政治は結果がすべて、まちづくりは道半ば~髙橋大・秋田県横手市長インタビュー(1)~

秋田県横手市長 髙橋大
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2023/11/29 政治は結果がすべて、まちづくりは道半ば~髙橋大・秋田県横手市長インタビュー(1)~
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総務省が7月に公表した住民基本台帳に基づく2023年1月1日現在の日本人の総人口は、前年比0.65%(80万523人)減の1億2242万3038人でした。14年連続で前年を下回り、減少幅は過去最大です。また、沖縄県が日本に復帰して調査対象に加わって以来初めて、全都道府県が減少となりました。

都道府県別に見ると、減少率が最も高かったのは秋田(1.71%減の93万6509人)です。全国でもとりわけ厳しい局面にある秋田県の自治体は、緊急かつ重要な課題として、まちの持続可能性を探る取り組みを進める必要があるでしょう。

そこで今回は、同県横手市の髙橋大市長にお話を伺いました。就任から10年、どのような考え方で人口減少対策に取り組んできたのでしょうか。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

就任直後からスピード改革

小田 髙橋市長は13年10月に就任されました。当時の市長選では、現職と接戦を繰り広げた末に初当選を勝ち取ったそうですが、どのような思いで選挙に挑まれたのですか?

髙橋市長 当時から人口減少について、非常に強い危機感を抱いていました。ですから、前市長の政策について「安全運転だ」と批判しました。相手をおとしめるつもりで主張したのではありません。石橋をたたき、他自治体と横並びのような政策を進めるだけでは横手市は生き残れない、そう感じたが故の訴えでした。この危機感は今でもあります。

 

小田 市議を経ての就任でしたから、市役所の内情はよく理解されていたでしょう。組織運営のスタートは、比較的スムーズだったのではないかと推察しますが。

髙橋市長 前市長に対して信頼や恩義を感じていた職員は、私に抵抗感があったのではないかと思います。やはり皆、人間ですから。業務はきちんと遂行されていましたが、私を慕っていたかどうかは定かではありません。それでも市に対する危機感の方が強かったので、全く気にせず、政策を推し進めました。

 

小田 まず何に着手されたのですか?

髙橋市長 三つあります。まず市役所本庁舎の引っ越しです。横手市は05年10月に1市5町2村が合併した後、分庁方式を採っていましたが、それは昨今のコンパクトシティーの流れと逆行するような形でした。そこで、市民の利便性を向上させるためには本庁舎機能の集約が必要だと考え、市長室の他、幾つかの部署の移転を実行しました。

次に組織機構の再編です。農林部を新設しました。市の基幹産業である農業について「作る、食べる、提供する」を一連のプロセスと捉えて振興できるよう、農業政策課、農業振興課、農林整備課、マーケティング推進課、実験農場、地域価値創造戦略室を配置する構成にしました。

三つ目は、いわゆる新たな「道の駅構想」の取りやめです。農業振興と食育を目的とした拠点を新設する話が進んでいましたが、既存施設を利活用する方向に軌道修正しました。これらは就任から半年後に実施すると表明し、着手しました。

 

小田 就任当初から大胆に判断し、改革を断行したのですね。議会から反対意見は出なかったのでしょうか?

髙橋市長 特に本庁舎の移転は特別多数議決案件ですから、議会の3分の2以上の賛成がないと承認されません。しかし、いずれの施策も就任直後にスピーディーに提案したことが評価されたのか、承認を頂くことができました。

 

小田 髙橋市長のスピード感で実現した施策なのですね。

髙橋市長 そのうちに「市長のスピードにはついていけない」という反対意見も出るようになりましたが、先ほども述べた通り、石橋をたたき、法定速度で安全運転するようなスピード感では、横手市の未来は危ういと思っています。クラッシュするかしないかという、ぎりぎりのラインに挑戦していかなければならないという危機感があります。

 

小田 都市部から離れるほど、情報の伝わる速度が遅くなります。故に、多くの自治体は政策のスピード感が課題となっています。決して何もしていないわけではありませんが、相対的なスピードで差がついており、結果的に都市部に比べ、まちづくりが進まないように見えます。髙橋市長はその点、非常にスピード感を重視していますが、やはり危機感の根底にあるのは人口減少でしょうか?

髙橋市長 明らかに、恐ろしいと感じるくらいに人口が減っていると受け止めています。「平成の大合併」時に約10万7000人だった市の人口が、現在は約8万3000人です。20年間で2万4000人減少しました。少子高齢化も進んでいます。出生数は10年ほど前の約半分です。この流れを変えることは難しいかもしれませんが、何とかあらがっていかなければと考えています。

 

小田 市長就任から10年がたちましたが、何か兆しは見えてきましたか?

髙橋市長 ようやく成果の糸口になり得るような動きはつくれてきたという実感はありますが、人口減少のトレンドに変化の兆しはありません。私は、政治は結果がすべてだと思っています。成果が挙がっていなければ、施策を行っていないのと同じだと考えていますので、そういう意味では忸怩たる思いです。

 

子育て支援と企業誘致、10年前から推進

小田 とはいえ、横手市は子育て環境の整備や産業振興など、手を打つべきところはしっかりと打っていますね。

髙橋市長 子育て支援策は近年、にわかに世間に出てきた話題ですが、横手市は10年前から積極的に行ってきました。待機児童は10年以上ゼロですし、小中学校の統廃合で学習環境も充実しています。子育てが初めての方でも安心して暮らせるよう、「ファミリー・サポート・センター」という会員制のコミュニティーを運営しており、子育てに関して支援を受けたい人と、支援を行いたい人が助け合えるようになっています。

市内での子育てに関するポータルサイト「はぐはぐ」写真)では、イベントなどの新着情報や子育てに関係する手続きを確認できるほか、相談窓口も設置しています。また今年8月から、所得制限を設けずに高校生までのお子さんの医療費を無料にしました。

 

(写真)横手市の子育て情報サイト「はぐはぐ」(出典:同市)

 

小田 企業誘致を進めていますが、市長も自ら積極的に働き掛けてきたのですか?

髙橋市長 雇用の受け皿をつくろうと、営業活動に励んできたつもりです。就任してから、これまでに15社を誘致しました。直近ではイリソ電子工業株式会社、トヨタ自動車グループの株式会社東海理化トウホクの工場建設が進んでいます。横手市は内陸部の盆地の中心に位置するので、巨大な鉄鋼や船舶を扱うなどといったことはできません。細かなものづくりが中心とならざるを得ない環境なのですが、世界の有力な企業とも渡り合えるような企業が進出して来ています。

 

小田 雇用の受け皿と子育てしやすい環境は、地域に人が定住する上で欠かせない要素です。そのどちらもバランスよく整えているのですね。

髙橋市長 工場の集積地帯をつくることに関しては、必ず実現させるとの強い意思で取り組んできました()。少しずつ形ができ、1人当たりの工業生産額も伸びつつあります。

また、もともと市内で経営を続けてきた地元企業も、誘致した企業と連携したり刺激を受けたりして、厳しい時代ながらも成長し続けるところがたくさんあります。将来の子どもたちが横手市でしっかりと稼ぎ、余暇を楽しむこともできる、充実して暮らせる、そんな土台が徐々にできつつあると思っています。

 

(図)工業団地では企業立地が進む(出典:横手市工業団地パンフレット)

 

小田 子どもたちが自分の住むまちに愛着を持つことは、何よりも大きな価値です。

髙橋市長 親が子どもに「このまちには何もないから都会に出た方がいい」と教育するケースも少なくないと思います。ですから、子どもたちには市内の企業の魅力をどんどん紹介するとともに、親御さんにも「横手の産業もまんざらではない」と知っていただく必要があります。

親子で「ゆくゆくは市内の企業に勤めたい」と希望していただけるよう、産業の成長には今後も注力していきます。過疎地域とはいえ、人も技術も胸を張って紹介できるような、そういう横手でありたいし、それに挑む企業は積極的に応援していきたいと考えています。

 

小田 先ほど「成果が挙がっていなければ、施策を行っていないのと同じだ」と厳しい自己評価をされました。しかし市長選の結果を見ると、初回こそ接戦だったものの、2回目と3回目は大きな支持を得て当選しています。髙橋市長の政策が受け入れられている証拠ではないでしょうか。

髙橋市長 おかげさまで投票者の3分の2以上のご支持を頂きました。「優・良・可」で例えるならば、何とか「可」を頂けているのではないかと思います。しかし、やはり政治は結果がすべてですから、現状に満足はしていません。

 

小田 髙橋市長の理想とする「結果」とは、どのようなものですか?

髙橋市長 向こう100年、200年と持続可能で、盤石なまちにすることです。そういう横手市をつくりたいのですが、まだ道半ばと言わざるを得ません。この10年でたどり着きたかった姿にも到達していませんから、まだまだこれからといったところです。

 

第2回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年10月23日号

 


【プロフィール】

秋田県横手市長・髙橋 大(たかはし だい)

1976年生まれ。秋田県十文字町(現・横手市)出身。秋田経済法科大(現ノースアジア大)経卒。東京の商事会社勤務、十文字町議、横手市議を経て、2013年10月横手市長に初当選し、現在3期目。

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