目的思考の自治体経営~橋本正裕・茨城県境町長インタビュー(3)~

茨城県境町長・橋本正裕
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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第1回第2回に引き続き、茨城県境町の橋本正裕町長のインタビューをお届けします。

2014年の就任以降、ふるさと納税の強化などを通じて財政再建を図った橋本町長。寄付金は子育て支援の拡充や地域振興に活用し、住民の暮らしの満足度を向上させつつ、移住者の増加にもつなげました。

「行政と民間」「国内と海外」といった境界を飛び越えて連携を模索する橋本町長の思考は、あらゆるステークホルダー(利害関係者)をつなぎながら「ウィンウィン」の関係を構築し、最終的には住民のベネフィット(便益)を最大化するところまで見据えています。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

「プロフェッショナル職員」を育成

小田 境町の政策遂行は非常にスピーディーなものが多い印象です。そのためには庁内組織のマネジメントや人材育成が欠かせないと思いますが、何か意識して取り組まれたことはありますか?

橋本町長 私の祖父も町長を務めていました。祖父を慕って仕事に励んでくださった方々を定年後に再任用したことが大きなポイントかもしれません。再び部長職に就いていただき、後進の育成をお任せしています。組織構築に関しては、その他にもさまざまなことに取り組みました。1年に4回の機構改革を行ったこともありますし、人事異動や採用にも注力しました。専門家を引き入れることも意識しました。

 

小田 どういった分野の専門家でしょうか?

橋本町長 あらゆる分野で関わっていただいていますが、幾つか紹介すると、まずは危機管理です。これには東日本大震災から得た教訓があります。発災後の自衛隊との連携がスムーズではありませんでした。理由を調査すると、指揮命令系統の共有が不十分だったことが分かりました。それを避けるためには、危機管理の専門家を普段から組織内に配置しておく必要があります。そこで今は退職自衛官の方に担っていただいています。

また県の弁護士会と連携し、法務面を強化しています。企業と契約する際のリーガルチェックや万一、行政訴訟に発展した場合の対応などについてサポートいただいています。

民間の1級建築士の力もお借りしています。庁内には公共施設の管理を横断的に行う「管財課」があり、そこに建築アドバイザーとして入っていただいています。どこかの建物で修繕や改築が必要になった際、専門家の視点があれば妥当な判断ができます。壁紙の素材選定から見積もりまで、その方の目を通してから町長が決裁するという流れにしています。

 

小田 「餅は餅屋」で、庁内で足りない知見は外部の専門家を積極的に登用し、補完しているのですね。

橋本町長 外との交流はかなり意識しています。役場の中にいるだけでは職員の能力向上は見込めません。「プロフェッショナル職員」を育成したいと考えています。そのため、外部の専門家との交流や講師を招いた研修、民間企業への派遣、省庁や他自治体への出向など、あらゆるアプローチを取り入れています。

 

出典:境町

選ばれる自治体となるために

小田 橋本町長には「自治体を経営する」という意識が、はっきりとあると感じます。そんな橋本町長から見て、これからの首長にはどのような手腕が求められると思いますか?

橋本町長 住民、議会、企業など、あらゆるステークホルダーを巻き込んで結果を出す力ですね。しかも、なるべく早く、目に見える形で結果を出すことが求められます。4年の任期なんて、あっという間です。民間企業なら、4年もかけて結果が出なければ倒産の危機です。それくらいのスピード感は求められて当然です。

境町では、ふるさと納税の寄付額や移住者数といった数値を1日単位で確認しています。結果をタイムリーに追いながらボトルネックを洗い出し、すぐに改善を試みます。

 

小田 もはや企業経営と同じということですね。

橋本町長 そうしなくても成り立っていた今までの方が異常と言えるのではないでしょうか。立ち行かなくなってから「選択と集中」に向けた議論をしても遅いと思います。ただし、自治体経営を自治体関係者が「自分ごと」として捉えるためには、地方交付税の制度そのものを抜本的に見直す必要があると考えます。

 

小田 確かに創意工夫を凝らして税収を増やした自治体よりも、突破口を見いだせずに財政力が弱いままの自治体に地方交付税が多く行き渡るのは、制度のゆがみと言えるかもしれません。

橋本町長 行政サービスの質を高め、「移住」という形で外の地域の方に選んでもらうほかないですね。境町は移住政策にも随分と力を入れてきました。10年かけて理解できた移住者のニーズは三つあります。「高い安全性」「雇用の受け皿」「教育環境の良さ」です。これらがそろわないと、なかなか外の地域から移住して来ようとは思わないようです。中には、同居する高齢者の受け皿となる特養老人ホームなどを望まれる方もいらっしゃいますが、境町はあくまでも子育て世代に絞った支援を展開しています。

 

小田 そうすると、境町への移住者の多くは30〜40代の現役世代ということになりますね。

橋本町長 移住者はほぼ全員が45歳以下です。いずれは高齢者の受け皿も、移住者のニーズを捉えながら整えたいと考えています。

 

小田 移住政策について、模範とした自治体はあるのですか?

橋本町長 静岡県長泉町です。その周辺自治体が長泉町の移住政策をまねて、地域全体で推進しています。私は決して周辺自治体と足の引っ張り合いをしたいわけではありません。周辺自治体を含めたエリア全体で盛り上げていきたいと考えています。「わが町だけが取り組んでいる」というプライドめいた感覚は必要ありません。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年2月26日号

 


【プロフィール】

橋本 正裕(はしもと・まさひろ)

 1975年生まれ。茨城県境町出身。99年境町役場に奉職。2003~13年境町議。14年境町長に就任し、現在3期目。デジタル庁「デジタル交通社会のあり方に関する研究会」構成員、内閣府「地方創生SDGs金融調査・研究会」委員を務める。

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