災害リスクを「自助・共助・公助」で乗り越える~小笠原春一・北海道登別市長インタビュー(2)~

北海道登別市長 小笠原春一
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2023/11/06 災害リスクを「自助・共助・公助」で乗り越える~小笠原春一・北海道登別市長インタビュー(1)~
2023/11/09 災害リスクを「自助・共助・公助」で乗り越える~小笠原春一・北海道登別市長インタビュー(2)~
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2023/11/16 DXで住みよいまち、働きやすい市役所へ~小笠原春一・北海道登別市長インタビュー(4)~

 

厳冬期の災害に備える

小田 水害リスクに関しては、近年の防災訓練でも力を入れているのでしょうか?

小笠原市長 はい。日本海溝・千島海溝周辺の海溝型地震で津波が発生した際の避難の在り方について、詳細な検証を始めました。

登別市には、発災から39分で津波が到達すると想定されています。その時間内に、市民が高台に1次避難できるようにしなければなりません。そこで、まずは市が発災から5分以内に正確な情報を流せるよう、サイレンや全国瞬時警報システム(Jアラート)などの設備を整えました。これは公助に当たります。

次に、市民の自助に関する検証です。発災から30分前後で高台に避難できるかどうか、特に高齢者や障害者の方、また要介護の方にご協力いただき、歩いて避難した場合の移動可能距離を確認しました。

さて1次避難できたとして、次に襲ってくるのは寒さです。登別市が特別強化地域に指定された理由はここにあります。実は2月の真夜中に発災した場合、想定では最大約2万人の死者が出るといわれています。市の人口の半分です。この中には、1次避難はできたものの、高台で凍死する人数が含まれます。

そこで次に対策すべきは、1次避難を行った後の暖の取り方です。これは共助で乗り越えようと考えています。例えば市ができることとして、登別温泉や札幌市などに1次避難者を車両輸送する方法が考えられます。一方で郵便局や学校、高台にある民間企業の倉庫に衣類や毛布、炭を備蓄し、1次避難後になるべく短時間で暖を取れる体制の構築も進めています。

 

小田 1次避難のその先まで、入念に備える必要があるのですね。

小笠原市長 登別市は冬期の外気温が氷点下になります。この状況下で何の防寒対策も行われていない場合、大体3~4時間で凍死するといわれています。市民と共に東日本大震災以来、避難訓練を続けています。その成果もあり、8~9割の方々は津波浸水高以上の場所へ逃げられるようになりましたが、その後が勝負です。発災から共助に至るまでには1時間ほどかかるため、市民の皆さんには何とか自助で、1時間は持ちこたえてほしいと呼び掛けています。

 

小田 市民一人ひとりの防災意識の向上が重要になるのですね。

小笠原市長 自助の取り組みとして、今年9月には連合町内会の主催で全市一斉の防災避難訓練を行いました。これは連合町内会からの発案です。全市民が自主的に参加して避難訓練を実施するのは、本市では初めてのことでした。防災意識が着実に高まっていると感じます。

 

着々とDX推進

小田 新しい市役所の本庁舎竣工に合わせ、デジタルトランスフォーメーション(DX)をさらに推進するそうですね。

小笠原市長 新庁舎になることを機に、業務プロセスの見直し(BPR)やデジタル活用をさらに推し進めようとしています。DXに関する情報提供依頼(RFI)を今夏に実施し、民間事業者からアイデアを頂きました。テーマは「働き方」「コミュニケーション」「ドキュメント」「安全安心」「ネットワーク」「ファシリティ/セキュリティ」「子育て支援」の七つです。

 

小田 登別市はDX推進計画で「デジタルで『住みよいまちへ』、『働きやすい市役所へ』」を基本方針に掲げています。職員の働きやすさにも触れているのは珍しいですね。これまでにどのような取り組みをされてきたのですか?

小笠原市長 「ペーパレス」「窓口の改善」「事務の改善」という三つの軸で進めてきました(写真)。

「ペーパレス」は、どこでも執務できる環境の整備を指します。具体的にはノートパソコンの整備、自治体専用回線「LGWAN」の一部の無線LAN化、電子決裁システムの導入による押印文化の廃止、自治体テレワークシステムの活用、内線電話のスマートフォン化です。これにより職員は場所を選ばず、業務が行えるようになりました。

特にスマホの導入は、道内で最も早かったと記憶しています。北海道も同様の事業に取り組んでいますが、先進事例として本市にヒアリングを行い、スマホ導入に至ったと聞いています。

「窓口の改善」では、「待たせず書かせない手続き」を目指し、電子申請システムを導入しました。「事務の改善」では、省力化や事務改善による新しい働き方の創出を目指し、統合型地理情報システム(GIS)の導入や、音声認識システムによる録音起こしで負担軽減を図りました。

 

(写真)これまで進めてきたDXの取り組み(出典:登別市)

 

小田 新庁舎の竣工に合わせ、注力している分野は何でしょうか?

小笠原市長 行政や地域の情報化推進のためには、さまざまな取り組みを同時並行的に進めていく必要があります。ですからテーマを絞るのは難しいのですが、あえて言うなら今年度、特に注力していることは二つです。

一つ目はBPRです。一部の事務プロセスを見える化し、デジタルの活用を念頭に事務改善を模索しながら、効率化と生産性の向上に取り組みたいと考えています。職員の業務水準向上や市民の利便性向上につなげられてこそのDXです。

そのためには、デジタル技術を活用しながら業務フローを見直す必要があります。もちろん一朝一夕でうまくいくとは考えていません。DXを推進するためのマインドを職員に醸成する研修を行った上で、各部署に現在の業務で課題に感じていること、非効率に感じていること、改善の余地は感じるものの、どうしたらよいか分からないことなどをヒアリングしています。彼らの課題解決のサポートは、今年度に新設したDX推進グループが中心となって行っています。

 

二つ目はデータを活用し、根拠に基づいた政策立案や検証にシフトしていくことです。データ活用のプラットフォームとしては、先ほど触れた統合型GISを選択しました。基礎自治体にはそれぞれ地域特性があります。よって、今後さまざまな説明責任を果たす際に、統計情報と相性が良い地図情報は役に立つと感じています。

統合型GISには副次的な効果もあります。これまで紙で管理していた道路台帳や土地・家屋台帳などのデジタル化を進め、地図をベースに情報共有を行うことで、さらなるペーパレス化が図れます。また市民とも地図データに基づいた地域情報の共有が進めば、生活の中でデータを利活用していただけるでしょう。

 

小田 まさに「住みよいまち」と「働きやすい市役所」に向けたDXを構想されているのですね。

小笠原市長 市民と行政の間のさらなる情報共有に加え、市内の民間企業でのDX推進にも、自治体として取り組んでいかなければならないと感じています。まずはどういったことができるのか、対話をスタートさせています。

 

小田 職員の働きやすさを高めていく先にあるのは、本当に重要な仕事に全力を注ぐ行政の姿です。それは、いざというときの公助かもしれませんし、市民との日頃の交流活動かもしれませんね。

次回は、新庁舎の竣工に合わせて進めている先進的なDXについて深掘りします。

 

第3回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年10月2日号

 


【プロフィール】

北海道登別市長・小笠原 春一(おがさわら はるいち)

1967年生まれ。北海道登別市出身。東京農業大農卒。民間企業の専務取締役を務める傍ら、登別室蘭青年会議所理事長などを歴任。2008年登別市長に初当選し、現在4期目。

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