株式会社Public dots & Company
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加古川市の報告
加古川市は人口減少・少子高齢化対策として、都市機能を集積し、JR加古川駅を含めた公共交通ネットワークとの有機的な連携を通じて、持続可能な都市構造へ転換することを目指しています。
市の総合計画や「加古川駅周辺地区まちづくり構想」をはじめ、駅前周辺エリアを多様な世代が滞在・活躍できる環境にするための施策が検討されてきました。具体的な整備方針として、中学・高校生が放課後に過ごすことのできる場所や、公共公益機能の整備、駅前商業機能の活性化などが挙げられます。
その中で、最も進んでいるのが市立図書館の移転です。市は現在、駅前にある大型商業施設内へ図書館機能の移転を進めています。同じ建物には市が運営する子育て支援施設なども設置され、多様な年代が過ごせる場所として設計されました。
市が本プロジェクトに取り組んだ背景には、①駅前を来訪する人たちの行動実態を把握し、今後の施策立案に当たっての基礎データにする②移転前後の図書館利用者の変化を把握し、移転の効果を可視化する──という目的があります。
さらには、分析で得られた結果を「デシディム」(Decidim=オンラインで多様な市民の意見を集め、議論を集約し、政策に結び付けるための機能を有する「参加型」民主主義プロジェクトのオンラインツール。スペインのバルセロナやフィンランドのヘルシンキなどで使われていたものを、一般社団法人コード・フォー・ジャパンが中心となって日本語化。加古川市が日本で初めて導入した)で公表し、市民からアイデアを募りながら共創型のまちづくりを進める狙いもあります。
そんな加古川市からは、次の2点について報告がありました。
(1)駅前周辺施設への立ち寄りは分散傾向
今回、移動データの収集地点の中心として設定したのは、駅東西に位置する二つの大型商業施設と、駅から最寄りの中央市民病院です。この3地点を中心に駅前エリアの人流を見える化し、分析しました。
その結果、3地点のいずれにも訪れていない人の割合が約60%であることが分かりました。自家用車の利用比率が高い同市では、かねて「駅周辺に人がとどまらない」といわれてきたようですが、それを裏付ける結果となりました(資料1)。
また、駅前周辺施設への来訪手段も車の比率が高く、徒歩圏内と言える半径2㌔の範囲からも車で訪れている様子が浮き彫りとなりました。しかし、この結果を基に「車の利用頻度はどのくらいか」「車で行く先は具体的にどこか」といった新たな検証につなげられれば、移動の代替手段を提案するヒントになるのではないかと考えられます。
(2)図書館移転は駅前周辺の回遊に効果あり
続いて、駅前商業施設内に移転した市立図書館が与えた影響ですが、こちらはポジティブな結果が報告されました。
図書館の来訪者の属性は、移転前と比べて10代から30代の割合が大きく増加しており、当初から目的としていた「多様な世代が集まる場所」の役割を担うことができていると考えられます。さらに、20代と30代の女性の利用者が増加していることも分かり、同じ建物内にある子育て支援施設との相乗効果とみることができます(資料2)。
補足データとして、図書の貸し出し履歴を新旧の図書館で比較したところ、移転後の方が児童図書の貸し出しや、学生への貸し出しが増えていることが分かりました。このことからも図書館移転の成果がうかがえます。
また図書館への来訪手段を分析した結果、車の割合が移転前と比べて5.5ポイント減少していることが分かりました。駅前周辺に図書館を移転したことで、通勤や通学で鉄道を利用している層の取り込みに成功したのではないかという仮説が立てられます。そして大型商業施設内に図書館を移転したことで、同じ建物内で買い物と図書館利用が行えるようになり、時間やCO2を含む移動コストの削減に寄与したと考えられます。
このように、図書館の駅前移転については若い世代の集まりや、周辺施設への回遊が見られるという効果を実感できたそうです。
加古川市のネクストアクション
加古川市は今回の結果を市民に公表し、デシディムを活用して市民からまちづくりのアイデアを募集しています。既に「屋根付きのベンチがあるといいのではないか」「駅周辺でレンタサイクルを運営するのはどうか」といった意見が寄せられたほか、2022年3月26日にはワークショップを開催するなど、双方向のコミュニケーションから成る共創型まちづくりの土台がつくられつつあります。
今回の取り組みからは「駅前に商業施設などを立地させただけでは、なかなか移動手段の変容までには至らない」とする課題も見えてきました。駅前周辺を車で訪れる人は6割に上ります。得られたデータを活用しつつ、「駅前中心市街地の活性化」「車移動から公共交通利用へのシフト」の両軸を捉えた施策の検討が今後も続けられます。
感覚の可視化は重要
今回の報告会で、加古川市から「今まで感覚でしか捉えられていなかったことが可視化されたのは、非常に影響が大きい」とのコメントを頂きました。人の動きが活発なのはどの場所なのか、土日と平日または時間帯で動きに違いが出るのかなど、地図上にデータを落とし込みながら確認することで、市民生活の輪郭が少しずつ見えてきたとのことです。
EBPMは仮説と検証を繰り返すことで精度が高まっていきます。次回は富山市と小田原市の取り組みを紹介します。
(第3回に続く)
【プロフィール】
2019年に現職の地方職員や元議員らが設立。官民共創事業を手掛ける。自治体と民間企業のコミュニケーション調整や各種プロジェクトの支援を通じ、社会課題解決と新たな価値創出を図っている。本メディアでは、官民共創による課題克服に向けた取り組みなどについて、事例の紹介や解説をしている。