本田 朋(元福島県議会議員、GR Japan株式会社・公共政策マネージャー)
はじめに
2011年3月11日に発生した、東日本大震災および東京電力福島第1原子力発電所事故は、福島県民はもちろん多くの日本国民の心に大きな衝撃と傷痕を残しました。あの未曽有の大災害から8年が経ち、福島も日常を一見取り戻しつつあるように思えます。また、県政界では、旧自治省出身の内堀雅雄知事のリーダーシップや自治体職員、議員、そして復興に携わる多くの県民の不断の努力によって着実に復興への道程を歩んでいます。
筆者は2005年から2015年まで福島県議会議員として活動し、震災発生後は、東日本大震災復興対策特別委員会委員として県復興計画の策定に尽力、また同じく世界史に残る原発事故対応を余儀なくされているウクライナのチェルノブイリ原発やベラルーシのゴメリ州保健衛生省などを視察し、30年後の福島県のために県議会で奔走した経緯があります。2015年11月、県知事顕彰および自治体功労者表彰を契機に県政には継続的に新しい発想が必要であること、また折に触れて提唱していたワシントンDC型の公民リボルビング(回転)ドアの日本における先駆者を自ら目指したいと考え、4期目の選挙には出馬せず政界を離れ、政策シンクタンク、PR企業を経て、現在は東京都内の公共政策アドバイザリー会社にて政策分析や政府渉外のコンサルタントをしています。
現在は、クライアント外資系企業や海外の大使館、財団や公共団体とさまざまなプロジェクトで常に接していますが、公民国際コミュニケーション戦略の重要性を日々痛感させられています。福島県の災害復興関連ニュースを外から見る機会も多いですが、福島の真摯で純粋な正義感が効果的に海外のステークホルダー(利害関係者)やメディアに上手に伝わっていないもどかしさを、外部の人間ではありますが、極めて歯がゆく感じています。
東京電力福島第1原発事故における汚染水問題
原発事故と建屋内での水素爆発により、原子炉内に燃料が溶け落ちてデブリとなり、この放射性物質である燃料デブリから日々汚染水が発生している状況が、いまだに東京電力福島第1原発内では続いています。政府や東電は三つの基本方針「汚染水を漏らさない」「汚染源に水を近づけない」「汚染源を取り除く」を柱に、さまざまな重層的取り組みをこれまで行ってきました(図1)。
しかし今、世界的に大きな懸念となりつつあるのが「汚染水の浄化処理設備」と、東京電力によるその運用に重大な瑕疵があるのではないかという疑念です。
2019年1月22日に「福島原発由来の汚染水を太平洋に流してはならない」と国際環境団体グリーンピースが公式ツイッターで発信(図2)、世界中でこれまで1万1000回を超えてリツイートされました。グリーンピースは動画の中で、「東電は汚染水浄化処理技術がうまく進んでおらず、ストロンチウムのような人間の骨に取り込まれる発がん放射性物質を取り除けていない」とのメッセージを打ち出しました。
過激な捕鯨反対運動の印象が強いグリーンピースの主張であり、眉をひそめる読者もおられるかと察しますが、残念ながら汚染水処理の問題に関してだけ言えば、かなりグリーンピースの主張は的を射ていると言わざるを得ません。福島原発汚染水対策を所管する経済産業省資源エネルギー庁の汚染水処理対策委員会での、多核種除去設備等処理水の取り扱いに関する小委員会の2019年9月27日会合にて、東京電力が「多核種除去設備等処理水の処分方法と風評抑制」について資料を提出しています。その中に2次処理に関する記載があり、浄化装置のALPS(アルプス)による1次処理だけでは、完全にトリチウム以外の放射性物質を取り除くことができていないとされました。この資料を受けて、既に韓国などが汚染水処理失敗を英文メディアなどで取り上げる事態となっています。