づてに紹介いただくこともあります。企業から直接、連絡を頂ければ、訪問してお話を伺うこともできます。「自治体と一緒にこんなことをやりたい」という展望があれば、ぜひ持って来ていただきたいです。

 

小田 橋本町長は「行政」「民間」という境界を飛び越えて連携する感覚をお持ちなのですね。

橋本町長 結局、人と人との信頼関係です。日ごろから住民や企業、議会、省庁など各ステークホルダー(利害関係者)との信頼関係が築けていれば、合意形成がしやすくなります。距離を取るように線引きすると、何事も前に進みにくくなるでしょう。

 

国境をも越えた連携

小田 境町はフィリピンのマリキナ市、米ホノルル市と姉妹都市協定を締結しています。いずれも橋本町長が就任してから実現したものですが、どのような意図があったのですか?

橋本町長 2市と姉妹都市協定を結んだのは、スーパーグローバルスクール事業を推進するためです。これは「すべての子どもが英語を話せるまちへ」をスローガンに、子どもたちの英語力を向上させ、グローバル社会で活躍できる人材に育てようとする取り組みです。

保護者は英語教育の必要性を十分に理解していますが、塾へ通わせることに負担感を覚えています。本音を言えば「学校で保護者の負担なく、どうにかしてくれるとありがたい」のです。ならば町が全額負担する形で、義務教育の英語カリキュラムを手厚くしようと考えました。

マリキナ市からは英語講師を招聘し、すべての小中学校に配置しています。境町の外国語指導助手(ALT)の人数は全国平均の約4倍です。ホノルル市とは相互人材派遣や短期留学、ホームステイ先として連携しています。境町の子どもたちがホノルルへ向かうこともあれば、ホノルルの子どもたちが境町に来ることもあります。

このように、義務教育の段階から日常的に英語に触れる機会を増やすことで、多くの子どもたちの英語力向上につながればと願っています。

 

小田 橋本町長は国境すらも越えてアプローチしているのですね。

橋本町長 直接、現地に話をしに行くことも多いです。通訳の方がいますから、臆せずにどんどんコミュニケーションすることを心掛けています。そうすると有益な情報や人の紹介が得られます。

姉妹都市は形だけになっているケースもありますが、私はそうはしたくないと考えています。お互いさまの精神で交流するのが理想です。コロナ禍のときにはフィリピンの子どもたちに学習用のタブレットを100台ほど配りました。当初は境町の子どもたちに配布しようと準備していた物ですが、姉妹都市の子どもたちも状況は同じでしょう。ですから彼らの分も町で購入しました。こうした踏み込んだコミュニケーションが次の展開をつくると思っています。

ちなみにホノルル市に関しては、縁もゆかりもないところから関係を構築しました。最初に訪問した際は、いぶかしがられましたね。日本のホノルル総領事館からも諦めた方がよいなどと言われましたが、こちらの描いているビジョンを伝え続けた結果、先方の議長の計らいで姉妹都市協定を結ぶことができました。

 

小田 橋本町長のバイタリティーとビジョンに触れた人たちは皆、感化されるのかもしれませんね。海外視察には単独で行かれるのですか、それとも職員を同行するのですか?

橋本町長 ケース・バイ・ケースですが、職員や議員の方々を連れて行くこともあります。町民の皆さんもそうです。海外は目的を果たすために行きます。英語教育のため、子どもたちのホームステイのため、事業化するため、現地の方たちと日本をつなぐ架け橋になるためです。何のための海外視察であるかは明確ですから、説明責任は果たせます。

 

 

小田 橋本町長のお話しぶりからは、迷いが一切感じられません。まちの課題を解決するためにアンテナを張り巡らせて情報をキャッチし、効果が最大となるようにリソース(資源)を配分する手腕には感動を覚えます。

次回は、組織マネジメントや外部人材の活用などについて伺います。

 

第3回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年2月19日号

 


【プロフィール】

橋本 正裕(はしもと・まさひろ)

 1975年生まれ。茨城県境町出身。99年境町役場に奉職。2003~13年境町議。14年境町長に就任し、現在3期目。デジタル庁「デジタル交通社会のあり方に関する研究会」構成員、内閣府「地方創生SDGs金融調査・研究会」委員を務める。

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