先例にとらわれず、一人ひとりが考える組織文化をつくる 〜佐藤淳一・福島県磐梯町長インタビュー(4)〜

佐藤淳一・福島県磐梯町長
(聞き手)株式会社Public dots & Company

2021/09/27  巻き込みとアジャイルで進める自治体DX 〜佐藤淳一・福島県磐梯町長インタビュー(1)〜
2021/09/30  巻き込みとアジャイルで進める自治体DX 〜佐藤淳一・福島県磐梯町長インタビュー(2)〜
2021/10/04  先例にとらわれず、一人ひとりが考える組織文化をつくる 〜佐藤淳一・福島県磐梯町長インタビュー(3)〜
2021/10/07  先例にとらわれず、一人ひとりが考える組織文化をつくる 〜佐藤淳一・福島県磐梯町長インタビュー(4)〜

アジャイル運営を成立させるフラットな情報共有

PdC アジャイルで行政運営をしていった際に起こり得るのが予算修正です。事業がことのほか進み、最初に見積もった予算よりも、もう少し実証実験などに回せるお金が欲しくなるケースもあることと思います。そこの修正の幅を先に予測しておくのも、勘所の一つですね。

佐藤町長 お金を掛けなくてもできることはたくさんありますから、それについてはどんどん行えばいいでしょう。アジャイル型の場合、最初の計画の時点である程度の予算は算出できるものの、やはり曖昧なところもあります。曖昧で変動がある部分については、次の議会で修正して補正予算化すればいいのです。とにかく、「予算を何に使うのか?」その目的を議会で説明できることが重要です。

ですから私は、寝耳に水にならないように、日頃から議員の方に対して頻繁に状況を説明しています。例えば、方向性が変わったからこのように体制を変えたい、とか、今こんな問題が発生しています、などですね。全員協議会の場でお話しすることもありますし、各議員の方にメールで直接情報を送ることもあります。またコロナ禍ですのでZOOMが使える議員さんに関しては、ZOOMで打ち合わせをすることもありますね。

 

PdC 情報がオープンなんですね。今、ZOOMで打ち合わせとおっしゃいました。ここで一つ疑問に感じたのが、特定の議員の方だけにオンラインで情報提供することに関して、他の議員の方からは反対意見は出ないのですか?

佐藤町長 もちろん基本的には、議員の方と職員が直接やりとりして情報共有をしていただくようにしています。私と議員の方とのコミュニケーションは、補足説明のようなものです。

今の話の着眼点は「情報共有することが大事」ということでして、その手法は何でもいいと思っています。オンラインの使い方が分からない議員の方のところには訪問したり電話したりしますし、メールの送受信ができる人にはメールで、ZOOMが使える方はZOOMで、といったように、きちんと情報共有ができるやり方を使い分ければいいのです。

ちなみに私は、職員に対しても毎週1回ブログを配信しています。町長の立場として現在考えていることや、進行中の企画の詳細などです。議会や役場幹部への情報はどうしても途中で滞ったり、ニュアンスが違って伝わったりすることがあります。それを職員一人一人に隅々まで行き渡らせるようにとの目的で配信しているブログです。

 

PdC 途中で情報が滞ることは、自治体DXの先頭を走る磐梯町でもありますか?

佐藤町長 時折起こります。ですからそれらをサポートするための町長ブログです。

よくある行政のパターンとして、役職者が情報を小出しにするというものがあります。情報をよりたくさん持っているのが上司という考えが背景にあるのか、役職者で情報をコントロールする傾向もあったと思います。

磐梯町の場合は「職員一人一人が考える癖を付ける」ことを目指しているので、そのために私から、全職員に全ての情報を公開します。課長会議の資料などもオープンです。そうすることで、職員が自ら考える自主性を育てることになり、各課においてはボトムアップ型の組織に(なることに)より業務スピードが格段に増すことになると考えています。その方が課長も仕事がしやすくなると思いますね。

 

PdC 具体的にどのように情報公開しているのか、差し支えなければ教えていただけますか?

佐藤町長 磐梯町ではコミュニケーションツールとしてMicrosoft Teamsを採用しています。その中で、プロジェクトや関係者ごとに分けたチャットグループがいくつもあるのですが、全職員に向けての配信もできます。

最近流した情報は、「磐梯デジタルとくとく商品券」の販売目的や、DX、行政におけるデザイン思考の理由などですね。何を実施するかよりもなぜ実施するのかを説明するようにしています。議会での決議事項や全員協議会で話し合った内容も、全職員に共有しています。

それから、庁内報も必要なタイミングで出しています。最近は「この2年間の振り返りと今後2年間の方針」というテーマで出しました。これも職員にトップの方針を直接伝えることで、今後の方向性を理解して担当業務につなげてもらうことを目的としています。

 

PdC 今のお話で、DXの行く先が見えたような気がします。今までは、情報強者・情報弱者という言葉が示すように、持っている情報の質や量や時間差で立場が決まっていました。地方議員がよく「先生」と呼ばれるのはそれが理由で、いち早く行政の情報を手に入れられる存在だからです。

しかし、これからは磐梯町のように、デジタルによって誰しも情報をフラットに(差がなく)閲覧できる仕組みに変わっていくでしょう。その時は、得た情報から適切に次のアクションを判断できるかどうかで、役職の重みが変わってくるのではないかと感じます。

佐藤町長 私もその通りだと思います。役職という考え方よりも、どちらかといえば「ポジション」です。町長も課長も、あくまでそういうポジションなだけであって、偉いわけではありません。そのポジションとしての役割を果たしているのです。この考え方が根底にあれば、立場を守るために情報を小出しにするシーンはなくなるでしょう。

自治体の規模にかかわらず、まずは既成概念の打破から

PdC 最後に、全国の公務員の方の想いを代弁するような質問をさせていただきます。これまで佐藤町長には、磐梯町で取り組んでいるアジャイル型の行政運営について伺ってきました。

もしかすると読者の中には「磐梯町のような小規模な自治体だからこそできたのだろう」と感じる方もいらっしゃるのではないかと思います。例えば同じようなことを大規模な自治体で行う場合、どのように進めていくのがいいと思いますか?

佐藤町長 確かに磐梯町は規模が小さい分、説明する人数も少ないですから、変革を起こしやすくはあるでしょう。しかし、組織が大きくなったとしても基本的にやることは同じです。一つ一つの部署はそこまで大きくないでしょうから、まずはそこから変えていくことです。

何に挑戦するにしても、最初は「できません」の既成概念を打破するところから始まります。「なぜ、できないのか?」「法律上問題があるのか?」「条例上問題があるのか?」──。突き詰めていけば、多くの場合「できる」にたどり着きます。ここまできたら実行すればいいだけです。

最初は一つの部署からでいいので、こういった動きをしていくと、やがてオセロのように組織全体の色が一気に変わる時が来るでしょう。

【編集後記】
「なぜできないのか?」を突き詰めると、最終的には「できる」になる。インタビューの中で佐藤町長が繰り返しおっしゃったこの言葉からは、「改善することが大前提だ」という考え方が伝わってきました。

社会のスピードが一層加速し、さらに状況も目まぐるしく変化する中、以前と同じやり方では対応できなくなるもの、最初から全て要件定義をすることができないものは、今後ますます増えていくでしょう。そのときに行き詰まりを防ぐための考え方が、まさに「アジャイル」ではないでしょうか。ある程度の曖昧さは許容しながらも、素早く動き、改善しながら進めていくスタイルは、多くの公務員の方にとって働き方のトランスフォーメーションとなるはずです。

磐梯町のDXは、現在フェーズ2に入ろうとしています。先導してきたデジタル変革戦略室は2023年6月で解体することが決定しており、それまでに、各課が住民本位のデジタル活用を自然に行えるような体制を築きます。

人口約3400人の小さな町、されど、日本で最もDXが進む町の今後の動きに期待しながら、本稿を閉じたいと思います。

 

(おわり)


【プロフィール】

佐藤 淳一(さとう・じゅんいち))
福島県磐梯町長

1961年9月生まれ。日本大学工学部卒業。磐梯リゾート開発(現在、星野リゾート アルツ磐梯などを運営)に入社後、星野リゾートの東京営業所長や磐梯リゾート開発の取締役総支配人を歴任。2015年に磐梯町議会議員。2019年6月から現職。

スポンサーエリア
おすすめの記事