基礎自治体・広域自治体・国の役割分担~髙橋勝浩・東京都稲城市長インタビュー(4)~

東京都稲城市長 髙橋勝浩
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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デジタル共有化に立ちはだかる壁

小田 デジタルの共有化ですが、現場レベルでの問題については、どうお考えですか?

髙橋市長 国も都道府県も市町村も、内部にデジタルの技術者を置かずに電算化を進めてきました。役所の職員は専門家ではありませんから、電算化はすべて外部に委託するという発想になりがちです。

しかも当時は行政改革が叫ばれていた時代で、職員は増やせず、給与水準も下げるという動きがあったため、なおさら専門性の高い電算化業務は外部に丸投げする形で進められてきました。基幹システムはつくったものの、内部の職員だけでは改修できないケースが多く見られます。

 

小田 帳票を1枚作るにも、ベンダーへの依頼が必要となる自治体もあると聞きます。役所内にデジタルに関する知見がほとんど蓄積されていないのは、大きな問題の一つです。

そんな中でも最近は、データ連携基盤やアプリケーション基盤などの統合的な仕組みをつくろうとする自治体が幾つか出てきています。そうした自治体は、出来上がった仕組みを他自治体へ横展開したいとも言っています。

しかしながら、いざ横展開を試みると、自治体ごとに異なる仕様や業務フローが壁になります。「なぜ他の自治体に合わせて、自分たちの仕様や業務のやり方を変えなければならないのか」という反発が噴出します。

髙橋市長 仕様の問題以前に、これまでは国の方針で、自治体ごとに電算化を進めるような体制になっていました。その結果、ベンダーもデータの仕様もばらばらになったのです。これを2025年度末までに統合するのは至難の業だと思います。

ハードとソフトを含め、コンピューターを次の国策の主力に据えるのであれば、ベンダーを合併・統合するくらいのことが必要です。まずは国主導でシステムやソフトウエアを統一してから、全市町村に下ろすべきでした。

実際にそれを行ったのは韓国です。ただし、日本で同じことをしようとすると、反発は大きくなるでしょうね。

 

小田 デジタル庁の発足当初は、ガバメントクラウドで標準システムを提供するといわれていましたが、難航しているように見えます。

髙橋市長 すべての自治体でソフトウエアの標準化が行われると思っていましたが、データの仕様の共通化で話が進んでいますね。ベンダーは違っても、データの仕様はそろえようということでしょう。

 

小田 道のりは厳しそうですね。

髙橋市長 個人的に最も望むのは電子カルテの標準化です。人の健康や命に関わる情報なので、それこそ国が仕様を決め、全国どの病院からでも参照できるような仕組みが必要です。しかし、そこでも「ベンダーが違うからデータの仕様が異なる」という問題が横たわっています。統合しようにもベンダーの企業秘密といった壁があり、なかなか進まないと聞きます。

今のところは、小さなエリア内で了解を取った病院や医師会の間でデータ連携がされています。稲城市も市立病院と医師会所属のクリニックの一部で電子カルテ情報の共有を行っていますが、なかなか広がらないという危機感はあります。

 

小田 「国が主導する」ことを拒否する層は一定数います。しかし、そうも言っていられない状況に差し掛かっているように思います。

髙橋市長 政治の在り方が問われています。民主主義の中でも誰かが号令をかけ、それに従うことが必要な場面もあります。

 

日本の可能性を取り戻すために

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小田 日本はさまざまな問題を抱えていますが、その根底には基礎自治体・広域自治体・国の役割分担が明確化されていないという現状があります。

髙橋市長 解決の兆しが見えない問題もありますが、私自身は日本の可能性や能力が失われたとは思っていません。相変わらず技術力は高いですし、著しく貧しい国になったというわけでもありません。仕組みを再構築すれば、十分に世界と渡り合えるだけの力はあると考えています。

ネット上では「日本はオワコンだ」と発言する若者が増えつつありますが、ひとえに「自信の喪失」がそうさせているのだと思います。これは元をたどれば、教育の問題です。安易に「日本は可能性がない」というような意識は植え付けない方が良いでしょう。

 

小田 国づくりは人づくりと言います。教育については、どうお考えですか?

髙橋市長 未来に展望を持てるよう、教育を変えていく必要があります。一人の首長として、教育の内容にどこまで踏み込めるのかという葛藤はありますが、自己肯定感を高める教育を子どもたちには受けてほしいと願っています。

先生の決めた通りに子どもたちが動くのではなく、子どもたちが自主性を持って物事を進める方が、政治に関する学びにもつながります。

例えば生徒会の活動を予算も含めて、子どもたちが考えるくらいの裁量があってよいと思います。これは関係者と利害調整を行いながら、やりたいことを実行する経験となります。子どもの頃から政治の本質とも言える経験を積めば、政治参加への考え方も変わってくるのではないかと思います。

自分自身や自らの国を肯定的に捉えられる教育が展開できれば、日本はあっという間に立ち直るのではないでしょうか。

 

小田 未来に展望を持てる力強いお言葉です。

髙橋市長 賛否両論ありますが、私は愛国心を持ち、自らの国に自信と誇りを持てるような、かつての教育を再開すべきだと考えています。そのために教育再生首長会議に参加しており、全国の首長と教育について議論を交わしています。

日本は夢を持たない社会になったといわれますが、そんなことはありません。自分の可能性に気付いて夢を持ち、責任を持って進んでいくことは、とてもわくわくすることです。若者たちには諦めない心を持って、人生を歩んでほしいと思います。

 

【編集後記】

長きにわたり、曖昧にされてきた基礎自治体・広域自治体・国の役割分担。これを整理・明確化していくことは、およそ容易な作業ではないでしょう。しかし時代は、それに取り組まなければならないフェーズ(段階)に差し掛かってきています。ここで必要なのは髙橋市長のような、全体俯瞰性と熱量を持つリーダーによる「基礎自治体からの本気の訴え」です。

現状で出口が見えない問題に対しても諦めずに働き掛け続ける姿勢が、今後数十年の日本の未来を決めるのではないでしょうか。読者の皆さんも「日本の可能性」に目を向けながら、日々の業務にまい進していただければと思います。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年6月5日号

 


【プロフィール】

東京都稲城市長・髙橋 勝浩(たかはし かつひろ)

1963年生まれ。早大政経卒。85年東京都稲城市に入り、市立病院医事課長、財政課長、会計管理者、生活環境部長などを歴任。2011年4月稲城市長に就任し、現在4期目。1986年4月から2000年3月まで稲城市消防団に所属。

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