株式会社Public dots & Company
2021/12/21 自治体と企業の包括連携協定─傾向と課題(前編) 〜官民オープンイノベーションの推移とトレンド〜
2021/12/24 自治体と企業の包括連携協定─傾向と課題(後編) 〜官民オープンイノベーションの推移とトレンド〜
近年、地方自治体と民間企業が包括連携協定を締結する事例をよく耳にするようになりました。
包括連携協定とは、「分野を限定せずに長期的・安定的な協力関係を築く」ことを指しますが、自治体と企業の間で交わされるそれは、特に福祉や防災、まちづくりなど、地域の包括的な課題解決に関する協定であることが一般的です。
官民連携の必要性が全国的に叫ばれる中、自治体にとって企業と結ぶ包括連携協定は、不足する知見やリソース(資源)を民間から借りることができる一つの手段です。しかしながら、どの自治体がどのような産業や企業と協定を結んでいるのか、傾向が読み取れるまとまった資料がこれまで存在せず、他の自治体の動向把握に苦慮する公務員の方も多いのではないでしょうか。
そこで、株式会社Public dots & Company(パブリック・ドッツ・アンド・カンパニー)は、47都道府県と20政令指定都市が企業と結んだ包括連携協定について、過去10年をさかのぼって調査し、レポートにまとめました。
この中から本稿では、主に
「包括連携協定数の年ごとの推移」
「都道府県別・政令市別の包括連携協定数」
「包括連携協定を締結した企業の業種の傾向」
をお伝えします。いわば、官民オープンイノベーションの推移とトレンドが読み解ける内容となっています。
調査に当たっては、都道府県と政令市のホームページ、プレスリリースを参照しました。2021年6月3日時点までの各自治体の包括連携協定数、締結先企業、締結日時を調べて取りまとめました(本調査における民間企業とは、株式会社、合同会社、有限会社を指します)。
また調査上のルールとして
①同一企業が同一自治体と複数の包括連携協定を結んでいる場合、連携目的が異なる場合は別協定としてカウント、同一目的の場合は1協定としてカウントする
②それぞれ協定を結んでいた異なる2社が合併し、協定が統合された場合は、1協定としてカウントする──としました。
本稿から、今後の官民連携のヒントを得ていただければ幸いです。
※なお本稿中の「協定」の表記は、すべて包括連携協定のことを指します。レポート全文はこちらからダウンロードいただけます。▼
https://www.publicdots.com/documents/
協定数は減少トレンドの可能性
図1は、各年度の包括連携協定数を都道府県・政令市別にグラフ化したものです。
都道府県は2016年度に急激なピークを迎えて以降、減少傾向にあります。ただ、15年度以前よりも高い水準を維持しています。政令市は都道府県ほどの大きな増減がなく、19年度までは緩やかな上昇傾向となっています。
都道府県は17年度を境に、政令市は19年度を境に、減少トレンドに入っているようにも見えます。要因の一つとして、「包括連携協定の効果が自治体、企業とも実感できていない」ことが考えられます。その詳細については後述します。
ただ、新型コロナウイルス禍を発端とする加速度的な社会変容が今後、このトレンドに影響を及ぼす可能性は考慮しておきたいところです。
図2は、都道府県における包括連携協定数と企業数の累計を年度別に示したグラフです。
15年度を境に、協定数と企業数の増加率が大きくなっています。特定の企業が複数の自治体と包括連携協定を結んでいることから、協定数と企業数の差が大きくなっているのが特徴です。
一方、政令市は一定程度の増加率で、緩やかな増加傾向にあります。また都道府県と異なり、協定数と企業数に大きな差は生じていません。
企業が、広域自治体の都道府県に期待するものと、基礎自治体の政令市に期待するものが異なるのかもしれません。今後、より詳細な分析が必要となりそうです。
首長の政策傾向との関係性
図3は、都道府県別の包括連携協定数をまとめたグラフです。
多数の協定を結ぶ団体が幾つか確認できますが、平均の締結数は18です。包括連携協定の定義は自治体ごとに異なり、一部では個別連携協定と見なせるほど、限定的な分野での協定を包括連携協定と称している自治体も確認されました。
一方、政令市の平均締結数は13です。横浜は高い水準で一定しており、大阪は近年になって数字を大きく伸ばしています。
大阪は府も市も、地域政党「大阪維新の会」の躍進以降、協定数が伸びているため、政策と連動している可能性があります。ただ、その他の自治体では、一般的に首長の政策傾向と包括連携協定数の増減に強い相関関係は見られませんでした。
本調査では、各自治体のホームページの情報をリサーチしました。また本レポートの数字に誤りがないか、各自治体に確認するプロセスも経ています。そこから分かったのが
①自治体ごとに、包括連携協定についての情報公開の状況に差がある
②全庁的に協定数を把握している自治体と、そうでない自治体がある
──ことでした。
「包括連携協定について、全庁的な把握ができており、なおかつホームページ上で全庁まとめて公開している」と答えた自治体が過半数を占めますが、中には「全庁的な把握はできていないが、ホームページ上で部署によってはまとめて公開している」「全庁的な把握はできておらず、ホームページ上でもまとめて公開していない」と答えた自治体もあります。
包括連携協定の目的によって管轄部署が異なるため、官民連携の専門部署を持たない自治体の場合、全庁的な把握ができていない可能性があります。
※本稿で解説しているレポート全文はこちらからダウンロードいただけます。▼
https://www.publicdots.com/documents/
(後編に続く)
【プロフィール】
2019年に現職の地方議員や元議員らが設立。官民共創事業や、官民共創事業をコーディネートするパブリック人材育成を手掛ける。自治体と民間企業のコミュニケーション調整や各種プロジェクトの支援を通じ、社会課題解決と新たな価値創出を図っている。