自分たちのまちに絶対的な誇りを持つ~野田義和・大阪府東大阪市長インタビュー(1)~

大阪府東大阪市長 野田義和
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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2023/08/05 「上善如水」のリーダーシップ~野田義和・大阪府東大阪市長インタビュー(4)~

 


 

大阪府東大阪市の野田義和市長は、1987年から同市の市議を5期20年務めた後、2007年に就任しました。現在は4期目で、市議時代を含めて計36年間にわたり、市政の最前線に立ってきました。

東大阪市と言えば、中小企業や工場が集積する「モノづくりのまち」というイメージが強いのですが、野田市長は「ラグビーのまち」「子育てしやすいまち」という新たな価値を加え、シビックプライド(自分の住むまちを誇りに思う気持ち)を育ててきました。

そんな野田市長に、試行錯誤を重ねながら歩んできた都市経営の道のりについて伺いました。(写真、聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

副市長不在の2年間

小田 今回のインタビューに当たり、議会の議事録や過去の報道などを確認しました。そこで気になったのが副市長の人事です。東大阪市は野田市長の就任前、1年半ほど副市長と教育長、水道事業管理者が不在でした。就任後もすぐには副市長が置かれず、2年後にようやく2人が選任されました。どんな事情があったのでしょうか?

野田市長 私は市長就任前、市議を5期20年務めました。5期目には議長職も務めましたが、その時代に議会は前市長に対する不信任案を可決しました。統一地方選の一環として、任期満了に伴う市議選が行われる直前のタイミングでした。

このため市議選が先に行われ、その後に市長選がありました。私は市議選への出馬を見送って市長選に立候補し、前市長ともう1人の候補者と争った結果、初当選したというわけです。

前市長は革新政党に所属していたので、議会はその政党以外、すべて野党という状況でした。その影響から副市長をはじめとする特別職が不在だったのです。私はそんな組織を引き継ぎました。

当初は平穏に市政をスタートできると思っていましたが、実際はかなり大変でした。今度は保守系の議員の間で対立が起こり、議会が混乱しました。結果として副市長を2年間、置くことができませんでした。

 

小田 副市長が不在だと、組織運営が大変だったのではないでしょうか?

野田市長 今でこそ笑い話にできますが、当時は本当に苦労しました。最も大変だったのは決裁です。数があまりにも多かったのです。朝に出勤し、まず行っていたのが、部長級職員の有休申請の書類に目を通して承認の判を押すことでした。このように、副市長が担うような仕事も私が行っていました。

決裁するためには当然、その背景にある事情を確認し、理解する時間が必要です。副市長がいれば、ある程度フィルターを通したものが市長に上がってきますが、就任後の2年間はそれがありませんでした。

フィルターを通していたら10分で理解できるようなことがダイレクトに上がってくるため、頭の中で整理するところから始めます。すると、30分から1時間ほどかかります。ですから、とにかく時間が足りませんでした。

 

小田 保守系議員の対立がなければ、就任後の早い時期に副市長を選任できたのでしょうか?

野田市長 小規模な自治体でも副市長は、少なくとも1人はいるでしょう。東大阪市は人口約50万人で、現在は条例定数の上限である3人の副市長を置いています。

私は就任当初、市長がすべてのことをこなしていては、どれだけ時間があっても足りないという経験を何度もしました。首長が首長としての仕事をするためには、副市長をはじめとする特別職は一刻も早く置いた方がいいと思います。

 

(写真)野田市長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

地域特性を考慮した副市長人事

小田 近年は民間出身の市長が増えています。その方たちが就任後に行う最初の副市長人事に、頭を悩ませているという話をよく聞きます。組織内の事情を十分に把握していない段階で人事を行うのは困難を極めます。5期20年の市議時代を経て就任した野田市長は、どのような基準で人選を行ったのですか?

野田市長 これまでに計6人の副市長を任命しました。このうち5人が市職員からの登用で、残る1人は国土交通省から招きました。私の経験から言えば、副市長の主な役割は組織内の状況を整理し、市長と情報共有することです。それに徹することができるのであれば、中央省庁や民間から招いてもよいと思います。

ただし、まちの特性は考慮する必要があります。東大阪市は商工会議所や自治会、民生委員会、子ども会など、市政に関係する人たちとやりとりすることが非常に多いのです。そうなると、各種団体のことを理解している人の方が適しています。

外部人材は各種団体との意見交換の際に感覚のずれが生じやすく、その溝はなかなか埋められません。いくら優れていても、正論だけでは押し通せないのです。地元の人たちの声を聞き、こちらの考えと足して2で割るというような柔軟さが必要です。こうしたこともあり、本市の場合は職員から登用した方が良いという判断に至ったのです。

 

小田 地域特性を踏まえ、人選したのですね。

野田市長 副市長と教育長に関しては、内部から登用しようと就任当初から決めていました。あくまで主観ですが、私のように市議時代から20年以上も住民と関わり続けて市長になった者と、そうしたお付き合いがほとんどないままで市長になった方では、やはり住民との関係に違いが出てくると思います。

私の場合は外を歩けば、さまざまな方から「あの道に開いた穴が直っていない」「公園のブランコが古いから替えてほしい」などと声を掛けられます。小学生から「給食のおかずをもう一品、増やしてほしい」と言われたこともありました。そうした経験を持たずに市長になった方は、副市長についても合理的な人選ができるのでしょう。どちらが正しいとは言えません。

 

小田 地域特性に対する考え方も、市長次第というわけですね。

野田市長 一つ言えることは、市長のことをよく理解している人物をナンバー2に置いた方が良いということです。それは役職のみならず、個人の特性も含めて理解を示し、タッグを組める人物です。そんな人がナンバー2にいれば、市長は心強いでしょう。

 

第2回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年6月12日号

 


【プロフィール】

大阪府東大阪市長・野田 義和(のだ よしかず)

1957年生まれ。87年10月から5期 20年にわたり、東大阪市議を務める。この間に市議会議長も経験。 2007年10月東大阪市長に就任し、現在4期目。座右の銘は「上善如 水(じょうぜんみずのごとし)」。

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