議会のデジタル化推進とデモクラシーの成長(1)

北名古屋市議会議員、Code for Nagoya 名誉代表・桂川将典

タブレット導入を契機とした、住民意見の届く議会改革とデジタル化の展望  

現状では議会のデジタル化の推進に対して、一人の落伍者も出さないことが最優先にされがちで、合意形成には大きな苦労が伴っています。議会でのICT(情報通信技術)活用により直接的には議会事務局の作業効率が改善されますが、デジタル化の目的はそれだけではありません。

着目すべきは、デジタル化の推進によるデモクラシーの発展です。政策決定の根拠となるデータ公開を進め、EBPM(証拠に基づく政策立案)を軸にした、実質的な住民参画を進めることが可能になります。議会の政策議論を進展させるデジタル化の推進は、どれだけ議会活動の幅が広げられるか、新たな世界を見いだすことだと考えています。

1.議会のデジタル化推進の現況

我々の日常生活ではすでに欠かせなくなっているスマートフォン。平均年齢が60歳を超えることも珍しくない議会でのスマホ所持率は、8割程度といったところです。

私が議会のペーパーレス化を推進するセミナーで講演するとき、アイスブレイクに必ずするのは「Amazonを使っていますか?」という質問です。毎回5070人程度の議員らが来場される中でYesと回答される割合は年々上昇し、2017年では来場者の約3割だったのが2019年には約7割が挙手されました。EC(電子商取引)サイトの利用やデジタル決済が普及してきた世間に、ようやく追い付いてきたという実感があります。

議員活動はデジタルデバイド(情報格差)の影響が大きい業種の一つと言えます。他市の取り組み事例などの情報収集は、インターネットやSNS(インターネット交流サイト)なしでは考えられません。

民主主義の制度運用を適正に行うには、情報公開と透明性の二つが欠かせません。データに基づいた政策立案だけでなく、行政運営の説明責任を果たすためにデータの公開は欠かせないものです。しかしながら、これを紙資料で実現するには膨大な手間と労力をかけて編集することを必要としています。

一方で、デジタル文書であれば大量の情報をそのまま提供できます。一部ではオープンデータという取り組みが進められています。主に統計情報などの公開情報をコンピューターで扱いやすい形式にして提供し、民間活用ができるようにする取り組みです。人口減少や少子高齢化など社会構造の変化に対応するため、民間の知恵を活かすことが目的です。住民の意見を取り入れながらも行政をリフォームするには、ツールとしてのICT導入だけでなく、総括的なデジタル化の進展が必要なのです。議会のペーパーレス化などのICT活用は、議員が住民代表として情報活用していくための第一歩だと思っています。

北名古屋市での導入の経緯

愛知県北名古屋市議会では、20186月よりペーパーレス化のためタブレットを導入しました。紙資料の配布をなくし、検索可能なPDFデータで配布する形にしました。

 2011年にタブレット導入を目指し、実際に議員に操作してもらう体験を軸にした研修を行いました。その頃はまだ世間的にも従来型の携帯電話「ガラケー」が主流で時期尚早と判断されましたが、当時の議会事務局課長は前向きでした。議会というのは、上からの命令でヤレと言われて動く企業型の組織ではありません。議員の合意があって動く個々人の集まりです。それから再びチャンスを手にしたのは2017年、議長の「鶴の一声」が後ろ盾になりました。「議会改革に後れを取ってはならん」と議長の厳命があり、前回から少しずつ準備を重ねてきた議会事務局長(当時の課長)が進め方をまとめました。

合意形成が必要な内容は各会派代表者会だけでなく、全議員で構成する「タブレット導入検討会」を設置して協議することとしました。また実務的な判断を要する部分は、IT活用に長けた議員2人を「導入推進オブザーバー」に議長が指名し、推進の中心となる体制としました。入札についてはプロポーザル型を想定し、オブザーバーと事務局が具体的な機能の評価や仕様づくりなど検討を行っていく形です。議員のユースケース(使用例)に沿った要望を取り入れやすい体制になりました。

振り返ってみると、導入に当たって数々の課題を突破するのに事務局とオブザーバーの二重体制が奏功しました。議員間の意見調整は事務局だけでは難しく、会派代表者会だけでは並行線を辿ったかもしれません。オブザーバーは推進の旗振り役になるので、不満の声が聞こえにくくなります。そこを議会事務局がうまくサポートすることで、円滑に推進ができました。事務局は議員の不満を聴くことに徹し、「やってみましょうよ」という雰囲気づくりを巧みに行ってくれました。

敵は「恐れ」で、拒むヒトではない

導入経緯を振り返ると「自分も使える」という各議員の実感に支えられたのだと思います。自分が使えないものを導入すると言われて喜ぶ人はいません。

議会でタブレットを導入するに当たって、ペーパーレス化のアプリを扱う企業の営業マンに意見を求めました。タブレット導入事例に詳しく、議会改革やICT活用などの話もできるなど、話題が豊富で頼りになる元議員の営業マンです。タブレットの活用とペーパーレス化に当たって、何より重要なのは「各議員が操作に慣れること」とのアドバイスを頂きました。

また、推進役にとっても使い勝手を確認する試用期間は必須です。そのため北名古屋市議会では、2017年度の第3回定例会の日程に合わせた1カ月間の長期試用を行うこととしました。各回線事業者には通常2週間の試用期間のところ、ご無理をお引き受けいただきました。最終的にはさらに追加で、試用を定例会3回分手配しました。本当によくお付き合いくださったと思います。

試用期間では、旗振り役のオブザーバーも事務局と一緒にサポート役に徹しました。あちこちで困るたびに「おーい」と呼ばれました。その都度、各議員が越えなければならない「操作の慣れ」の問題なのか、システムの課題なのか、切り分けていきました。今でもページの多い予算書などは説明員の読み上げに追い付くのが難しかったり、議案書のファイル間の移動などで操作がもたついたりするなど些細な課題もありますが、3度の試用期間を経て「全員が利用できる」と確認しました。

試用に先んじて「時代の波にのまれる覚悟をした」と、検討会設置と同時にガラケーからスマホに機種変更した議員もいます。当初は、スマホから電話するだけでも苦労していた議員を、下から支えてくれたのは議会事務局でした。導入後に支障が出そうな議員をこのタイミングでサポートし、自分もできる、という実感をつくってくれたのです。スマホを利用していなかった議員も操作に慣れるに従って「時代に追い付いた」という充足感を持ったと思います。

(第2回へ続く)

 

プロフィール

桂川将典(かつらがわ・まさのり)

北名古屋市議会議員・Code for Nagoya 名誉代表

立命館大学卒業後にシステムエンジニアとして民間企業で情報セキュリティの改善業務に従事。その頃に知り合った最年少京都市会議員の働きぶりをボランティアとして間近に見て「自ら行動しなければ社会は変わらない」と思い至り、平成の大合併を機に帰郷し立候補。27歳で初当選し現在4期目。行財政改革、IT活用、英語教育分野に注力。

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