地方の生き残りを懸けた観光戦略とブランド戦略の在り方(1)

鹿児島県議会議員
米丸まき子

2020/5/29 地方の生き残りを懸けた観光戦略とブランド戦略の在り方(1)
2020/6/1 地方の生き残りを懸けた観光戦略とブランド戦略の在り方(2)
2020/6/3 地方の生き残りを懸けた観光戦略とブランド戦略の在り方(3)

 (本稿は新型コロナウイルス感染症が社会問題に発展する前に執筆したものです)

〜鹿児島県のブランド戦略を通して〜

 私が大学を卒業したのは1998年。大学では「売れる店づくり」に関して研究しました。その後、店舗設計を学んでいた頃に偶然出会ったのが、東京・渋谷にオフィスを構えるブランドコンサルティング会社CIA(シーアイエー)でした。この会社の創業者、シー・ユー・チェン氏は数多くの海外ブランドを日本へ持ち込んだことで有名な方で、代表的なブランドに〝GAP〟や〝ナイキ〟などがあります。また、ユニクロの東証一部上場に向けたマーケティング戦略や青山フラワーマーケットのブランド構築などを手掛けたことでも名を知られており、まさにブランディング戦略の第一人者です。

日本しか知らないと視野が狭くなる

 その会社で働いていたある日、チェン氏に「このまま日本にいると視野が狭いままで人生が終わってしまう。海外へ留学しなさい」と言われました。その助言に従い、私は英国のブライトン大へ留学しました。留学中はひたすら勉強漬けの毎日でしたが、英国はもちろん、台湾やドイツ、フィンランド、ブラジルと世界中にたくさんの友人ができました。

 この留学が大きな転機となり、仕事だけでなくボランティア活動や、プライベートで訪れた46カ国もの国。それぞれの国に友人ができ、このネットワークが私の大きな財産となっています。故郷を離れて東京へ、さらに東京を離れて世界を見たことで、鹿児島をはじめとする日本の都市が持つ大きな可能性に気付くこともできました。きっと、鹿児島の中だけで生活していたら、そのポテンシャルに気付かなかったでしょう。

 世界をさまざま見てきた中で、日本が参考にできるのはドイツだと思います。ドイツは歴史的にも連邦国家であるため、地方都市がそれぞれの独自色を維持した形で、地域内経済を回しているのが特徴です。大企業がこぞって東京に集中する日本とは異なり、企業は地元にとどまり、地場の中小企業と力を合わせながら、大学や研究機関を積極的に活用し、世界を相手に経済活動を展開しています。レーゲンスブルク市やエアランゲン市など日本でも注目されている都市の中には、1人当たりのGRP(域内総生産)が大都市を上回る所すらあります。

 こうした地域経済の中心を担いながら、大都市に依存せず世界と付き合う都市運営を「ローカルハブ」と呼びます。

 ドイツに代表されるようなローカルハブという考え方を日本が知れば、大きく生まれ変わるチャンスになります。

地方都市の魅力を届けるべき相手は誰か

 そこでご紹介したいのが2017年に野村総合研究所が発表した「成長可能性都市ランキング」です。このリポートはローカルハブの視点から調査したものです。都市の産業創発力を「多様性を受け入れる風土」「創業・イノベーションを促す取り組み」「多様な産業が根付く基盤」「人材の充実・多様性」「都市の暮らしやすさ」「都市の魅力」という六つの観点から、移住者や企業の数など131の基準を用いて広範囲に分析しています。

 ポテンシャルランキングでみた成長可能性の高い上位都市は……

1位:福岡県福岡市
2位:鹿児島県鹿児島市
3位:茨城県つくば市
4位:愛媛県松山市
5位:福岡県久留米市
6位:長野県松本市
7位:北海道札幌市
8位:宮崎県宮崎市
9位:沖縄県那覇市
10位:熊本県熊本市

となっています。

 鹿児島県の魅力として、特に上位に挙げられているのが、「移住者に優しく適度に自然がある環境で働ける」「リタイア世代が余生を楽しみながら仕事ができる」などであり、自然と調和しながら、新しい人や物を受け入れる風土が認められています。鹿児島県は、日本の玄関口として、いち早く東洋や西洋の異文化と交流を行ってきた長い歴史の影響を受けているのでしょう。

 いつもは大都市圏に比べて取り上げられることが少ない九州地区が上位を占め、ポテンシャルが高い都市として取り上げられたことは、大変嬉しいことです。しかし、東京一極集中が進む日本の縮図のように、地方では各県庁所在地への集中が進んでおり、その他の地域は衰退が加速しています。地方での地域間格差はますます広がっているのです。特に、離島を含め過疎化が進む県の経済状況は大変厳しいのが現状です。鹿児島県の全体の経済状況は、1人当たりの県民所得で見ると、2016年の平均年収が241万4000円で、47都道府県中44位。自主財源率は、全国が5割程度あるのに対して3割程度しかなく、また、最低賃金も現在のところ790円と最下位です。大学進学率に至っては、2017年度で37・7%と、全国45位です。さらに、高齢化率は29・4%で全国19位と、鹿児島県はまだまだ経済的・社会的にも厳しい状態です。

 多様性を受け入れる寛容な気風や生活しやすい鹿児島県がローカルハブになるためには、魅力的な条件に加えて一流の人材を輩出する大学などの研究機関や、ビジネスを生み出すエンジンとなる大企業の存在が必要になります。

今こそ世界の地方都市から学べ

 ローカルハブになり得るためには、何といってもまずは、経済力を上げることです。その一つの手段として観光が挙げられます。

 鹿児島県は観光の面でも大きな可能性を秘めています。実際、世界各地に住む私の友人たちは、一度鹿児島を訪れると何度もリピーターとして足を運んでくれます。しかし、世界中に星の数ほどある観光の目的地の中から、鹿児島を知り、選んでもらうことは至難の業です。

 商品を選ぶとき、「イタリア製のスーツ」「スイス製の腕時計」と聞いただけで高級かつ高品質が保証されているイメージが湧きます。また、旅行先を選ぶとき、北海道、沖縄、パリ、ハワイには、何となく「そこだけにしかない」世界観やストーリーを感じます。その土地の名前を聞いただけで、パッと頭の中に思い描けるようなストーリー感がないと、旅先に「選ぼう」とは思いません。

 つまり、これらの地域のように鹿児島の特別な魅力や価値が高まれば、「鹿児島」と名付けるだけで、さまざまな商品の販路が拡大し、鹿児島経済を活性化する効果が生まれます。これこそが本来の「地域ブランド」の本質です。

 鹿児島の世界唯一の価値、「鹿児島」というブランドが何なのかをしっかり語れるストーリーをつくること、すなわちブランディングをすることが必要なのです。

 鹿児島は、薩摩半島と大隅半島に囲まれた湾である広大な鹿児島湾(錦江湾)や、世界に誇る活火山・桜島という自然資源を有しているほか、南北600キロ、605島(うち有人28島)もの島々を抱えています。綺麗な海や川、美味しい食べ物に親切な人々など、アピールするものがたくさんあります。ただ、アピールする内容が多過ぎても正直どれを見ていいのか困ってしまいます。

第2回に続く


プロフィール
米丸まき子(よねまる・まきこ)
鹿児島県議会議員
1975年生まれ。鹿児島県姶良市出身。亜細亜大経営学部、英国ブライトン・ビジネス・スクール(MBA経営学修士)卒業。ブランドコンサルティング会社を経て、2007年鹿児島にUターン。家業である葬儀社と旅行会社で、経営に従事。12歳の時マーガレット・サッチャーの「争いもなく幸せに生きていけるようにするのが政治です」という言葉に触れ、政治家への志が芽生える。2019年4月鹿児島県議会議員に初当選。

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