石川県加賀市 宮元陸市長インタビュー(1)テクノロジー導入とデジタル人材育成、2軸で街に変革を起こす

石川県加賀市長 宮元陸
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴

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2021/03/18  石川県加賀市 宮元陸市長インタビュー(2)
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石川県の最南端に位置する加賀市。山代温泉、山中温泉、片山津温泉といった温泉地に恵まれ、加賀百万石の名残を感じる歴史的文化財や伝統工芸品も多い。そんな、古き良き日本の雰囲気を受け継ぐこの街が、最先端のテクノロジーを駆使したスマートシティーへ変貌しようとしている。この変革の旗手として就任当時から精力的な活動を続けてきた宮元陸市長に、テクノロジー導入を推進する理由を聞いた。

伝統からテクノロジーへかじを切った理由

伊藤 宮元市長は、テクノロジー導入に対してとても積極的に取り組まれている印象があります。例えば「ブロックチェーン都市」も2018年には掲げていらっしゃいましたよね。個人的には、都心から離れるほどテクノロジーへの理解がされにくいと思うのですが、ここまで先駆けて取り組まれている陰にはどんなお考えがあるのですか?

宮元市長 我々の取り組みに関心を持っていただきありがとうございます。テクノロジーに目を付けた理由を端的に述べると「追い込まれた状態から抜け出すため」なんですね。

加賀市は2014年に「消滅可能性都市」に位置付けられました。これは民間研究機関の日本創成会議が公表しているもので、2040年の時点で若年女性の人口が5割以上減り、自治体運営が非常に厳しくなると予測されている都市のことです。全国で896の自治体が消滅可能性都市といわれていますが、加賀市もその一つです。

実際、昭和60年代には人口が8万人ほどいたのが、今は6万6000人くらいに減っています。観光産業も高度経済成長の時代には伸びていましたが、私が市長になった頃には観光客の数が半分以下になっていました。こんなふうに厳しい状態なんですね。

加賀には観光産業ともう一つ、ものづくり産業があります。部品メーカー中心ですが、加賀百万石の支藩だった歴史から、山中漆器や九谷焼などの伝統工芸品もあります。ただ、産業が集積するような構造になっていないので、どんどん人口が減るんです。

このような状態から抜け出すためには、産業構造を変えていくような仕掛けをしていかざるを得ません。そんな中で出てきたのが、第4次産業革命の話でした。かつての産業革命と同じく、乗り遅れれば衰退するでしょう。だから先取りしてやっていくしかないなと。

こんないきさつがあって、テクノロジーに関心を持ったわけです。次の主要産業をつくっていこうというのが大きな目標ですね。

伊藤 お話を伺っていて驚きました。おそらく多くの自治体では、仮に宮元市長と同じような問題意識を持っていたとしても、やはり「どうやって企業誘致をするか?」という方向性になると思います。今のお話は、企業誘致ではなく「新しいものが生まれる場所を創ることで、結果的に人がやって来る」というご発想かなと受け止めました。

宮元市長 そういうことです。ですから、テクノロジーの導入ともう一つ「人材育成」も柱にしています。先進的なテクノロジーを活用できる人材、これをいかにつくっていくか? ということも意識して取り組みを続けています。

今年、子どもたちへのプログラミング教育が全国の小中学校で必修化されましたが、加賀市は3年前倒しで導入しました。おそらく、日本で一番早かったのではないかと思います。

さらに5〜6年前から、米国のニューメキシコにあるロボット教育の団体「ロボレーブ」と一緒に、ロボットの国際大会も開催しています(ロボレーブ世界大会:20カ国以上で開催されている。加賀市では2015年から。子どもたちがコンピューターを使ってロボット動作のプログラミングや操作を体験。ものづくりへの興味・関心を高め、創造力や柔軟な思考力を育むことを目的としている)。

ですから流れとしては、人材育成をまず第一にやっていこうと、プログラミングとロボットの教育を同時並行で走らせてきました。

あとは、まず自治体がテクノロジーを率先して導入していこうと呼び掛けましたね。ただ始めた当時は、地元の商工会議所や経済界の方たちの関心はほとんどなかったです。

伊藤 そうでしょうね。市長に求める一般的な要望は「まずは目の前の生活をどうしてくれるのか?」だと思うので。

宮元市長 はい。だから最初は「市長は何を言っているんだ」という反応が返ってきました。今、政府がデジタル、デジタルと言い始めましたから、ようやく分かっていただけている感触はあります。

加賀ロボレーブ国際大会

加賀ロボレーブ国際大会

テクノロジー導入や人材育成でトップを狙う

伊藤 今のお話を民間企業に例えますと、イノベーションのジレンマに近いなと思います。会社を支えている大きな事業部門が目の前にあると、将来の成長につながる新規事業になかなか人やお金を振り分けられません。地方自治体にとって地元の商工会や業界団体は、まさに目の前の大事にすべき存在です。けれども長期的に見ると、新しいことに挑戦していく勇気は必要ですよね。

宮元市長 従来型の政治家なら、テクノロジー導入なんてことをあまり考えないと思います。いわゆる「目に見えないモノ」ですから。票になりませんからね。「橋を造る、道路を造る」の主張の方が、よっぽど票になります。ですが、やはり時代は有形から無形に変わってきていますからね。

伊藤 宮元市長は、県議会議員を経て市長になられていますよね。なのですごく失礼なのですが、ずっと地方議員の道を歩まれている方が、開明的なご発想を持っていらっしゃるのが驚きです。

宮元市長 ドブ板(選挙)専門のイメージがありましたか? もうこれは「生き残りの戦略」です。やはり衰退著しいですから、とにかく差別化して、ある分野でトップを狙って生き残るしかないんですよ。どの分野も平均的に良くしていこうとする従来型の自治体運営では絶対生き残れない。ですから、テクノロジーの導入や人材育成でトップを狙おうということで、これは戦略的な話です。そして時代を見る目も大事ですよね。

ただ、今まで結構失敗もしています。「これがいい!」と思って取り入れてみたものがダメだったりね。ベンチャー企業みたいなものです。

伊藤 差し支えなければですが、どんな失敗事例があるのですか?

宮元市長 例えば、とあるベンチャー企業さんと組んだプロジェクトが上手くいかなかったりすることはあります。加賀市が基本的に協業するのは、ほとんどベンチャー企業です。いわゆるベンダーさんとは先進的なお付き合いをあまりしていません。やはり、若い人たちに志を果たしてもらいたいじゃないですか。ベンチャーに頑張ってもらいたいと思っています。

伊藤 行政の方はなかなか「失敗した」と言わないし、言えないと思い込んでいる節があります。その中で、宮元市長のようにさらっと「失敗もありますよ」と仰るのは、すごく新しく感じます。

宮元市長 あまり気にしていないですね。

伊藤 加賀市の職員の方も仕事がやりやすそうですね。

宮元市長 どうでしょう?職員は逆に嫌がってるかもしれません。私が新しいことばかりどんどんやれって言うもんですから。最初は「IoT(モノのインターネット)」も「第4次産業革命」も何ですかそれ?という感じでしたからね。コツコツ積み上げていって、今に至るまで4〜5年かかりましたね。まだまだスピードは遅いと思っていますが。

伊藤 テクノロジーに対して一定数アレルギー反応を起こす職員の方がいらっしゃったということですよね。そういう方たちに対しては、どんな訴え掛けで理解を促したのですか?

宮元市長 理解や納得を完全に得られているかは分かりません。ですが、やはり「こういう未来があるぞ!」と志や理想を掲げて訴え続けるというのが一番大事です。信念は曲げてはいけないと思います。その上で、具体的にこんなテクノロジーを使えば、市民のQOL(生活の質)がこれだけ上がるというような説明をきちんとしていくと。

先ほどもお話ししましたが、橋や道路やハコモノを造る方が分かりやすいんですよ。でも、もうそんな時代ではないので。無形の時代になってきていますから。有形が悪いということではなくて、無形と有形をうまく融合していかないといけませんよね。そういう考えを理解していただけるように、先頭を走る意識をしてきました。

 

第2回につづく


【プロフィール】

宮元陸(みやもと・りく)
石川県加賀市長
1956年111日生まれ。法政大学法学部卒。衆議院議員秘書を経て19994月から石川県議会議員を4期務める。県議会副議長・県監査委員・県議会運営委員会委員を歴任したのち、201310月に加賀市長に就任。現在は2期目。ウォーキングと水泳を趣味にしている。

 

伊藤大貴(いとう・ひろたか)伊藤大貴プロフィール写真
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

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