自治体とマンション管理~非都市部ほど潜むリスクに備えよ(中)

千葉県袖ケ浦市議会議員
根本 駿輔

2020/8/31 自治体とマンション管理~非都市部ほど潜むリスクに備えよ(上)
2020/9/2 自治体とマンション管理~非都市部ほど潜むリスクに備えよ(中)
2020/9/4 自治体とマンション管理~非都市部ほど潜むリスクに備えよ(下)


マンション管理適正化法の画期的改正

本年6月16日、衆議院本会議で全会一致にてマンション管理の適正化の推進に関する法律(以下、「マンション管理適正化法」という)が改正され、同24日に公布された。2000(平成12)年に同法が制定されて以来、初めての大幅な改正となった。

従来のマンション管理適正化法は、主としてマンション管理士、マンション管理業者およびその団体等について定めた内容であった。行政についての条文は、第5条の「国及び地方公共団体は、マンションの管理の適正化に資するため、管理組合又はマンションの区分所有者等の求めに応じ、必要な情報及び資料の提供その他の措置を講ずるよう努めなければならない」という一文のみで、極めて受動的かつほとんど関与しないといっているようなものであった。これは「マンションも一戸建ての家屋と同じく私有財産なのだから、行政が積極的に関わるべき問題ではない」という発想が、根底にあったからではないかと考える。

確かに原則的にマンションは私有財産の問題であり、本来所有者自身で適正な管理を計画的に行うべきものであるので、私自身もマンションに対してやたらと補助金を出すような施策には賛同しかねる。しかし、現実は前述のように絵に描いていた適正な管理からは離れてしまったマンション、またはその予備軍が増えている状況であり、廃マンション化は極めて大きな外部不経済をもたらすため、適正なマンション管理が行われているか行政がチェックする必要性が高まっている。

データを見ても、国交省調査から2018(平成30)年末時点で築40年超のマンションは81・4万戸、10年後には約2・4倍の198万戸、20年後には約4・5倍の367万戸との推計が出されており、予め計画的な対処をすることを考えると待ったなしの状況である。また、修繕積立金が計画に比べて不足しているマンションは34・8%にも上る。さらに、マンションの建て替えが行われた事例は全国で現在わずか250件にも満たない件数しかなく、建て替えた事例も平均して1・5倍以上の容積率増加をさせることで所有者の負担を減らしているが、今後の人口減≒需要減の中ではごく一部を除いて成立しない手法である。

こうした背景から今回のマンション管理適正化法改正では、管理組合が適正な管理をするよう努めるという責任の所在を明確にしながらも、行政が適正なマンション管理が行われているかチェックし、必要な助言・指導を行うなど積極的に関与する内容に変更された。簡単にまとめると、国がマンションの管理の適正化推進を図るため基本方針を定めた上で、地方公共団体が任意で「マンション管理適正化推進計画」を策定、管理適正化のための指導・助言等を行うとともに、適切な管理計画を有するマンションを認定する、というものである。自治体は、各マンションの個別の実態を把握しながら、必要に応じて直接の指導・助言、あるいはマンション管理士や建築家等、専門家の派遣を行うことが求められる。また改正に当たって、具体的な検討が進められた国交省の社会資本整備審議会住宅宅地分科会マンション政策小委員会では、各自治体が福祉や防災等の施策と連携することも重要であると述べられており、自治体ごとの差が出るポイントの一つだろう。

東京都をはじめ都市部では、マンションが多いため既に同法に近い取り組みが行われているものの、マンション管理に対して自治体の積極的な関与が位置付けられた画期的な改正である。

「下」につづく


プロフィール
根本 駿輔(ねもと・しゅんすけ)
千葉県袖ケ浦市議会議員
1985年生まれ。マンション管理士、宅地建物取引士。千葉県マンション管理士会連合会会員。学生時代に近隣の商業地衰退をきっかけにまちづくり・地方自治に興味を持ち、早稲田大学商学部を卒業後にマンションデベロッパーに就職。マンションの販売、仲介、管理などに携わる。2016年に退職後、現職に初当選。市民・地方議員・自治体職員の間の学びの媒介人を目指すNPO法人「6時の公共」の理事も務める。

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