石川県加賀市 宮元陸市長インタビュー(3)ベンチャー的思考で「既成概念に縛られない街」を目指す

石川県加賀市長 宮元陸
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴

2021/03/15  石川県加賀市 宮元陸市長インタビュー(1)
2021/03/18  石川県加賀市 宮元陸市長インタビュー(2)
2021/03/22  石川県加賀市 宮元陸市長インタビュー(3)
2021/02/25  石川県加賀市 宮元陸市長インタビュー(4)


本インタビュー(1)と(2)では、全国の自治体に先駆けて先端テクノロジーの導入やデジタル人材育成に取り組む理由を、現在の加賀市の状況と照らし合わせながら聞いた。今回からの(3)と(4)では、移住・定住や子育て、関係人口がスマートシティー化によってどう変化していくのか? 加賀市が目指す「挑戦可能性都市(どこよりも便利で、快適で、暮らしやすい街)」のビジョンについてのインタビューをお届けする。

市を先端テクノロジーの実証実験ができるフィールドに

伊藤 加賀市のIoT(モノのインターネット)導入実証事業の取り組み(先端技術等を活用した実証実験プロジェクトを全国から公募する事業。採択されたプロジェクトは、加賀市の全面的サポートを受けながら実証実験ができる)では、「5G」(高速大容量規格)、AI(人工知能)、IoTなどいろいろなテーマで公募されていますよね。しかも、1提案当たり200万円までの委託金も出すよという話で。サポートの一つとして市がお金も出すという発想に驚きました。

宮元市長 加賀市は県庁所在地の金沢からも離れていて、都市部に比べて交通の便も悪いです。商店の数も多くありません。しかも空き家もどんどん増えている。そんな状況の中で良いプロジェクトに来てもらおうと思ったら、やはりインセンティブを付けなければならないですよね。

伊藤 今は、デジタル社会にシフトしていく入り口だと思います。そんな中、宮元市長のように判断が速くて、柔らかい発想をお持ちの方の所で社会実験をしたい。そう考えるベンチャー企業も多いはずです。

ただ、これはあえて現実的な質問なのですが、自治体の立場からしたら社会実験ばかりしていても運営が続かないと思うんですね。例えば結果として会社が集積されなかったとしても、人やお金がちゃんと自治体に入ってくるような仕組みをつくるのが大切ではないかと思うのですが、この辺りはどんなイメージを持っていらっしゃいますか?

宮元市長 我々は何もないところから新しいものを創っていこうという状況です。ですから、まずはベンチャーを含めて多くの企業に「加賀市だったらチャレンジできそうだな」と関心を持ってもらわないといけません。でないと、インセンティブは全く働きませんから。まずはそこからです。

今、市民との間で官民連携協議会(「加賀市スマートシティ推進官民連携協議会」:スマートシティーに関する情報交換や普及啓発、実証事業の推進などを官民一体で構築する会)をつくっています。実証実験するには、やはり住民合意が必要ですから。例えばドローン(小型無人機)一つ飛ばすにしても、民家の上を飛ぶのはなかなか難しいです。ですから、そういう所で一つ一つ、住民合意を取りながら進めています。

このように実証実験がしやすい環境づくりにも併せて取り組んでいるので、企業にとっても参入しやすいわけです。こうして環境から固めていかないと、なかなか定着にはつながっていかないと思います。

我々みたいな消滅可能性都市だからこそ、そこまで考えていかないと生き残れないと感じています。

伊藤 まさに、加賀市は実験のフィールド都市のような立ち位置になりつつあるんですね。ラボと言いますか。

宮元市長 そうです、まずはそこからです。単なる企業誘致ではありません。同時に人材育成もしていますから、両軸で新しい産業を生み出そうとしています。

伊藤 人材育成の一方で、将来的に地元に雇用がないと人が加賀を離れてしまう気がするのですが、この辺りはどんなイメージを持たれていますか?

宮元市長 ベンチャーや大きな企業も含めて、加賀で起業してもらったり、サテライト的な事務所を構えてもらったり。そういう動きが少しずつ起きてこないと、若い人たちがここに定着して何かをやってみようという気持ちにはならないですよね。そのために今、いろいろな仕掛けをしている最中です。やはり若い人たちに「加賀市は面白いな」と思ってもらわないと駄目なんですよ。

子どもたちがテクノロジーに親しみを覚える街へ

加賀市 コンピュータークラブハウス

伊藤 話は少し変わりますが、今後出てくるであろう企業のニーズについてご意見を伺いたいです。弊社は普段ほとんどテレワークで仕事をしていまして、地方にお住まいの方とも業務契約を結んでいます。距離が離れていても、オンラインで一緒にお仕事することは十分可能です。

今後、同じような企業がたくさん出てくるだろうなと考えたときに、例えば、東京ではエンジニアが枯渇しているんですね。取り合いの状況が続いています。そうなると将来的に、加賀市で育成されているような若いテクノロジー人材が注目されると思うのですが、その辺りどんなお考えをお持ちですか?

宮元市長 ちょうどこの間、AIのベンチャーの方と若い人材について話していました。やはり良い人材は、高校生くらいからいるようですね。

加賀には「コンピュータークラブハウス」という施設があります。子どもたちがテクノロジーに触れられる場で、米マサチューセッツ工科大が世界で100カ所くらい展開しています。それを市で誘致させてもらって、国内第1号として開設しました。プログラミングゲームや映像制作など全部無償で体験できるようにしていますが、いろんな所から子どもたちが来ています。

そんなふうに若い人たちが育つ土壌を加賀でつくって、いずれ日本を引っ張っていってもらえればと思います。

伊藤 私の知り合いのお子さんが、中学生ですでにスーパーエンジニアなんです。そういった能力の高い子どもたちの間ではコミュニティーができていて、この先ブロックチェーンやAIがどうなるのか? なんて話題が飛び交っているそうです。もちろんオンライン上でつながってですが。そういう子どもたちにも、「何か挑戦がしたければ、懐深く受け止めてくれる自治体があるよ」と、加賀市の情報を届けられるといいですよね。

第4回につづく


【プロフィール】

宮元陸(みやもと・りく)
石川県加賀市長
1956年111日生まれ。法政大学法学部卒。衆議院議員秘書を経て19994月から石川県議会議員を4期務める。県議会副議長・県監査委員・県議会運営委員会委員を歴任したのち、201310月に加賀市長に就任。現在は2期目。ウォーキングと水泳を趣味にしている。

 

伊藤大貴(いとう・ひろたか)伊藤大貴プロフィール写真
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

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