市民感覚を大事にしつつ、経営目線を持つ~白岩孝夫・山形県南陽市長インタビュー(4)~

山形県南陽市長 白岩孝夫
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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自治体経営の視点

小田 最近は「人口が減っているから移住・定住の促進を」「若者が流出しているから雇用促進を」というように、課題の裏返しとなる政策が自治体戦略のメインになっているような気がします。白岩市長は自治体経営の現状を俯瞰で見て、思うことはありますか?

白岩市長 私はいつも「少子化に歯止めを」の「歯止め」が、どういう意味で捉えられているのだろうかと感じています。いつ歯止めがかかると言えるのか、具体的に答えられる人は少ないです。

人口減少について、私は職員にこう伝えています。「2040年までに合計特殊出生率が人口置換水準の2.07に上がったとしたら、その60年後の2100年の少し前にやっと人口は均衡する」。

最大限の努力をしても人口減少がストップするのは、そこから60年後です。合計特殊出生率の目標達成が先延ばしになればなるほど、人口はどんどん減っていきます。均衡を保つようになるのも、さらに先になるでしょう。これを理解していなければ、どんな政策も的外れになります。庁内で、現状に対する共通認識が必要です。

個人的には、移住者に支度金を出すような促進政策はあまり意味がないと考えています。税金を投じて国内で人を移動させても、日本全体の人口増加には何の寄与もしません。お金がなるべくかからない範囲でやるべき政策だと思います。

 

小田 白岩市長の視点は経営者のようですね。

白岩市長 政治の世界に入る前は、実家の新聞販売店を継ぐつもりでした。そういう意味では経営者になろうとはしていました。また、税理士事務所で15年間勤務した経験も大きいです。税金の流れが理解できましたし、地元企業の経営者の考えもたくさん聞くことができました。これらの経験はものすごくプラスになっています。

 

子どもたちの将来のために

小田 終始、飄々とお話しになる白岩市長ですが、その奥では自治体経営に対する危機感や、時間的なリミットを感じていらっしゃるのではないでしょうか?

白岩市長 私には子どもが5人います。そもそも市長になろうと思ったのは、自分の子どもたちに「お父さん、何できちんとまちづくりをしてくれなかったの」と言われるのが嫌だったからです。

現状維持のままの行政では、将来的に財政破綻は避けられないでしょう。20~30年後に子どもたちがひどい目に遭う姿が、如実にイメージできました。だから、それを回避するために今できることをやろうという思いで市長になった次第です。

 

小田 個人的にはそのうちに国も余裕がなくなり、地方に交付金も下りてこなくなるだろうと思っています。白岩市長はどうお考えですか?

白岩市長 この10年で産業構造は大きく変わりました。世界的な経済状況を見ていると、米国・中国・欧州は厳しさを増すのではないかと思っています。となると、これから伸びてくるのはアジアや日本かという希望は持っています。

今のうちから対策をしておけば、人口が減少しても所得を伸ばすことができるのではないかと。そういう意味では、日本政府がいきなり縮小するとは思っていません。

ただし、政府がこれまで通りの機能を十分に発揮できるかといえば、その可能性は低いでしょう。難しいと思います。しかし日本人の気質として、危機にひんしたときにはやるべきことをやるのではないでしょうか。個人的には、まだ間に合うと思っています。

 

小田 世間では、日本の現状のマイナスな部分のみがクローズアップされる傾向にあります。そこまで悲観的にならなくともよいというのが、白岩市長のお考えなのですね。

白岩市長 捉え方が極端だとは思いますね。ネガティブになり過ぎないことも大切です。日本は戦後、国際社会の中で同じ姿勢を取り続けてきましたが、だんだん曖昧なところに白黒を付けることを求められつつあります。これからは「決める」ことにより、世界の信頼を損なうこともあるかもしれませんが、反対に得られる信頼もあるでしょう。日本が国際社会の中でしっかり役割を果たせるようになると良いと思います。

 

【編集後記】

「もっと市長らしく」と求められることもあるという白岩市長。フラットで親しみのある雰囲気を醸し出す一方で、その視点は非常に経営的でした。政策はハードよりもソフトを重視し、投資対効果を意識して資源の投入を行っている印象です。こうした、一見すると「らしくないリーダー」が、時代の変わり目に活躍する変革者なのかもしれません。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年9月4日号

 


【プロフィール】

山形県南陽市長・白岩 孝夫(しらいわ たかお)

1969年生まれ。東北学院大文卒。税理士事務所や新聞販売店での勤務を経て、2012年山形県南陽市議に初当選。14年南陽市長選に初当選し、現在3期目。

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