DXで住みよいまち、働きやすい市役所へ~小笠原春一・北海道登別市長インタビュー(3)~

北海道登別市長 小笠原春一
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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第1回第2回に引き続き、北海道登別市の小笠原春一市長のインタビューをお届けします(写真1)。

同市は新しい市役所の本庁舎が2026年度に竣工するのを機に、デジタルトランスフォーメーション(DX)をさらに推進する方針です。どのような取り組みを行っているのでしょうか。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

「どこでも執務できる環境」を整備

小田 前回(第2回参照)、DXの先進的な取り組みについて伺いました。

「ペーパレス」「窓口の改善」「事務の改善」という三つの軸で進め、このうち「ペーパレス」では、自治体専用回線「LGWAN」の一部の無線LAN化、電子決裁システムの導入による押印文化の廃止、自治体テレワークシステムの活用、内線電話のスマートフォン化を行い、「どこでも執務できる環境」を整備したとのことでした。まずは、その背景にあった課題から伺います。

小笠原市長 テレワークの導入は、私の中では長年の課題でした。決裁者が出張などで不在になると、途端に業務が停滞してしまうからです。そんな中、新型コロナウイルスの感染拡大で、働き方に対する従来の意識を大きく変えなければならない状況に至りました。

当初は時差出勤や分散執務で対応していましたが、事務効率は芳しくありませんでした。これは働き方を根本的に変える必要があると感じました。そこでコロナ禍を契機として、テレワークに限らず、「どこでも執務できる環境」の整備を進めることにしました。

 

小田 職員から、どんな声が上がりましたか?

小笠原市長 「上司と部下、同僚間のコミュニケーションをどう確保していくのか?」「紙で起案し、決裁挟みに入れて持ち運び、印鑑を押していくという従来の意思決定手法は、コロナ禍において適切なのか?」などです。本市に限らず、多くの自治体における従来の働き方は、テレワークとの親和性が著しく低いものです。それをどうクリアしていくかが課題でした。

 

写真)小笠原市長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

元IT企業勤務の職員が率先

小田 DXを推進するに当たり、外部の専門人材と連携されたのでしょうか?

小笠原市長 DXを所管する部署が中心となって進めました。その中にIT企業に勤めた経験を持つ職員がおり、課題に十分に対応できる知識や技術、ノウハウを持っていました。

 

小田 「どこでも執務できる環境」の整備は、具体的にどのように進めていったのでしょうか?

小笠原市長 まずはデスクトップ型パソコン(PC)からの脱却です。自分の机に縛られる要因の一つであるデスクトップ型PCから、ノート型PCへの移行を加速させました。今年度は、保育士や消防士を除いた正職員すべてにノート型PCを配備しています。

次に、庁内のどこからでも庁内ネットワークにアクセスできるよう、LGWANの一部を無線LAN化しました。これで会議や打ち合わせの際に紙の資料を印刷して持ち歩くことが少なくなり、ペーパレスでの開催頻度が極めて高くなりました。今では市議会のご理解もあり、議案などについてもデジタル化が完了しています。また、市議会でもペーパレス化が完了しています。

内線電話については、固定電話の大半を廃止し、職員に公用のスマホを貸与することにしました。これで離席時や外勤時、コロナ感染拡大防止を目的とした分散勤務やテレワークのときなど、どこにいても職員同士が直接連絡を取り合うことができるようになりました。電話の取り次ぎが大幅に減少し、業務効率化にもつながっています。

さらに、将来的な電子申請環境の整備を視野に入れ、市民や事業者、団体などから提出される行政手続きに関する書類は、原則として押印廃止にしました。このようにペーパレス化や電子申請の素地をしっかりと固めた上で、文書管理、庶務事務、財務会計システムで電子決裁を導入しました。この結果、意思決定が迅速に行えるようになりました。現在の文書管理システムにおける電子決裁率は約98%です。

ここまで整備したタイミングで、地方公共団体情報システム機構(J─LIS)から提供された自治体テレワークシステムを使い、試行的にテレワークを導入しました。現時点では延べ約1700人の職員がテレワークを利用しています。

 

小田 まるでIT系の民間企業のような環境ですね。どのような変化がありましたか?

小笠原市長 まず自治体テレワークシステムを活用したことで、あらゆる場所から庁内にある自分のPCを操作することができるようになりました。押印文化の廃止も業務効率化につながっています。例えばメールで受領した請求書に基づき支払い伝票を起こす際、職員は一度も紙に触れることはありません。すべて電子的に決裁を受けることができています。

私自身も出張で長期間、市役所を不在にすることがありますが、出張先や移動中にテレワークシステムと電子決裁システムを活用することで、庁内にいるときと同じように決裁することができます。必要に応じ、公用のスマホで職員とコミュニケーションを取ることもできます。働く場所にとらわれることなく、「どこでも執務できる環境」が整備されてきました。

 

小田 一方で、テレワークなどを導入したことに伴う課題も見えてきたのではないでしょうか?

小笠原市長 テレワークの利用頻度が部署によって偏っていることです。管理職が自らテレワークに取り組み、部下に利用を勧める部署は利用頻度が高いです。一方で若手から上司に対し、なかなかテレワークしたいとは言い出しづらいようで、部署によって温度差があります。窓口を所管する部署がテレワークを活用しづらいことは理解できますが、そうでない部署の職員に対しては、地道に意識改革を行うほかないと考えています。

別の課題としては、テレワークを行う部下の仕事の進捗状況を上司が把握しにくいことです。よって、評価が曖昧なところがあります。本来であれば部下がテレワーク中に行う業務について、あらかじめ上司と共有し、了承を得るまでの過程をシステマチックに行えるのがベストです。しかし現在は、そこまで仕組み化できていないところもあります。

 

小田 テレワークを導入した民間企業も、同様の課題を挙げることが多いです。まさに、実践したからこその所感ですね。課題解決に向け、既に着手されていることはありますか?

小笠原市長 テレワークの全庁的な推進に向け、昨年度は試行的に保育士や消防職員を除く、ほぼすべての職員に、市内の専門学校のコワーキング(共同)スペースを活用してテレワークしてもらいました。抵抗感を示す職員もいましたが、だんだん慣れてきた者や、場所を変え、自宅で子育てなど、ワーク・ライフ・バランスを確保しながらテレワークを行う者も現れるようになりました。

もちろんテレワークがすべてではありません。あくまでも手法の一つだと捉えています。ただし「どこでも執務できる環境」づくりは、働き方の多様化という観点から今後も継続していく必要があると感じています。現在もテレワークの仕組みを活用し、今後どのように職員の働き方改革を促していくのか、試行錯誤を繰り返しています。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年10月16日号

 


【プロフィール】

北海道登別市長・小笠原 春一(おがさわら はるいち)

1967年生まれ。北海道登別市出身。東京農業大農卒。民間企業の専務取締役を務める傍ら、登別室蘭青年会議所理事長などを歴任。2008年登別市長に初当選し、現在4期目。

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