職員自らが考える現場から生まれた政策のアウトカム ~桑原悠・新潟県津南町長インタビュー(4)~

桑原悠・新潟県津南町長
(聞き手)株式会社Public dots & Company

 

2021/11/17  性別にとらわれず「その人らしい強み」が生かせる場を ~桑原悠・新潟県津南町長インタビュー(1)~
2021/11/19  性別にとらわれず「その人らしい強み」が生かせる場を ~桑原悠・新潟県津南町長インタビュー(2)~
2021/11/22  職員自らが考える現場から生まれた政策のアウトカム ~桑原悠・新潟県津南町長インタビュー(3)~
2021/11/25     職員自らが考える現場から生まれた政策のアウトカム ~桑原悠・新潟県津南町長インタビュー(4)~

 

農業と通信の基盤整備、国に直接提案

PdC 政策のアウトカムをどう理解してもらうか、実感してもらうかというのは、町の魅力を伝える一つのポイントになるかもしれませんね。

コロナ禍で、関東圏では「豊かさ」に対する価値観がずいぶん変わってきているように感じます。津南町のように、教育面の支援が充実していて自然環境も豊かな土地に、今後は注目が集まるように思います。

これはあくまでも都心から見ての価値観になりますが、桑原町長から見て、これからの社会変容をどのように捉えていますか?

桑原町長 確かに都会の「密」な環境から、そうでない地方へ目が向くのではないかといわれていますよね。それはそれでチャンスだとは感じますが、すぐに効果が出るとは思っていません。タイムラグがあると思っています。ですが、コロナ禍は今の学生や子どもたちに大きな影響を与えましたので、彼らが今後の人生の選択肢を決める際、その道の一つとなれるよう、地道に町の魅力づくりをしています。

津南町の強みの話をしますと今、コロナ禍からの復興で世界的に話題になっている「グリーン・リカバリー(新型コロナ感染症を含む、新たな動物由来感染症の発症原因となった森林破壊を防ぐとともに、地球温暖化の防止や生物多様性の保全を実現するためのエネルギー政策や経済政策などのこと)」の流れに乗っています。

津南町は水力発電などで、電力を自給できる町なんです。豪雪地帯で毎年3メートルほど雪が降るので、その豊かな水資源を使った国内最大級の東京電力の水力発電所があります。また、農業用の導水路の落差を活用した町直営の小水力発電も行っており、再生可能エネルギーの自給率は約90%、大規模水力発電と合わせると電力自給率は数百%になります。

 

農業用の調整池を利用した小水力発電所(出典:桑原町長公式Twitter)

 

それから、農業の町ですから食料自給率も高く、300%を超えています。これは新潟県では1位ですし、全国でもトップクラスです。こういう津南町ならではの強みを軸に、いろいろな面白い施策を展開できたらいいなと思っています。

すでに下準備をしている分野もあります。例えば、農業の基盤整備とともに通信環境の基盤整備も進めています。2020年度から21年度にかけて、スマート農業実証プロジェクトを行っており、ドローン(小型無人機)やラジコン除草機などのスマート農業機械を試験的に導入しています。

農業と通信の掛け合わせは、鳥獣被害対策やお年寄りと子どもの見守りにも役立ちますし、そこから新たなビジネスが生まれる可能性も秘めています。農地の通信環境整備は、以前から国に提案していたものです。

 

スマート農業実証プロジェクトの取り組みの一つであるロボットトラクターの実演(出典:津南町Webサイト)

 

PdC 国へは、どのようなプロセスで提案したのですか?

桑原町長 土地改良長期計画の策定の際に農林水産省の地方ヒアリングがありましたので、そのタイミングで提案しました。
「スマート農業を進めるためには、通信環境をセットにした基盤整備が必要です」と。やはり、一つの町だけで新しいことをするのは財政的に難しいことも多いので、国や県の力を借りながら、協力を得られる形をつくることが大切だと思います。

 

世界の潮流を捉えた地方自治を

PdC 桑原町長は、町議会議員を経て町長を務めているからかもしれませんが、町政の現場も社会全体も非常によく見ていらっしゃるという印象を受けます。その視点で見たとき、これからの地方都市の姿はどう映っているのでしょうか?

桑原町長 人口減少や産業の衰退に関する危機感は、どこの地方自治体も持っていますよね。ただ現状に打ちひしがれずに、「私たちの自治体にはこんな強みがあるから、そこを伸ばしていけばいいじゃないか」と、前に進むしかないと思います。

今、国内政治は国際政治に大きく左右されるようになってきています。例えば脱炭素もそうですし、人権に関する施策もそうです。世界の潮流に乗るということはとても重要なことだと思いますので、私たちのような地方の政治の世界も、大きな流れを見ながら自分たちが講じる策を考える時代になったと思います。

 

PdC 日本には約1700の自治体がありますが、その大半は人口の少ない地方自治体です。まさに今、人口減少や産業の衰退に切迫感を覚えるところも多いのではないかと思います。人口約9100人の津南町長の立場から、何かメッセージはございますか?

桑原町長 コロナ禍で少子化がさらに顕著になりました。一方でコロナ禍は、東京一極集中から地方への分散という流れも生み出していると思います。ですから津南町は、国内を広く見渡したときに住む場所の新たな選択肢となるべく、政策を充実させたり、強みや特徴を打ち出したり、自然の厳しさも隠すことなく提示できればと思っています。そうやって町の姿をたくさんの方に知っていただき、「安心して暮らせる町だ」と思っていただくことが、持続可能性につながるのではないでしょうか。

津南町も人口減少に直面していますが、若手職員のチームや幹部の経験値もミックスしながら日々、試行錯誤して頑張っています。

 

【編集後記】
桑原町長のウェブサイトには、座右の銘として「頭はグローバルに、足は大地に」という言葉が掲載されています。世界的な潮流を捉えつつも、しっかりと町の現状や特性を把握した町政運営をしている様子は、まさに座右の銘を体現していると感じました。

インタビューで「分かりにくい」と表現された桑原町長のリーダーシップですが、複雑多様化する社会課題を前にしたとき、「指示を待つ組織」よりも「全体が考えることのできる組織」である方が、解決への突破口が見つかる可能性は高いと言えるでしょう。津南町の職員の皆さんが自然と考えるようになったというのは、「分かりにくいリーダーシップ」による成果なのかもしれません。

全国最年少の女性町長ということもあり、各種メディアに登場する機会も多い桑原氏。これからのご活躍が大いに期待されます。

 


【プロフィール】

桑原 悠(くわばら・はるか)
新潟県津南町長

1986年生まれ。新潟県津南町出身。2009年、早稲田大社会科学部卒業。12年、東京大公共政策大学院修了。大学院在学時の11年に津南町議会議員選挙に立候補し、トップ当選を果たす。町議会議員2期目の18年に町長選に立候補し、当選。全国最年少の女性町長となる。

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