何よりも「人の幸せ」を最優先に~片岡聡一・岡山県総社市長インタビュー(4)~

岡山県総社市長 片岡聡一
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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2023/07/05 何よりも「人の幸せ」を最優先に~片岡聡一・岡山県総社市長インタビュー(4)~

 

決断するための4要素

小田 住民と直接向き合う基礎自治体だからこそ気付く、法律の壁があると思います。それについて声を上げ、突破していくことは、法律の最適化を図る上で重要です。地方分権で得た裁量を使いこなす自治体と、そうでない自治体には今後、大きな差が出るだろうと感じます。

片岡市長 政治家はそれぞれ考えを持っているでしょう。私は何か物事を行おうとするとき、「賛成40・反対60」だったとしても、「必ず住民のためになる」と確信すれば実行するタイプです。

 

小田 そのような大胆な決断ができるのは、なぜでしょうか?

片岡市長 私の中で「決める要素」が明確にあります。「スピード感がある」「住民のためになる」「独自流である」「情熱がある」。この四つがそろえば、必ずゴーサインを出します。それで否決されても悔いはありません。

 

小田 片岡市長のようなリーダーがいる自治体の住民は心強いでしょうね。

片岡市長 私が考える本来の政治家の姿とは、理念に基づき、福祉や教育などのソフト政策を織り成すことができる人物です。インフラ整備や企業誘致なども大切ではありますが、政治家の主たる役割ではないと思っています。

 

小田 総社市が人口増加に転じているのも、「障がい者千人雇用」(第1回参照)などのソフト政策が功を奏しているからでしょうか?

片岡市長 「障がい者千人雇用」の影響はあると思います。これに取り組んでから4年目、雇用者数が700人ほどになったときから人口が増え始めました。

 

人に寄り添い、考え続ける

小田 基礎自治体は社会課題の最前線に立っています。そこで得られた知見に基づき、「大枠」になりがちな国の政策を突破するような働き掛けを行うことが重要です。

片岡市長 同感です。陳情ばかりを続けていても状況は変わりにくいでしょう。やはり政策立案ができる集団であるべきです。私は22年5月に全国市長会の会長選に立候補しました。市長会を、意思決定が早い政策集団に変革したいとの思いからです。接戦の末、敗れてしまいましたが、前例踏襲のやり方に一石を投じることはできたのではないかと思います。

 

小田 具体的に、どういうところが前例踏襲だと感じたのでしょうか?

片岡市長 意思決定を行う流れと、多数決ではない「会長一任」の投票制度です。

現状で全国市長会の意思決定は、次のような流れで行われます。まず各都道府県の市長会で議論してから、2カ月後に地域ブロックごとの支部で意見をまとめます。それを全国市長会に上げて最終判断に至るわけですから、スピード感に欠けます。

全815団体の意見をまとめるので多少の時間がかかるのは仕方ないとはいえ、今の時代は判断に急を要する問題も多くあります。例えば、会長に全権委任できるような仕組みに変え、素早い意思決定ができる組織にしていくべきだと考えます。

会長選の在り方も改善の余地があると感じます。現在は各都道府県の会長に投票が一任されていますが、全国市長会と名乗るのであれば、全815団体の首長それぞれに投票権があるべきです。国に力強い提言ができる組織にするためには、このような改革が必要でしょう。

 

小田 力強いリーダーシップで基礎自治体の自立を推し進める一方で、住民の心に丁寧に寄り添う片岡市長の姿勢が印象的です。

片岡市長 首長の言葉や行動の一つ一つが、住民の人生を変えることもあります。責任を感じながら日々過ごしています。先日、市内にある中学校の卒業式でスピーチしました。「私は君たちのことが、君たちが思っている以上に好きだからね。この先、悩んだり辛いことがあったりしたら、いつでも私のスマートフォンにダイレクトメッセージを送って相談してください」と告げたところ、翌朝には8通届いていました(写真)。

 

写真 住民からダイレクトメッセージを受けることはよくあるという(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

小田 どんな相談が届いていたのか、差し支えのない範囲で教えていただけますか?

片岡市長 「いざというときに不安になり、コミュニケーションが上手にできません。こういうとき、市長ならどうしますか?」という相談でした。それに対し、「私は不安なときは、むしろダメでどうしようもない、ありのままの自分をさらけ出すようにしています」と返信しました。

小田 片岡市長のお人柄が分かるエピソードですね。

 

【編集後記】

片岡市長の市政運営においては、「人のために、住民のために」という強い思いが原動力となり、さまざまな政策判断につながっていると感じました。また目的や優先事項を明確にすることで、実現方法のバリエーションが広がるということも理解できました。何よりも「人の幸せ」を最優先に考え、人に寄り添うことを徹底する総社市では、「ここなら安心して暮らすことができる」と感じる住民が今後もますます増えていくことでしょう。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年5月22日号

 


【プロフィール】

岡山県総社市長・片岡 聡一(かたおか そういち)

1959年、岡山県総社市生まれ。青山学院大法卒。84年橋本龍太郎事務所に入り、首相公設第一秘書、行政改革・沖縄北方担当相秘書官を務める。2007年総社市長に就任し、現在4期目。

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