住民と職員が「ウィンウィン」に~東京都足立区のDX事情~(前編)

東京都足立区 政策経営部ICT戦略推進担当課長・髙橋皇介

 

2024/03/26 住民と職員が「ウィンウィン」に~東京都足立区のDX事情~(前編)
2024/03/28 住民と職員が「ウィンウィン」に~東京都足立区のDX事情~(後編)

 

1.急務となった自治体DX

全国的に少子高齢化が進む中、東京都足立区においても生産年齢人口の減少が続いている(図1)。生産年齢人口が減少すれば、区役所でも適正な人員の確保が困難になる状況が想定される。

そうした状況下にあっても行政サービスの質の維持・向上を図るためには、既存業務の進め方を抜本的に見直し、情報通信技術(ICT)を活用することで業務の効率化を図ることが不可欠である。

そこで、区は「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」を2022年12月に策定し、日進月歩のICTを駆使した業務の再構築に着手し、DXを基軸とした「協創力でつくる 活力にあふれ 進化し続ける ひと・まち 足立」(注)の実現に向けて歩み始めた。

=16年10月に策定した区の基本構想で掲げた目指すべき将来像

 

図1 足立区の人口の推移と今後の予測
出典「: 足立区人口ビジョン改定版 第二期総合戦略」(2021年3月)

 

 

2.足立区DXの姿勢

DXとはその名の通り、トランスフォーメーション(変革)であり、業務を再構築することを指す。これまでの当たり前を見直して全く新しい観点で構築することは、少なからず体力の要ることだ。このため住民の利便性だけを考え、職員の負担を度外視するようなDXは大抵、破綻する。1度はサービスインできたとしても職員が疲弊し、やがてミスが多くなり、レベルダウンを余儀なくされることがあるのだ。

自治体DXを成功に導くためには、住民だけでなく職員の利便性を常に考え、両者の最大公約数を見極める必要がある。つまり、双方に最大の利益をもたらす「ウィンウィン」となる解を見いだすことが不可欠だ。

区は筆者が所属するICT戦略推進担当課が専任部隊となり、DXないしは業務プロセスの見直し(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング=BPR)をけん引している。

 

3.手続きに関するDX

 

(1)二つの課題

「手続き」と一口に言っても、そこには複数のプロセスがある。一般的には「申請」→「受理」→「入力」→「審査」→「決定」→「連絡」といったプロセスを経るが、現状の課題を整理したところ、二つが浮かび上がった。

 

一つ目は「申請」「受理」における課題である。

区は以前より「東京電子自治体共同運営サービス」に加入しており、そこで提供される電子申請システムを利用していた。本システムは非常に安価で利用できるものの、オンライン上の本人確認がそこまで柔軟に行えるわけではなく、また例えば条件付きの必須項目を設けるといった機能も充実していなかったため、積極的な活用を行えずにいた。

このため、従来通りの紙媒体での窓口受付を第一としており、窓口という地理的な拘束と、対面での確認という時間的な拘束が住民、職員共に発生していた。

 

二つ目は「入力」における課題である。

住民から受理した申請は多くの場合、自治体が保有する業務システムに入力される。いくら窓口で入念に確認したところで、この入力においてタイピングミスや入力箇所の誤りがあっては元も子もない。

また正直に申し上げて、自治体に提供されているシステムはユーザーインターフェイス(UI)/ユーザーエクスペリエンス(UX)に優れているかと言われると、全くそんなことはない。非常に分かりづらい。今後、システム標準化されるとしても、そこは改善されないと確信すらしている。

このため、入力内容のダブルチェック(場合によってはトリプルチェック)には、非常に多くの時間を要していた。

 

(2)UI/UXにこだわる

こうした状況を踏まえ、区は「オンラインでつながる行政」を掲げ、住民の「申請」を起点として、最終の「連絡」に至るすべてを電子データで行える環境の整備をゴールとしたDXに着手した(図2)。

まずは21年5月にオンライン申請システム構築の業務委託に関するプロポーザルを行い、同年8月から契約事業者の内田洋行と共にシステム構築に乗り出した。

 

図2 出典:足立区ICT戦略推進担当課

 

システムというのは、どれだけ優れていても使われなければ意味がない。むしろ使われることで課題が顕在化し、さらなる進化を遂げる。このため区のオンライン申請システムにおいて、最もこだわったのがUI/UXである。端的に言えば直感的な操作性と、試してみたくなるようなデザインだ。

利用者がどういった流れで申請にたどり着くかなどを議論することはもちろん、トップページのメインビジュアルについても校正を何度も行った。

 

(3)柔軟な本人確認手法

行政手続きにおいては、本人確認を厳格に行わなければならないものも多くあり、それをオンライン上でどのように実現するかが重大な要素としてある。これについて、区は個人向けの本人確認レベルを4段階(「確認」という意味では3段階)、法人向けの確認レベルを3段階(同2段階)で設け、各手続きで取捨選択する機能設計とした。

この柔軟な本人確認手法により、区の現状の手続きはいずれかに必ずマッピングすることができ、対面での手続きを法令で定められているものを除くすべてが、理論上はオンラインでの受付が可能となった(表)。

 

出典:足立区ICT戦略推進担当課

 

(4)仮稼働で課題を洗い出し

次は仮稼働である。再度申し上げるが、システムは使われなければ意味がない。このため、システムをリリースする際はターゲット層を明確にすることが大事だ。

もちろん行政が提供し、住民の誰もが関わる「手続き」に関するシステムであることから、老若男女を問わず、すべての人が最終的なターゲットであることに変わりはない。しかしながらシステムの認知度を高めるためには、段階的に稼働させることも重要である。

 

そこで区のオンライン申請システムは21年11月18日、保育園の入所手続きを控える保護者をターゲットとして仮稼働させた。この世代が日常的にスマートフォンを利用(およそ98%が「よく利用している」と回答)しており、オンライン申請との親和性が非常に高いと判断したからだ。

所管する子ども施設入園課との合意形成が必要だったが、同課は繁忙期の残業や休日出勤に長らく悩まされていたこともあり、前向きに対応してくれた。

 

この仮稼働においては、利用率が20%程度と振るわなかったが、一方で利用者からの意見を吸い上げ、本稼働に向けて具備すべき機能を洗い出すことができた。

例えば、

▷入所を希望する園の名前は分からないが、場所なら分かるというケースもあり、住所などから検索できるとよいのではないか▷入所に当たっては、子どもがどれだけ保育を必要としているかについて、提出書類から点数化している(利用調整指数)が、この指数を入力内容によって見ることができた方が利便性は高まるのではないか──といった点が挙げられた。

また、仮稼働を開始した11月18日の午前0時15分には1件の申請が到達した事実を踏まえると、やはり行政におけるオンライン申請の需要は非常に高いと再認識できたことを今でも覚えている。

 

(5)本稼働で17倍以上の成果

仮稼働によって顕在化した課題を一つ一つクリアし、22年4月1日にオンライン申請システムの本稼働を迎えた。スタート時はたった40種ほどの手続きしか受け付けていなかったが、システムの機能拡充や各部署の協力もあり、24年1月までに1400超の手続きをオンライン申請可能にした。

さらに「東京電子自治体共同運営サービス」の利用時は年間で7000弱の申請受付件数にとどまっていたが、この2年近くで計25万件を超え、17倍以上の成果を挙げることができた(図3)。

 

図3 オンライン申請の受付件数(累計)
出典:足立区ICT戦略推進担当課

 

また、23年11月に行った保育園の入所手続きでは75.6%の人がオンライン申請を利用し、仮稼働時から3倍以上の利用率アップを達成することができた(図4)。

 

オンライン申請システムとRPA導入の成果
出典:足立区ICT戦略推進担当課

 

後編に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年2月5日号

 


【プロフィール】

髙橋 皇介(たかはし・こうすけ)
東京都足立区 政策経営部  ICT戦略推進担当課長

1987年生まれ。2010年富士通の子会社に入り、16年富士通本社に合流。21年から現職。24年4月に起業予定。

 

スポンサーエリア
おすすめの記事