移動データでデザインする脱炭素のまち(1)~EBPMに基づくプロジェクト─3市が成果報告~

株式会社Public dots & Company

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地球温暖化対策をめぐっては現在、国際枠組み「パリ協定」に基づき、途上国を含む世界の国々が一丸となり、さまざまな取り組みを進めています。わが国は、2050年までに二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの国内排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を掲げつつ、当面は30年度に13年度比で46%削減することを目指しており、各地方自治体でも対策が求められています。

 

そんな中、「移動データでデザインする脱炭素のまち」と題するオンライン報告会が、2022年3月3日に開かれました(写真)。そこでは、三つの自治体が取り組んでいるカーボンニュートラル施策が発表されました。

自治体はEBPM(証拠に基づく政策立案=Evidence-based Policy Making)の原則に基づく施策を、どのように設計すればいいのでしょうか。本稿はそんな疑問を持つ読者に対し、一つの具体例を示す機会となります。人々の暮らしの履歴とも言える「移動に関するデータ」が、どのように「脱炭素のまちづくり」とひも付いていくのか、三つの自治体の成果報告から知見を広げていただければ幸いです。

 

写真 オンライン報告会のイメージビジュアル(出典:Public dots & Company)

 

プロジェクトの概要

前段として、本稿で取り上げる「移動データを活用した地域の脱炭素化プロジェクト」の概要を紹介しましょう。

本プロジェクトは、環境省総合環境政策統括官グループ総合政策課政策企画官の黒部一隆氏が、民間企業や自治体と共に進めている取り組みで、当社(Public dots & Company)もプロジェクトマネジメントで参画しています。徒歩、自転車、自動車、電車、飛行機など、人々が日々行う移動に着目し、その様子を「データ化(見える化)」して分析することで、地域が抱える交通や都市計画の課題解決につながるヒントを得ようというものです。

 

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データ分析から立てた仮説に、ナッジ理論(行動経済学を社会に実装する一つの手法として打ち出された理論。人が強制されず、自発的に良い選択ができるように工夫して導くこと)を掛け合わせ、地域内の人々にCO2排出を抑制する移動手段への切り替えを自然に促せば、脱炭素のまち(コンパクトシティー)形成への道筋が見えてきます。このように、人々の無意識的な移動に注目したプロジェクトであることがポイントです。

 

人々の移動をデータ化する手段としては、スマートフォンのアプリ(累計1.1億ダウンロード)から取得される位置データが利用されています。これは、本プロジェクトを共創するテック系の民間企業が収集しているものであり、もちろんアプリユーザーから使用許諾を得ています。

加えて個人情報は取得していないため、法的な問題はありません。この位置データはスマホのIDとひも付いており、ユーザーの一定時間内における移動の手段や方向などが把握できます。

 

このように、いわゆるビッグデータを取得できる地合いは整ったわけですが、それを自治体が抱えるどのような課題に活用していくのか。取得したデータをどのように理解し、どう政策に落とし込んでいくのか。

そもそものテーマ設定や、仮説・検証を繰り返しながら打ち手を導き出すプロセスには正解がありません。ここが本プロジェクトで最も「脳に汗をかく」ポイントであり、官民それぞれが持つナレッジ(知識)の融合と効力の発揮が期待される場面です。

 

それでは、オンライン報告会で発表された兵庫県加古川市、富山市、神奈川県小田原市の取り組みを見てみましょう。

データ分析の切り口

 

3市のテーマと現状課題、仮説、データ分析の切り口は次の通りです。

 

【加古川市】

〈テーマ〉

中心市街地の活性化と車移動から公共交通利用へのシフトに関する施策の検討

〈現状課題〉

・駅周辺来訪者の目的の把握

・駅前移転した図書館の来訪者の変化の把握

〈仮説〉

駅前商業施設と近隣の図書館や河川敷を含めた中心市街地エリア一体でのにぎわいづくりが、地域経済活性化と公共交通の利用促進につながるのではないか。

〈データ分析の切り口〉

駅周辺来訪者の来訪手段、滞在場所、滞在時間を調査。また図書館の移転前後の利用者の変化を比較し、現状および図書館の駅前移転効果による市内在住者の人流変化を把握する。

 

【富山市】

〈テーマ〉

ウオーカブルな(歩きやすい、歩きたくなる、歩くのが楽しくなる)まちづくり促進のための効果的な施策の検討

〈現状課題〉

・全国的に見て車の利用比率が高く、公共交通利用へのシフトが困難

・公共公益施設が郊外に分散し、中心市街地が空洞化

〈仮説〉

人流データを詳細に分析することで、車の利用比率が高く公共交通利用へのシフトが困難な地域でも、ウオーカブルなまちづくり施策、ひいてはコンパクトシティー化を検討できるのではないか。

〈データ分析の切り口〉

中心市街地に車で訪れた人を対象に、来訪後の移動を調査。また滞在場所の可視化も行い、ウオーカブルな中心市街地にすべく施策を検討する。

 

【小田原市】

〈テーマ〉

公用車の電気自動車(EV)化と住民へのシェアリングに向けた施策の検討

〈現状課題〉

・EVカーシェアの新ステーション設置場所の選定

・住民ニーズの把握

〈仮説〉

市が所有する車をEV化し、職員が利用しない土日・祝日は住民へシェアリングを行うことで、「脱炭素」と「住民の移動の利便性向上」を両立できないか。

〈データ分析の切り口〉

休日における市所有施設周辺の自家用車低利用頻度を調査し、人流データを可視化する。

 

いずれの自治体も、「脱炭素」とともに「まちのにぎわい創出」「健康増進」「利便性の向上」など、住民の暮らしの質を高めることに重点が置かれています。

 

第2回に続く

 


【プロフィール】


2019年に現職の地方職員や元議員らが設立。官民共創事業を手掛ける。自治体と民間企業のコミュニケーション調整や各種プロジェクトの支援を通じ、社会課題解決と新たな価値創出を図っている。本メディアでは、官民共創による課題克服に向けた取り組みなどについて、事例の紹介や解説をしている。

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