「まちづくり」は「人づくり」、シビックプライドの醸成を 〜草地博昭・静岡県磐田市長インタビュー〜(1)

草地博昭・静岡県磐田市長
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴

2021/08/17  「まちづくり」は「人づくり」、シビックプライドの醸成を 〜草地博昭・静岡県磐田市長インタビュー〜(1)
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2021/08/23  若者にとって誇れる地方都市にするには 〜草地博昭・静岡県磐田市長インタビュー〜(3)
2021/08/26  若者にとって誇れる地方都市にするには 〜草地博昭・静岡県磐田市長インタビュー〜(4)


 

いわゆる「若手」と呼ばれる世代が自治体の首長に就任するニュースを、以前よりも耳にするようになりました。今回インタビューした静岡県磐田市長、草地博昭氏もその一人です。

31歳から磐田市議会議員を2期8年務め、2021年の4月に39歳で市長に就任。政治の世界に入る前から地元のまちづくりに精力的だった草地氏の中には、磐田市に対するどんな想いが秘められているのでしょうか?

人口約17万人のまちが目指す理想の姿と、現在抱える課題。そのギャップを日々最前線で感じながら奮闘し続ける「まちの新たなリーダーの姿」を紹介します。(聞き手=Public dots & Company代表取締役・伊藤大貴)

「人づくり」がまちの持続可能性を高める

伊藤 まずは、草地市長のこれまでの経歴をお話しいただけますか?

草地市長 今年の4月に磐田市長に就任しましたが、それ以前は市議会議員として2期8年間活動していました。

私は磐田市生まれ磐田市育ちですが、いったん地元を離れた時期があります。中学を卒業して進学したのが、愛知県の豊田高専(独立行政法人国立豊田工業高等専門学校)で、高専を卒業した後はしばらく東京で働いていました。いわゆる青春時代は、外の地域から磐田市を客観的に見ていた形になります。

その時に改めて感じたのが、地元に対する愛着でした。特に東京で過ごしていた頃は、全国各地から上京して来た仲間たちと地元の自慢合戦のような話をすることも多く、その都度、磐田市への愛着が自分の中にあることを実感しました。同時に、他の地域の取り組みなどを耳にするたびに「磐田市だったらどうするか?」「磐田市ができることはもっとあるのではないか?」と考えるようにもなりました。

こんなふうに、地元をもっと良くしたいという気持ちがだんだん強くなってきまして、24歳の時に磐田市に帰郷して来きました。

帰郷してからはNPO法人磐田市体育協会に所属し、ジュビロ磐田メモリアルマラソンなど、市内の各種スポーツイベントの裏方として働いていました。やはりその時も地元を盛り上げたい!という一心で仕事に取り組み、その想いのまま市議会議員になり、現在は市長になったという経緯です。

ですから時期によって立場は違えど、頭の中で考えていることは基本的に学生時代から変わらず、「地元を良くしたい」なんです。

 

伊藤 今おっしゃった「地元を良くする」の理想形とは、どのようなものなのですか?

草地市長 「まちづくり」よりも「人づくり」の考え方が根底にあるまちになることですね。例えば鹿児島県の郷中教育や、磐田市の近隣にある掛川市の二宮尊徳の報徳思想など「人づくり」が根底にあるまちというのは、まち自体にも何か哲学的なものを感じます。

最近ではSDGs(持続可能な開発目標)が流行の言葉になってきていますが、最も持続可能なまちづくりは「人づくり」から始めることではないかと私は思っていまして、それを磐田市でもできないかと常々考えています。

 

伊藤 まちの哲学とは「まちのビジョン」とも言えると思います。

あえて極端な表現をしますが、今までは自治体にビジョンなどなくてもなんとかなってきた時代でした。高度経済成長の頃は、国民全体が同じ方向を向いていれば、皆平均的な豊かさが手に入っていたものの、今の時代はそうはいきません。社会的リソースがどんどん縮小していく中で、ビジョンをしっかり掲げて自治体運営をしている地域とそうでない地域とでは、二極化が進むのではないかと思っています。

今のお考えを伺って、草地市長は、市長になるべくしてなった方だと感じました。

草地市長 ありがとうございます。高度経済成長の頃の30年と、平成に入ってからの30年、そしてこれからの令和の30年は明らかに変化していて、今後、右肩上がりにならないことは明確です。

人口が減り、若者も減り、地方はこれからどうやって運営をしていくのか?と行き詰まる未来はそう遠くないですから、「自分たちのまちをなんとかしなくちゃいけない」という燃えたぎる闘志のようなものは、議員時代から強く持っています。

市民の声の聴き方に工夫を

市長就任式の様子(出典:磐田市)

 

伊藤 市長になってから、市議会議員時代と一番変わったことは何ですか?

草地市長 一番の違いは、市民の方々と直接コミュニケーションをする時間が減ったことですね。市議会議員時代と比べると、1〜2割ほどになったと思います。これは、今一番の課題ですね。

 

伊藤 それは地方議員経験者からすると、結構怖いことですよね。

草地市長 怖いです。市議会議員時代は市民の皆さんと身近でお話ししていましたし、それがむしろ政治家の強みだと思っていました。行政の方たちが把握し切れていない現状をわれわれ(議員)がキャッチして提言するということを8年間やってきましたので、その時間が限られるようになった今は、何か代替策を考えないと、と思いますね。

 

伊藤 市民の方々とのコミュニケーションの時間を、議員時代の水準まで戻すことは難しいにしても、同じクオリティーを出すために工夫できそうなことはありますか?

草地市長 全国で行われている若者会議や学生会議のようなコミュニティーを磐田市の中でつくりながら、そこに単なるお客様としてあいさつに行くだけではなく、積極的に参加をしていきたいと思っています。

他にも審議会や懇話会など行政内には市民が参加する会が多いですが、市長という立場はどこに参加するにしても「お客様」になりやすく、あいさつをするのみというパターンになりがちです。それだと市民の方々の本音をダイレクトに聞くことはできませんから、当事者としてきちんと参加するという姿勢をつくっていきたいですね。

 

伊藤 現場から離れてしまうというのは、ある意味トップの宿命とも言えます。ですが市民の立場からすれば、「草地さんと接する時間は少なくなったけれども、自分たちの声は届いている」という実感をつかめれば、短時間でのコミュニケーションでも満足度は変わらないと思うのですが。

草地市長 確かにそうですね。ただ、これまで市民の皆さんの声を確固たる裏付けにして政策を作ってきましたから、今後は考え方ややり方を変える必要はあると思っています。

コミュニケーションの取り方という点でいうと、SNS(インターネット交流サイト)は非常に有用なツールです。書き込みに対するレスポンスをどうするか?など運用は考えなければなりませんが、市民の方とつながる手段として、今後も使っていきたいとは思っています。

 

伊藤 市長になってから、市民の方からのSNS上の書き込みに何か変化はありましたか?

草地市長 今のところそれほど変化はないですね。時折ダイレクトメッセージでご意見をくださる方もいらっしゃって、その声はとても参考になっています。

ただ、対話のやり方を根本的に変えていく必要はあると思っています。私自身もそうですが、行政もです。なぜかと言うと、これから取り組む政策が、持続可能なまちをつくるために若い世代の人口を増やしていこうとするものだからです。

市民の方の声を聴く既存の仕組みは、若い世代に認知されていません。ですから今は手探りではありますが「若い世代の声の聴き方」を模索しています。

 

伊藤 ちなみに、具体的な策は見え始めているのですか?

草地市長 まだこれからといったところですね。おぼろげなイメージではありますが、若者が集う場をつくることができたらとは思います。

市議会議員時代には市の職員と共に「30歳の同窓会」という企画を行い、多くの若い方たちに集まっていただくことができました。やはりそこでは、若い方たちが現状思っていること、感じていることを具体的に聞くことができました。他にも地域には消防団も成人式実行委員会もあります。

今はオンラインになるかもしれませんが、若者が集う場をつくることは意味があると思っています。

 

第2回に続く


【プロフィール】

草地 博昭(くさち・ひろあき)
静岡県磐田市長

1981年生まれ。静岡県磐田市出身。国立豊田工業高等専門学校を卒業。NPO法人磐田市体育協会にて事務局長を務め、2013年に磐田市議会議員に初当選。以来、市議会議員を2期務め、その間、議会運営委員長、予算決算委員長、民生教育委員長を歴任。2021年4月に磐田市長に就任。

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