地方自治体における就職氷河期世代支援の進め方(2)


株式会社パブリッククロス 代表取締役
元大津市議会議員・藤井哲也

地方自治体における就職氷河期世代支援の進め方(記事一覧)
Ⅰ.就職氷河期世代支援の概要
    第1回 就職氷河期世代が生まれた社会背景
    第2回 就職氷河期世代支援に向けた動き
    第3回 就職氷河期世代の職員採用をめぐる取り組み
    第4回 就職氷河期世代支援プログラムの概要
Ⅱ.就職氷河期世代支援の問題点整理
    第5回 就職氷河期世代を活用することによって得られるメリット/就職氷河期世代支援・官民連携の取り組み
    第6回 先行モデル地域の取り組み
    第7回 施策推進における課題
Ⅲ.政策提言
    第8回 政策提言/コラム「越境的学習の効果は?」/支援事業者へのインタビュー


就職氷河期世代。一般的に1993年から2004年に学校を卒業して社会に出た世代のことを言います。昨年6月に「経済財政運営と改革の基本方針2019」(いわゆる「骨太の方針」)で、この世代に対する集中的な支援の必要性が論じられて以降、にわかに国、地方で動きが活発になってきました。なぜ今、この問題がクローズアップされてきたのかを見ていきます。第1回はこちら)

Ⅰ.就職氷河期世代支援の概要

3.就職氷河期世代支援に向けた動き

就職氷河期に初職を迎え、今不安定な就労や生活基盤にある人が多い世代のために、国や自治体はこれまでも支援に取り組んできました。2003年の小泉純一郎政権時に、骨太の方針で若年者就業支援施策が取り上げられ、厚生労働省や文部科学省など関係省庁が連携し始められたのが「若者自立・挑戦プラン」でした。

「若者自立・挑戦プラン」では、「今、若者は、チャンスに恵まれていない。高い失業率、増加する無業者、フリーター、高い離職率など、自らの可能性を高め、それを活かす場がない。このような状況が続けば、若者の職業能力の蓄積がなされず、中長期的な競争力・生産性の低下といった経済基盤の崩壊はもとより、不安定就労の増大や生活基盤の欠如による所得格差の拡大、社会保障システムの脆弱化、ひいては社会不安の増大、少子化の一層の進行等深刻な社会問題を惹起しかねない」「わが国にとって人材こそ国家の基礎であり、政府、地方自治体、教育界、産業界等が一体となった国民運動的な取り組みとして、若年者を中心とする『人材』に焦点を当てた根本的対策を早急に講じていく必要がある」として、当面3年を期間と定めて、官民一体となって総合的な人災対策が進められました。

2003年当時、200万人を超える若年フリーター、100万人規模の若年無業者。こうした若年者の就労を支援し職業能力を身に付けさせるために、ジョブカウンセリングや職業訓練、職業紹介などの機能を集約した「ジョブカフェ」と呼ばれる施設が各都道府県に設置されました。筆者もこれら一連の事業に現場で関わっていましたが、一定の成果を挙げたと評価しています。

その後はリーマン・ショック後の2009年に緊急人材育成・就職支援基金が設けられ、この基金に基づく出口一体型の職業訓練が始められ(基金訓練事業)、求職者訓練事業と名称を変えながら、就職氷河期世代を含む無業者・求職者に対する支援は進められました。この時期、雇用調整助成金など企業等を受け皿とする雇用維持のための施策も採られ、これも2010年前後の非常に厳しい労働市場の中で一定の成果があったと考えています(筆者も自身が経営する会社で雇用調整助成金を活用し、従業員の雇用を守りました)。

2016年から現在までは、「正社員転換・待遇改善実現プラン」に基づいて、不本意非正規雇用労働者の正社員転換や待遇改善のためのさまざまな取り組みが進められてきました。年次ごとに成果指標による評価がなされており、着実に不本意非正規雇用者は減ってきています。

以上見てきた通り、これまでも断続的に就職氷河期世代を含む非正規労働者や無業者の就労支援施策は実施されてきました。しかし、今なお不本意非正規労働者は推定50万人以上、長期間無業状態にいる方は40万人以上、またひきこもり状態にある方は実態が掴めてはいませんが数十万人いるとされています(図表)。

図表(出典:総務省統計局「『35~44歳』世代の就業状況」)

一人ひとりが自立して生きがいを高め、それぞれの立場で活躍していくこと、そして将来的に所得水準が低いと考えられる就職氷河期世代が老齢期に入る、2040年以降に想定される多大な社会保障経費を抑制する観点からも、この世代に対する支援の重要性が改めて着目され、先にも述べましたように、昨年6月に「骨太の方針」で取り上げられ、厚労省は同月にいち早く「就職氷河期世代支援プログラム」を公表し、7月には内閣官房に就職氷河期世代支援推進室が設置され、8月末までに翌年度事業に係る概算要求に就職氷河期世代支援事業が含められ、その後、具体的な施策検討が進められてきました。いよいよ本年4月から、3年間で30万人の正社員転換を目指す、官民連携による「就職氷河期世代支援プログラム」が始まろうとしています。

第3回に続く)

筆者プロフィール藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリッククロス代表取締役。2003年の創業以来、若年層・就職氷河期世代の就労支援に従事。2011年より大津市議会議員(滋賀県)を2期務め、地域の雇用労政や産業振興に注力して活動。株式会社ミクシィの社長室渉外担当など歴任。著書・寄稿に「就職氷河期世代の非正規ミドルを戦力化する 人事実務、マネジメント」(2019年)など多数。京都大公共政策大学院修了。1978年生まれ。

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