「対話・挑戦・失敗」がバリューのまちづくり~森田浩司・奈良県三宅町長インタビュー(3)~

奈良県三宅町長 森田浩司
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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第1回第2回に引き続き、奈良県三宅町の森田浩司町長のインタビューをお届けします。

「自分らしくハッピーにスモール(住もうる)タウン」という「ビジョン」を掲げ、官民連携の手法も駆使しながら新たな施策を次々と実行する三宅町。「ゼロ」から「イチ」を生み出すために、森田町長は町職員にどのような働き掛けを行ったのでしょうか。事例も含めて伺いました。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

ないものを生み出し、未来を創る

小田 森田町長が就任してから、三宅町では数々の先鋭的な取り組みを実施しています(第1回、第2回参照)。最近では「Web3のまちづくり」を掲げるなど、先端テクノロジーの活用も視野に入れています。まさにイノベーション(革新)の町と言えるのではないかと思うのですが、町民性にもイノベーター気質の傾向があるのでしょうか?

森田町長 奈良県民は、どちらかといえば保守的だと思います。穏やかな気質の方が多く、常に変革を望むようなタイプではありません。しかし「このままではいけない、何か変わらなければ」という危機感を持っているようには感じます。

 

小田 奈良という歴史の深い土地柄であるが故に、積み重ねてきたものを急に変えるのは難しいという意識が根底にあるのかもしれませんね。

森田町長 その意識は「平成の大合併」の際に顕著に表れました。奈良県は市町村合併があまり進まなかった地域です。大きな理由は地名でした。「飛鳥」「大和」など、古来から受け継ぐ地名を統合したり変えたりすることはできないとして、合併が進まなかったのです。

他にも、土器などの歴史的遺物が頻繁に出土することから、調査に時間がかかって開発が進みにくいという側面があります。歴史が積み重なったが故に、変えづらくなっているという方が近いかもしれません。

しかし、もともとは隋や唐などから先端文化を取り入れて自分たちのものにし、国づくりを行ってきた土地です。かつては日本で最もイノベーションを起こしてきた地域とも言えます。

 

小田 根本的には、新しいものを取り入れることに前向きな県民性なのですね。

森田町長 好奇心は旺盛だと思います。例えば三宅町は野球グローブの一大産地ですが、100年前に米国からグローブが渡ってきた際、町民が作り方を研究し、町に広めたことが産地化のきっかけとなっています。他にも、奈良県は近代に流通するスイカの品種を開発した地域だったりします。今は控えめなものの、県民や町民の中にはイノベーター気質が眠っているのでしょう。

 

小田 政策やまちづくりは、その土地の歴史や住民性も考慮する必要があります。森田町長は町民との対話を重視していますが、普段のコミュニケーションで何か感じることはありますか?

森田町長 おもてなしの意識が高いのも、三宅町民の特長の一つです。町内に「屏風」という地名がありますが、かつて聖徳太子の一行を村人が屏風を立てて接待したことから名付けられたそうです。そうした歴史的逸話が語り継がれていることもあり、ボランティア活動にいそしむ方も多いです。自分たちで何かやろうとする意欲があり、対話もフレンドリーだと感じます。

ただし役場と町民の心の距離が近い分、役場への期待が大きくなることもあります。こちらもリソース(資源)は限られているので、できること、できないことを対話の中でしっかり示す必要があると感じます。

 

小田 森田町長の目指すまちづくりについて、対話を通じて町民に理解していただくのですね。

森田町長 これに関しては「今の時点で、すべて理解されたくない」と考えています。町民にも職員にもです。私は自らの仕事を「ないものを生み出し、未来を創ること」と考えています。現時点ですべてが理解されなくても、数年後に「町長が言っていたのは、こういうことだったのか」と思っていただけるような、あえてタイムラグがある仕事を意識しています。

もちろん、目指す未来像を分かりやすく丁寧に伝えることは続けていきますが、現時点でまだないものに関しては、実現したときに真に納得していただけるだろうと考えています。

 

町の「ビジョン」に込めた意図

小田 目指す未来像を分かりやすく示しているのが、町の掲げる「ビジョン」「ミッション」「バリュー」です。特に「ビジョン」はユニークですね(写真)。これができた経緯について伺います。

森田町長 ワーディングの際に最も重視したのは「いかに伝え、いかに共感してもらえるか」という点です。町の方向性を町民全員で共有できるよう、小学生にもイメージが伝わるような言葉を選びました。

「ビジョン」には二つの意図を込めています。一つは「選べる社会」をつくるということです。例えば夫婦別姓の問題のように、制度的に選べないことで苦しむ方が世の中にはいます。それらを選べるようにすることで、誰もが自分らしさを発揮して幸せを感じる社会にしようというメッセージを、前半の「自分らしくハッピーに」の部分に込めています。後半の「スモール(住もうる)タウン」は、三宅町が全国で2番目に小さい町であることに由来しています。

しかし、単に小さい(スモール)だけでは面白みに欠けると思い、「住まう」とのダブルミーニングにしました。職員からは「造語を『ビジョン』に掲げて大丈夫か」との声が上がりましたが、イメージが伝わることが大切でしたので、そのまま採用しました。

「ミッション」は「『伴走者』であり『共創者』として、共に成長し続けます」、「バリュー」は「対話・挑戦・失敗」としました。

写真 三宅ビジョン(出典:三宅町)

 

小田 「バリュー」もユニークですね。

森田町長 「バリュー」は、複業人材として役場に来ていただいた方のアドバイスがきっかけで生まれました。私は就任当初から職員のオーバーワークを問題視しており、「やらなくてもいい仕事は減らそう」と常々呼び掛けてきました。しかし、なかなか業務量が減らなかったのです。

そのことを複業人材の方に話すと、「やめていい基準がなければやめられない。物差しをつくった方がいい」とアドバイスされました。確かにそうだと、はっとしました。そこで職員の行動基準をつくろうと思ったのです。

入庁1~2年の若手職員から幹部職員まで参加した、採用におけるペルソナ(人物像)を決めるワークショップの中で、「仕事において大事にしていること」について話し合ったところ、「対話・挑戦・失敗」の三つが共通して浮かび上がってきました。これらは町民と共有したい価値観とも、おおむね一致します。

ですから町職員としての行動基準かつ、町が価値とするものとして「バリュー」にしたのです。これは私がつくったのではなく、町民や職員の中から生まれたものだと言えます。「バリュー」が言語化されてからは、それに合致しない取り組みはやめるという判断が、少しずつですが、できるようになってきました。

 

小田 町民や職員とのコミュニケーションの中から、町の方向性を言語化したのですね。

森田町長 町の総合計画にひも付く総合戦略に書かれているキャッチコピーなどは、町民とのワークショップの中から生まれました。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年3月13日号

 


【プロフィール】

奈良県三宅町長・森田 浩司(もりたこうじ)

1984年奈良県三宅町生まれ。大阪商業大総合経営卒。生協職員、国会議員秘書、三宅町議などを経て、2016年三宅町選に初当選。当時32歳で県内最年少、全国でも2番目に若い町長となった。現在2期目。

 

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