若者にとって誇れる地方都市にするには 〜草地博昭・静岡県磐田市長インタビュー〜(4)

草地博昭・静岡県磐田市長
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴

2021/08/17  「まちづくり」は「人づくり」、シビックプライドの醸成を 〜草地博昭・静岡県磐田市長インタビュー〜(1)
2021/08/20  「まちづくり」は「人づくり」、シビックプライドの醸成を 〜草地博昭・静岡県磐田市長インタビュー〜(2)
2021/08/23  若者にとって誇れる地方都市にするには 〜草地博昭・静岡県磐田市長インタビュー〜(3)
2021/08/26  若者にとって誇れる地方都市にするには 〜草地博昭・静岡県磐田市長インタビュー〜(4)


心の拠り所になれるようなまちに

伊藤 草地市長が「磐田市を良くしたい」と強く思うようになったきっかけは、人との出会いなのですか?

草地市長 私は愛知県の豊田高専(独立行政法人国立豊田工業高等専門学校)出身なのですが、在学中に出会った人物にとても影響を受けています。

当時、私は「学生会」という学生が主体の自治会に所属していたのですが、あるとき、複数の高専から学生会のメンバーが集い、学生自治や自らの地域について意見交換をする機会がありました。そこで出会った他校の学生が「若者がやりたいことをすることが地域を元気にすることであり、日本を元気にすること」とおっしゃっていて。その方の熱量に感銘を受けました。

私が磐田市のことを他の地域と比べたり深く考えたりするようになったのも、政治の世界に入ろうと思ったのも、その方との出会いがきっかけですね。

 

地元の高校生と、まちづくりについての意見交換をする「いわた高校生まちづくり研究所」(出典:磐田市)

 

伊藤 高専というのは、そういう地域を超えた独自のネットワークがあるのですね。交流人口から人同士のつながりの話に発展してきていますが、地域を超えた若者同士のネットワークというのは、大きな社会資本のような気がします。

草地市長 そうですね。特に高専は各都道府県に一つあるかないかの学校ですので、高専出身者というだけで、自然と強いつながりができる傾向があります。

磐田市は楽器やバイクなどを生産する製造業のまちでもあり、多くの企業には高専出身の方が働いていらっしゃいます。ですから、その方たちと話をする際「私も高専出身です」と言うと、すぐに打ち解けられる空気感はあります。
こういう、何か共通項を持った人たちのネットワークを活かしていきたいですね。

 

伊藤 今、社会全体が「個」の時代に向かっていますよね。けれども、完全なる「個」は不安だから、例えば母校のネットワークのような〝ゆるいつながり〟を、たくさんの人が求めているような気がします。

草地市長 それは私も同感です。誰しも何かしらの拠り所は求めていると思います。

それが母校のつながりかもしれないし、趣味での友達とのつながりかもしれませんが、人と穏やかにつながれるというところに、地方都市としての強みが見いだせると思います。

面白い人がいて、その方たちとゆるくつながることで「磐田はいいところだね」と思ってもらえるような。そういう場をつくっていくのが、これから磐田市も含め地方が生き残るための戦略ではないかと思います。

 

伊藤 拠り所になるようなコミュニティーが、1人に対して3カ所くらいあるとサステナブルですね。

普段は東京で暮らしているけれども、磐田市の人やコミュニティーともつながりがあって、行ったら「お帰り」と出迎えてもらえるような。そんな拠点が複数あると、自治体同士で人口を取り合うこともなくなるのではないかと思います。

草地市長 そのつながり方をつくるなら、例えば、ふるさと納税をしてくださった方に対してできることがたくさんある気がします。何かしら理由があってふるさと納税をしているはずですので。これは考える余地がありますね。

今年の4月に就任してから、とにかくコロナ対策に集中してきました。ですので、磐田市のブランディングやシビックプライド醸成に関しては、これだ!という施策がまだ固まっていないのが現状です。

それでも基盤となるのは、やはり人同士のつながりを丁寧につくることだと思っています。いろいろ試しながらにはなるでしょうが、人が起点で、人が中心のまちづくりをしていきたいです。

「答えを皆で見つけよう」と言えるリーダーシップ

伊藤 これまでのお話を伺って思ったのが、草地市長はこれからの時代のリーダー像であるということです。これまでは、政治家や首長が強いリーダーシップを発揮する半面、周りからはとにかく「明確な答え」を求められる傾向がありました。

何が正解か分からない今の時代は、どちらかというと「いろいろ試しながら、皆で答えを見つけていこう」と言えるリーダーシップの方が合う気がします。

草地市長 ありがとうございます。私はもともとそういう気質でして、子どもの頃もクラスの端の方で中心メンバーを見ていたようなタイプでした。

しかしその気質は、自分の強みであると思っています。誰もが得意分野や不得意分野を持っていますし、力の発揮できる場所も違います。ですから、行政も、市民活動団体も、市民の方々も、皆がそれぞれ頑張ることのできるフィールドで、持ち味を活かしていければいいと思っています。

私の役割は、磐田市としての大きなビジョン、「安心できるまちを目指す」と「人が集まる磐田市にする」をまち全体で共有すること。そのビジョンを達成するために行われるさまざまな方たちのアプローチを、しっかりサポートしていくことですね。

 

伊藤 そのリーダーシップは、勇気がないとできませんね。

草地市長 間違いなく言えるのは、私は万能ではないし、答えを持っているわけでもないということです。それは市長に就任して、職員に最初に伝えたことでもあります。皆でつくっていきましょうと。

その時は確か、ロールプレーイングゲームで例えましたね。誰かが勇者で、誰かが魔法使いですと。おのおの得意分野が違いますが、たった一人では戦えません。だからパーティー(目的達成のために共に進んでいく仲間)をつくって戦いましょうと伝えた記憶があります。

 

伊藤 それは若い世代の職員に響きそうですね。

草地市長 どうでしょうか。若い世代の職員の方と直接話す機会はこれからつくっていきますので、そこで話せるといいですね。

 

【編集後記】

「草地市長の磐田市に対する想いは、一体どこから湧き上がっているのだろう?」今回は終始、市長がこれまで行ってきた活動の原動力にアンテナを立て、お話を伺いました。インタビュー全体をもう一度振り返ってみると、「交流」というキーワードに集約されるように思います。

キーマンと呼べるような人との交流。「好き」や「共通点」でつながる人同士の穏やかな交流。まちが持つ強みをハブにした地域を超えての交流。草地市長が政治の道を志したきっかけが人との交流であったように「このままでは右肩下がり」といわれる地方都市の未来へ続くベクトルの方向は、さまざまなヒト・コトとの交流で変わっていくのかもしれません。

地域の課題に対して明確な答えが見つからない時代。「皆で答えを見つけに行く」の言葉からも、草地市長が市民や行政職員、各種団体との交流に重きを置いていることがうかがえます。磐田市が近い将来「何のまち」と形容されるのか、草地市長のリーダーシップとイノベーションに期待しましょう。

 

(おわり)


【プロフィール】

草地 博昭(くさち・ひろあき)
静岡県磐田市長

1981年生まれ。静岡県磐田市出身。国立豊田工業高等専門学校を卒業。NPO法人磐田市体育協会にて事務局長を務め、2013年に磐田市議会議員に初当選。以来、市議会議員を2期務め、その間、議会運営委員長、予算決算委員長、民生教育委員長を歴任。2021年4月に磐田市長に就任。

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