自治体と企業の包括連携協定─傾向と課題(後編) 〜官民オープンイノベーションの推移とトレンド〜

株式会社Public dots & Company

2021/12/21    自治体と企業の包括連携協定─傾向と課題(前編) 〜官民オープンイノベーションの推移とトレンド〜
2021/12/24 自治体と企業の包括連携協定─傾向と課題(後編) 〜官民オープンイノベーションの推移とトレンド〜

協定を結ぶ企業の産業分類と傾向

図4:産業別 包括連携協定数と締結企業数

 

図4は、都道府県・政令市と包括連携協定を締結している企業を、産業別に分析したグラフです。

コンビニエンスストア、保険業、運輸郵便業を行う企業が、1社で多数の包括連携協定を結んでいることが分かります。また、協定を締結しているかどうかは産業分類によるところが大きく、製造業、運輸郵便業、卸売小売業、金融業、保険業が大多数です。

社会の各種インフラを担う産業が包括連携協定を結ぶ傾向が強いことが分かります。

 

図5:産業別 包括連携協定数と締結企業数

 

図5は、年度別・産業別に包括連携協定数を分類したグラフです。ここからは、協定を締結する企業の年度ごとの分布が分かります。

2013年度以前は卸売小売業が新規締結相手の大部分だったのに対し、15年度以降は金融保険業の増加が顕著に。また、運輸郵便業や製造業との締結も多く見られました。

直近の3年は情報通信業との締結が増加しており、デジタルトランスフォーメーション(DX)が広く唱えられる昨今の国内情勢が、色濃く反映されていると言えそうです。

包括連携協定の形骸化、なぜ起こる?

自治体と企業の包括連携協定について、各年度の推移や傾向をお伝えしてきました。ここで、<前編>の冒頭で述べた「包括連携協定数が減少トレンドにあるのは、その効果を自治体、企業とも実感できていないからではないか」という仮説に立ち戻りましょう。

 

官民連携を支援する弊社には自治体、民間企業の双方から「包括連携協定が思うようにワークしていない」といった相談が多く寄せられます。

これに関して本質的な原因を述べるとするならば、「自治体と企業が互いに見ている景色が全く異なるから」でしょう。

 

例えば、「地域活性化」という同じ目的を自治体と企業が共有したとしても、企業は「経済活動による利益の最大化」が根底にある組織です。

持続可能な開発目標(SDGs)やCSR(企業の社会的責任)的な観点で自治体と連携はしますが、やはり包括連携協定においても「自社のブランディングにつながる」「自治体の真のニーズがくみ取れ、新規事業展開のヒントとなる」など、経営に何かしらのプラスとなるものが享受できなければ、行動の優先順位は低くなります。

包括連携協定は、企業が無償あるいは低予算で自治体をサポートするケースがほとんどであり、なおかつ拘束力の弱い「協定」という形態の契約であるため、この傾向は顕著です。

 

一方、自治体にとって包括連携協定は、最小の財政負担で民間のリソースを借りることができる手段であるため、無意識的に企業への期待値が高まります。

手が回らない部分を企業が補完するイメージを持って、「地域活性化」というような目的を共有したりするわけですが、「双方が具体的に何をして、ギブ・アンド・テークを成り立たせるか」という点を突き詰めずに包括連携協定締結まで進んでしまうと、その後のアクションがしぼむ原因となります。

 

このように、そもそも組織風土や価値観が全く異なる自治体と企業では、「同じ言葉の裏に全く違う景色を見ている」という前提の下で、話し合いを進めていくのが望ましいでしょう。

 

今回の調査で、いったんは減少トレンドが見て取れる自治体と企業の包括連携協定ですが、複雑で多様化する社会課題を協力して解決するための最初の接点として、今後も機能することでしょう。

自治体と企業のコミュニケーションデザインは、まだまだ発展途上です。それには仕組みの面もさることながら、「互いの違いを認識、理解し、共創によって社会に新しい価値を生み出す」というマインドセット(考え方)の醸成こそが重要です。

揺らぎのあるソフトに対するアプローチとなるため、「言うは易く、行うは難し」ですが、日本のあらゆる地域の人々のウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態にあること)を高める切り札には、間違いなくなり得るでしょう。

 

本レポートの全文は、下記のURLからダウンロードできます。ご興味のある方は、ぜひアクセスしてみてください。

https://www.publicdots.com/documents/

 

(おわり)


【プロフィール】

2019年に現職の地方議員や元議員らが設立。官民共創事業や、官民共創事業をコーディネートするパブリック人材育成を手掛ける。自治体と民間企業のコミュニケーション調整や各種プロジェクトの支援を通じ、社会課題解決と新たな価値創出を図っている。

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