性別にとらわれず「その人らしい強み」が生かせる場を ~桑原悠・新潟県津南町長インタビュー(1)~

桑原悠・新潟県津南町長
(聞き手)株式会社Public dots & Company

 

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持続可能な自治体運営に積極的に取り組む首長のビジョンや具体的施策を伺う本インタビュー企画。今回は、全国最年少の女性町長である新潟県津南町の桑原悠町長の声をお届けします。

内閣府の男女共同参画局が発表した「女性の政治参画マップ2021」によると、2020年12月31日時点で日本の女性首長は36人。全国約1700ある自治体のうちの36人ですから、その割合は約2%です。政治の女性参画の割合が欧米諸国に比べて大幅に低い日本では、政治の舞台そのものが女性にフィットしていない側面も見受けられます。

そんな中、35歳の女性で、しかも2人のお子さんの母でもある桑原町長は、どのような考えを持って政治に向き合っているのでしょうか?本稿では、全国的にも希少である女性首長という立場から見た地方自治の姿について詳しく伺います。(聞き手=Public dots & Company)

女性の政治参画に難しさを感じた体験

PdC まず伺いたいのが、全国最年少の女性町長を務めていらっしゃる上での所感です。議会というのは慣習を重んじる傾向があるので、その中で若い女性が町長として采配を振るっていくのに難しさを感じる面や、もちろんポジティブに捉えられる面もあったかと思います。その辺りはいかがでしょうか?

桑原町長 議会というのは制度上も含めて振り返ると、明治時代以来の歴史と伝統を重ねてきた場だと思います。確かに女性であることや若年層であること故に難しい場面は多々ありますが、それでも自分に与えられた力の範囲で最大限できることをやることで、きょうまでたどり着いている感覚があります。

日々課題はあるものの、あまりそこだけに意識をとらわれ過ぎずに、自分が掲げている政策や理想の津南町の姿を実現するために一生懸命、公務に取り組んでいます。

 

PdC 差し支えなければ、具体的にどんな場面で難しさを感じたのか教えていただけますか?

桑原町長 私は町議会議員の時に出産を経験しましたが、女性議員の出産自体が町政史上初めてのことでした。今では全国の自治体が会議規則を改正していますが、当時はまだ出産が病気として扱われており、女性が議会に参画する前提条件さえ整っていないように感じました。ですから結婚や出産に向き合った際には、「議会の中では私はマイノリティーなのではないか?」と感じていた記憶があります。

どうしても違和感が拭えなかったものですから、当時の議員の方や議会運営委員長に「出産が病気扱いになることに強い違和感がある」と伝えてみました。すると、議会運営委員長が「これからあなたのように出産する女性議員が現れることは十分想定されるから、会議規則を変えよう」とおっしゃって、実際に規則が変わりました。

 

PdC それは何年くらい前のお話ですか?

桑原町長 確か2015年ですので、6年前ですね。

 

PdC その頃はちょうど全国的にも会議規則の改変があるかないか、自治体ごとにばらつきが出た時代ですね。

桑原町長 そうだったと思います。それからもう一つ難しさと言いますか、女性であるが故に言われるのだろうと感じたことは、夜の会合に出ている際に「子どもを見ていなくても大丈夫なのか?」と心配されることですね。

 

PdC つまり会合に出たとしても、そのように心配されますし、仮に出なかったとしても何か言われるであろうということですね。

桑原町長 そう思います。

 

PdC 社会には既成概念が多く存在します。「男性はこうあるべきだ」「女性はこうあるべきだ」「若者は、年配者は……」というように。そういうフレーム(枠組み)に照らし合わせて人を見る傾向がやはり強いと思いますから、特に桑原町長のような若い女性が活動のしにくさを感じる場面は多々あるでしょうね。それは恐らく、男性が気付いていないところにたくさんあると思います。ちなみに、町長に就任されてからはいかがですか?

桑原町長 町長選挙に出馬する際は「小さい子どもがいるのに母親が忙しくなってはかわいそうだ」と言われることもありました。けれども町長になってからは、不思議とそのようなご意見は頂かなくなりましたね。町長になったからには、しっかり手綱を取ってくださいと思われたのかもしれません。

 

町長公式Webサイトでは育児中ならではの画像が (出典:桑原はるか公式Webサイト)

 

「その人らしさ」が十分に発揮できる環境を

PdC お子さんが急に熱を出したりすることも考えられますが、そのときはどのように対応されるのですか?

桑原町長 家族に看病を頼むこともありますし、副町長以下の職員に仕事を任せて早めに帰宅することもあります。ケース・バイ・ケースで柔軟に対応しています。

 

PdC 桑原町長のそのような働き方は、職員の働き方にも影響しているのではないですか?

桑原町長 私の影響かどうかは分かりませんが、世の中的にワークライフバランスや男性の育児参画の流れが来ていると思いますので、男性職員で育児休暇を取得する方は増えました。津南町役場は、もともと柔軟に働ける環境ではあると思います。

 

PdC 少し抽象的な質問になりますが、桑原町長は「公平」や「平等」というものについて、どのような捉え方をされているのか、伺ってもよろしいでしょうか?

男性と女性は体のリズムが違います。男性の場合、極端な話、ずっと走り続けられるでしょうが、女性の場合、パフォーマンスが落ちてしまう期間が定期的に訪れる方も多いです。その前提条件の下の男女平等とは、単純に働く機会を平等にするだけではなく、その前段階の差分を埋めるところから始めるべきではないかと思うのですが。

桑原町長 男性と女性では当然、体力差があります。そして女性は、月経によるバイオリズムに影響されやすいことも確かです。その事実は受け入れつつ、女性でも男性でも「その人らしい強み」が生かせる場が提供されること、これが平等ではないかと思います。

職員一人ひとりにも適性があります。人前で話すことが得意な方であれば、プロモーションビデオに出るとか、コツコツ行う作業が得意な方であれば、事務作業を着実にこなしていただくなど、それぞれの人の強みを生かせば素晴らしい組織になると思います。

性別は関係なく、「その人らしさ」が十分に発揮できる環境をいかに整えられるか? に尽きると思います。

 

PdC 答えにくい質問に答えていただき、ありがとうございます。このインタビュー企画に登場してくださる首長は圧倒的に男性の方が多いので、桑原町長には女性視点での意見を伺ってみたかったのです。

桑原町長 これまではあくまで私の体験をお話ししてきましたが、もしかしたら男性の首長の方が、厳しさや難しさを感じることが多いかもしれないとも思います。

私は数少ない女性首長ということもあり、政府の会議に何度かお招きいただいたことがあります。今のところ、数が少ない女性首長だからこその強みは感じています。

 

PdC そういう捉え方も確かにできますね。

桑原町長 はい、メリットとデメリットは両方あります。町民の皆さまに対して出すメッセージが柔らかく受け取ってもらいやすいというのも、女性首長ならではのメリットだと思います。

 

第2回に続く


【プロフィール】

桑原 悠(くわばら・はるか)
新潟県津南町長

1986年生まれ。新潟県津南町出身。2009年、早稲田大社会科学部卒業。12年、東京大公共政策大学院修了。大学院在学時の11年に津南町議会議員選挙に立候補し、トップ当選を果たす。町議会議員2期目の18年に町長選に立候補し、当選。全国最年少の女性町長となる。

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