市民感覚を大事にしつつ、経営目線を持つ~白岩孝夫・山形県南陽市長インタビュー(3)~

山形県南陽市長 白岩孝夫
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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第1回第2回に引き続き、山形県南陽市の白岩孝夫市長のインタビューをお届けします(写真)。今回は「南陽市役所ラーメン課R&Rプロジェクト」(注1)をはじめとするユニークな政策を生み出した、良い意味でトップらしからぬ、白岩市長のリーダー像に迫ります。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

 

写真)白岩市長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

注1=2016年に開始したシティープロモーション施策。来客者を出前のラーメンでもてなす南陽市の習慣に中学・高校生が着目し、まちの魅力になり得ると市に提案したことがきっかけで立ち上がった。官民協働で市内のラーメン店に関するデータベースとマップを作成。19年には人気漫画「ラーメン大好き小泉さん」とのコラボレーションが実現し、作中に南陽市が登場したほか、市内のラーメン店を巡る「なんようしのラーメンカードラリー」を定期的に開催している。

自然体で振る舞う

小田 前回は南陽市の政策を中心に伺いました。白岩市長のリーダーシップの下、「ラーメン課プロジェクト」に加え、「行かなくても済む市役所」(注2)や「南陽高校市役所部」(注3)など、シティープロモーションからデジタルトランスフォーメーション(DX)、将来の人材育成に至るまで、地方創生に向けた重要施策にしっかりと着手されていますね。

白岩市長 私は特別、何かに秀でているとは思っていません。他自治体の若い首長さんを見ていると、その行動力に感心します。

 

小田 確かに、いつ寝ているのだろうかと心配になるほど精力的に動く方は多くいます。一方で、リーダーが特別な存在であり過ぎるというのもどうでしょうか。持続可能性がありません。いわゆる「普通」の方がリーダーになることが、これからの時代は大事だと思います。

白岩市長 市民感覚を持つことは大事ですね。

私は市長就任前に市議を2年務めました。その前は新聞配達員でした。新聞配達は地域の皆さん全員がお客さま候補になります。ですから、世の中で最も多く頭を下げる仕事の一つと言えます。議員も同じです。その経験があるので、市長になっても自分が特別な存在だとは思いません。

かつては税理士事務所で働いていたこともありましたが、ここでは相談に来られた経営者から「先生」などと呼ばれたりしました。私自身は税理士の資格を持っていませんが、その場にいるだけで特別視されるのです。職種によって周りからの見られ方が全然違うのだと、ギャップに驚きましたね。

 

小田 白岩市長のお話しぶりには、とても親しみを感じます。誰に対しても自然体で接していらっしゃるのでしょうね。

白岩市長 気を付けないといけないのが、市長が行くべきだろうという場に時々、声が掛からないことです。こちらで注意を払っておかないと、職員が私抜きでさらりとイベントなどを終わらせていたりします。だからアンテナを張っていますね。

 

小田 それだけ職員が主体的に動いているということではないでしょうか。白岩市長は威厳を示すというよりは、自然に組織に溶け込むタイプのリーダーですね。

白岩市長 「もっと市長らしく」と言われることもありますが……。就任当初は、やはり人前では威厳を示さなければならないのかなと考えました。しかし自分らしさを抑え、型にはまったような市長像を演じても後悔すると思い直しました。

もちろん、そういう雰囲気を自然に出せる首長であればよいのですが、私には無理があると感じたのです。せっかく親族や友人に迷惑をかけながら選挙に出て、市長になったのであれば、自然体で振る舞おうと考えて今に至ります。

 

小田 そうした姿を見ているからこそ、市民から信任を得ていらっしゃるのだと思います。肩肘を張らずとも周りから支えられ、良い流れに乗ることができるリーダーですね。

白岩市長 そういう意味で言えば、所属している全国青年市長会で、かつて会長を務めたのも周りの皆さんから頂いたものです。当時の会長だった神奈川県鎌倉市の松尾崇市長からご指名いただきました。理事になったときは、これも当時の会長だった沖縄県石垣市の中山義隆市長からのご指名です。皆さんが道筋をつくってくださった後を引き継ぐことが多いです。

 

注2=DX施策の一つ。デジタル技術にたけた職員が主導し、住民票や印鑑証明書のオンライン申請サービス、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)を使ったワクチン接種予約の自動化、人工知能(AI)のチャットボット(自動応答システム)による問い合わせ対応などを実現した。

 

注3=高校生が主体となったまちづくりのボランティアサークル。市内で唯一の高校である県立南陽高校に仮想的な「部」を設置し、教育機関と地域が恒常的に関わることができるような座組みにしたのが特長で、将来を担う若者の声をまちづくりに生かすとともに、地域の人材育成につなげるのが狙い。所属する高校生は探究学習の一環として、まちの魅力をSNSで発信したり、市の特産物を用いた商品開発を行ったりする。

 

ハードは縮小、ソフトは拡充

小田 先ほど「市民感覚を持つことは大事」だとおっしゃいました。市民の将来のために今必要だと思われる政策を、主にソフト面で展開されているように感じます。実際にそのような意識で進めているのですか?

白岩市長 箱物を造ることに関しては前市長が推進していたこともあり、市民の意見は二分されています。私は今あるものを生かすことに重きを置いていますが、中には「市長は何も造らない。一体、何をやっているのか」とおっしゃる方もいます。

しかし、今後は人口が間違いなく減少していきます。公共施設の面積を広げれば、どう考えても将来的に苦労します。私は公共施設の管理・運営は「撤退戦」だと考えています。ただし、市民には「撤退」をあまり感じさせないように意識しています。ソフト政策でまちを盛り上げつつも、少しずつ公共施設の面積を縮小させていっています。非常に難しいですが、今必要だと思うことなので進めています。

 

小田 おっしゃる通り、公共施設の管理・運営は撤退戦ですね。同じ考えを持つ首長は全国に多くいます。しかし住民や議会との関係で、なかなか手を着けられずに悩む方も多いです。

白岩市長 議員からも住民からも「あの市長は何もやっていない」と評価されるのは、非常につらいことです。

 

小田 白岩市長にも同様のプレッシャーがあるのですか?

白岩市長 ありますね。最初の市長選では「身の丈に合った市政」をキャッチフレーズに掲げました。それに対して「『身の丈』では成長しない。縮小するだけだろう」とおっしゃる市民もいらっしゃいました。確かにそれも一理ありますが、一方で多数の市民は「行政が肥大し過ぎると自分たちの生活が大変なことになる」と、肌感覚で理解しているように思います。そうでなければ当選はしなかったでしょう。

 

小田 最近は女性首長や民間出身の若い首長が増えてきました。そうした傾向からも「現状を変えてほしい」という有権者の思いが強くなっているように感じます。

白岩市長 よほど未来に対する信頼がなければ、現状を変えたいと思う気持ちの方が強いですよね。今はどの自治体でも、現状のままで良いと思う方は少ないのではないかと思います。

 

小田 一方で「現状を変える」という言葉が、違った解釈で捉えられる危険性もあります。奇をてらった政策や、ばらまき政策などはその代表例です。見た目のインパクトが強い政策に有権者は引っ張られがちですが、今大事なのは将来を見据え、ソフト政策に注力するような「地道なまちづくり」だと思います。

白岩市長 例えば給付金の支給をマニフェスト(政策綱領)に掲げて当選する首長もいますが、私個人としては、そのような票の動きは民主主義のウイークポイントだと考えています。

 

小田 ばらまき政策は短期的に見れば良いかもしれませんが、長期的に見ると自分で自分の首を絞めることになりかねません。

白岩市長 その通りだと思います。自分が推進しようとする政策を継続させるためには、自分で自分の行いを一部否定しながら、新しいものにしていかなければなりません。常に自己否定を続けながら、生まれ変わるイメージが必要です。

 

小田 白岩市長は自らを見詰め直す際、普段から意識していることはあるのですか?

白岩市長 職員や市民の話から気付きをたくさん頂いています。胸に刺さることも多いです。自分ではこの方向で進もうと思っていたけれど、こちらに行くべきかと考えを切り替えることもあります。

 

小田 白岩市長は話しやすい雰囲気をお持ちなので、職員から率直な意見が出てきそうですね。

白岩市長 割とざっくばらんに話してくれます。私は職員に、決定したことに関しては100%遂行してほしいと思いますが、何回ぶれても正解にたどり着けばいいとも考えています。ですから、いろいろな意見を日頃から聞きたいのです。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年9月4日号

 


【プロフィール】

山形県南陽市長・白岩 孝夫(しらいわ たかお)

1969年生まれ。東北学院大文卒。税理士事務所や新聞販売店での勤務を経て、2012年山形県南陽市議に初当選。14年南陽市長選に初当選し、現在3期目。

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