DXで住みよいまち、働きやすい市役所へ~小笠原春一・北海道登別市長インタビュー(4)~

北海道登別市長 小笠原春一
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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目指すは「市民のための市役所」

小田 前回(第2回、第3回参照)も触れましたが、登別市はDX推進計画で「デジタルで『住みよいまちへ』、『働きやすい市役所へ』」を基本方針に掲げています。市民が中心の基本方針はよく見掛けますが、登別市の場合は職員の働きやすさも柱の一つに据えている点が印象的です。

小笠原市長 市民や民間企業にDXを推進していただくためには、まずは市の職員が本気で取り組み、その姿を見せることが大切です。そういう意味で「働きやすい市役所」というフレーズを入れました。市が本気でDXに取り組めば、それを見た市民や、観光やビジネスで市を訪れた人たちと協働が進むと考えています。

 

小田 26年度に竣工予定の新庁舎は、DXを前提としたデザインになるのですか?

小笠原市長 はい。フリーアドレスやABW(Activity Based Working=仕事内容やそのときの気分に合わせ、働く場所や時間を自由に選ぶこと)を導入し、職員の作業効率アップや交流促進を図るほか、市民がよりスムーズに行政手続きを行えるよう、オンラインも併用したワンストップ窓口化の取り組みも進んでいます(写真)。

当然、新たな取り組みであるとともに、既存の事務の仕組みを大きく転換するものですから、一部の職員からは慎重な意見が出ることもあります。しかし、本庁舎の移転やコロナ禍という大きな目標・課題を共有しているので、おおむね順調に進められていると考えています。

 

(写真)新庁舎の執務環境デザイン(出典:登別市)

 

小田 従来の市役所とは全く違う姿になりそうですね。

小笠原市長 私は職員に「これからの市役所は『市民のための市役所』だ」と伝えています。市民の中には、夕方以降にやっと自分の時間が取れる方もいらっしゃるでしょう。それを考えると、夜間も自由に出入りできる庁舎の方が使い勝手が良いはずです。

ですから私は、一部のエリアについては午後10時まで使えるようにしたいと考えています。なおかつ、そうした場所にはコンセントやUSBの差し込み口を整備し、柔軟に利用いただけるようにする予定です。

 

課題に向き合い、丁寧に会話する

小田 DXの取り組みについて、さらりとお話しされていますが、人材育成と組織づくりが十分に行われていなければ進められない内容だと思います。組織をまとめるために、首長として日頃から何を意識しているのですか?

小笠原市長 まちづくりを進める上ではさまざまな課題に直面します。もちろん社会情勢の変化に適切に対応することも求められます。そんな中、私自身は何事においても一人の人間として、しっかりと課題に向き合い、相手が職員であっても市民であっても丁寧に会話し、その時点でのベストを考え抜いてきました。

DXは何らかの課題に対し、デジタル技術を活用して解決しようという取り組みです。その課題とは一体、何なのか。どこに活路を見いだせるのか。人と向き合い、丁寧なコミュニケーションを通じ、答えを見つけていくという姿勢はこれからも変わりません。

 

小田 小笠原市長が「課題や人に真摯に向き合う姿勢」を見せるからこそ、職員もそれに呼応するような働きをするのでしょうね。

小笠原市長 私は切れ者ではありませんが、観察力はある方だと思っています。いろいろな場所で見たことを割と覚えており、職員に「こんなことができないか」と持ち掛けて議論することがよくあります。職員は私の話にしっかり耳を傾けてくれますし、その後も真剣に調査して実現まで持っていってくれます。本当にありがたく思います。

 

小田 職員の皆さんと着実に信頼関係を築いてきた様子がよく伝わってきます。

小笠原市長 私の就任以前は、次長以上の職責の者しか市長室を訪れることができませんでした。情報も担当職員から始まって係長、課長、次長、部長と順番に上げていかなければならず、硬さのある組織だったように感じます。

私が市長になってからは、そのルールを変えました。役職にかかわらず、起案者であれば誰でも市長室に相談に来られるようにしました。決裁書類は順番に通していくものの、相談であれば私や副市長に直接していただいて構わないというルールにしたのです。すると、職員との心の距離が近くなりました。職員が今、現場で懸命に動いてくれるのは、こうした組織風土が少しずつ浸透してきたからではないかと思います。

 

小田 最後に、今後の展望について伺います。

小笠原市長 風通しの良い組織風土がつくられてきた一方で、デジタル人材の育成という点はまだ道半ばだと考えています。すべての職員にとって、デジタルを当たり前のものにしたい。DXの取り組みを進めるためには特定の部署や職員だけでなく、すべての部署・職員が当事者意識を持つことが必要です。そのためにはデジタル人材の育成が急務であると認識しています。

昨年度から、幹部や若手など階層別にDX研修を行ってきました。今年度も引き続き研修を行い、人材育成に注力していきます。

 

【編集後記】

今回は、登別市におけるDXの取り組みについて、具体的なプロセスも含めて伺うことができました。デジタル技術にたけた職員がいるということは、DXを推進する上でアドバンテージになるでしょう。しかし、それだけで事は運びません。

誰のためにやるのか。何のためにやるのか。その答えを求め、丁寧に人と課題に向き合い続けるからこそ、具体的な施策が臨場感を帯びてきます。

26年度に「市民のための市役所」がどのような姿を見せるのか、楽しみです。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年10月16日号

 


【プロフィール】

北海道登別市長・小笠原 春一(おがさわら はるいち)

1967年生まれ。北海道登別市出身。東京農業大農卒。民間企業の専務取締役を務める傍ら、登別室蘭青年会議所理事長などを歴任。2008年登別市長に初当選し、現在4期目。

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