住民と職員が「ウィンウィン」に~東京都足立区のDX事情~(後編)

東京都足立区 政策経営部ICT戦略推進担当課長・髙橋皇介

 

2024/03/26 住民と職員が「ウィンウィン」に~東京都足立区のDX事情~(前編)
2024/03/28 住民と職員が「ウィンウィン」に~東京都足立区のDX事情~(後編)

 

4.RPAの導入

「2.足立区DXの姿勢」で述べたように、自治体DXを成功に導くカギは「住民と職員のウィンウィン」にある。ここまでであれば、手続きに関するチャネルを増やしたのみであり、つまり住民側の利便性が向上したにすぎない。重要なのは、ここからいかに職員の利便性を高めるかだ。

そこで、区は22年4月にロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)を導入した。しかしRPAは、導入して終わりというわけでは決してない。ソフト上でシナリオを作り、それを業務システムに適用して、トライ・アンド・エラーを繰り返すことでより良いものになっていく。

 

RPAが得意とするのは大量データの自動入力である。月に1件、年に数件といった業務で効果を感じることは難しい。このためオンライン申請システムを通じ、既にある程度のデータを保有している子ども施設入園課とタッグを組み、RPAによる業務システムへの自動入力に着手した。

区はソフトの購入こそ業者を通して行ったが、シナリオは当課の職員が作ることにした。シナリオ作成も外注してしまうと、RPAに関するノウハウが職員に一切蓄積されず、またシナリオ修正の必要が生じた場合に一定の期間を要することが想定できたためだ。

 

この方針により、子ども施設入園課と当課が密接に連携し、シナリオの修正は最速で数分、長くても1週間以内に対応できるようなスキーム(枠組み)をつくり上げ、スピーディーにシナリオを成長させることができた。

その半面、当課の職員はRPAの対象となっている業務シナリオのスペシャリストでは決してないため、ああでもない、こうでもないといったトライ・アンド・エラーを日々繰り返し、「時間が溶ける」という感覚を何度となく味わった。

 

そんな苦戦を強いられたものの、保育園の入所手続きに関する入力時間は367時間、削減することができた(図4)。また、それ以上の成果は子ども施設入園課職員の精神的な面で見られた。

「もう午後10時だから、残りは明日やろう」。RPAの導入前は頑張り過ぎると翌日に響くからと、業務を残して帰宅していたらしい。これで本当に休めるだろうか。翌日の仕事が気になり、帰宅しても頭の中は働いている状態だったのではないだろうか。

それが導入後は、帰宅時刻が全体的に2時間ほど早まっただけでなく、「よし、今日の分は終わった!」と、意気揚々と帰れるようになったとのことだった。

子ども施設入園課はオンライン申請システム、RPAともに率先してファーストユーザーとなってくれた。まさに区におけるDXのモデルケースとして、当課と共に走り抜けてくれた。

 

5.残る課題への対応

「3.手続きに関するDX」で述べたように、区は「手続き」業務にデジタルの風を吹かせることができた。しかし、実はまだ未達の部分がある。それは「決定」時の通知書だ。

保育園の入所手続きもそうだが、「決定」時においては決定通知書を住民に郵送している。これは申請がオンラインであったとしても変わらない。これまで区はさまざまな書類を住民に郵送してきたが、職員のミスによる誤郵送が恥ずかしながら後を絶たない。もちろん郵送料もかかる。

そこで区は、通知書を含む書類の郵送プロセスもオンラインで実現するシステムを構築した。23年10月からの検証を経て、24年2月に本格稼働を開始する(本稿執筆は1月中旬。図5)。

 

図5
出典:足立区ICT戦略推進担当課

 

6.常に地に足の着いたDXを

繰り返しとなるが、自治体DXを成功に導くカギは「住民と職員のウィンウィン」にある。なぜか。デジタルやシステム、クラウドなどとICTに関連する言葉は多くあるが、そのすべてが少々ふわふわとした印象であり、またそれを導入すれば万事解決という危険な印象が今も残っている。しかし、この世に万能なシステムなどない。すべては活用次第であり、活用するのはヒトである。

 

そのためDXがヒトを無視し、一人歩きしてはいけない。常にヒトがコントロールし、どのようなシステムが必要か、どんなデジタルリソース(資源)が必要かと問い、どのようにすれば住民の利便性が向上するか、どうすれば職員がより楽をできるか、真剣に考えなければならない。

 

正直に申し上げて、これには相当の体力を要する。しかし、その先にある未来を想像してほしい。足立区におけるオンライン申請システムとRPA導入の実例を見ていただければ分かるが、苦悩や苦労はとんでもなくあったが、十分な成果が得られ、今はそれらがない世界は考えられず、これらを基軸として手続きが処理されているのである。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年2月5日号

 


【プロフィール】

髙橋 皇介(たかはし・こうすけ)
東京都足立区 政策経営部  ICT戦略推進担当課長

1987年生まれ。2010年富士通の子会社に入り、16年富士通本社に合流。21年から現職。24年4月に起業予定。

 

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