組織の心理的安全性の上に成り立つ挑戦 ~堀江和博・滋賀県日野町長インタビュー(3)~

堀江和博・滋賀県日野町長
(聞き手)株式会社Public dots & Company

 

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2021/11/5  ワクチン接種の予約システム、東京の民間企業と開発 ~堀江和博・滋賀県日野町長インタビュー(2)~
2021/11/9  組織の心理的安全性の上に成り立つ挑戦 ~堀江和博・滋賀県日野町長インタビュー(3)~
2021/11/12   組織の心理的安全性の上に成り立つ挑戦 ~堀江和博・滋賀県日野町長インタビュー(4)~


 

前回(第1回第2回)に引き続き、滋賀県日野町の堀江和博町長のインタビューをお届けします。

東京の民間企業と開発した新型コロナワクチン接種のウェブ予約システムが話題となった同町ですが、遠方の企業とのつながりをつくり、行政側から柔軟な対応を指揮したのが堀江町長でした。

地域の課題解決のために、前例にとらわれないやり方を実行するには、行政全体の対応力が十分に備わっている必要があります。

堀江町長は、行政組織にどのような風土を根付かせようとしているのでしょうか?今回のインタビューで詳しく伺いたいと思います。(聞き手=Public dots & Company)

中小規模の自治体ならではの強み

PdC 誤解を恐れずに言うと、行政の仕事は8〜9割がルーチンです。企画系の領域は多く見積もっても1割ほどではないかと思います。例えばその1割に興味がある職員でも、担当している業務がルーチンの領域だった場合、外の世界の話として積極的に関与しない気がします。

ただし、配置転換で企画系に携わる可能性があることを考えると、事前に業務の進め方やステークホルダー(利害関係者)の違いなどを知っておくのがいいかと思うのですが、学ぶ機会をどう設けたらいいのでしょう?

堀江町長 小さな自治体であれば、1人の職員がいろいろな業務を兼任していることが多いですから、自然と情報や温度感はつかめるのではないかと思います。意思決定の段階も少ないですから、プロジェクトが動いている様子は直接関わっていなくとも察することができます。

 

PdC そこは中小規模の自治体ならではの強みになりますね。今、「小さな自治体の方が意思決定が早い」とおっしゃいましたが、これは民間企業からしてみれば相性の良いカウンターパートの特徴です。

一方で、民間企業は事業のスケールも重視しますから、例えば日野町のような人口約2万人の町と共創した後の展開について、まだ確固たるイメージを持てない企業も多いのが事実です。この辺りのギャップをどう埋めるかが、官民共創の課題だと個人的に感じています。

堀江町長 確かに、日野町と政令指定都市を比較してみれば、政令市の方がマーケットの規模が大きいことは明らかです。ただし日本全体で見ると、ほとんどの自治体は中小規模です。予算はそれぞれでしょうが、一つ一つの自治体は独立していますから、自治体それぞれは対等な関係にあります。

それから自治体の基本設計は、どこもほとんど同じです。ですから、小さな自治体で官民共創をして生まれたものが、横展開で他の自治体に広められるという流れはつくれると思います。

 

PdC そうですね、民間企業側にもマインドセット(ものの考え方)が必要ですね。

従来の考え方で多いのは、規模の大きな自治体と連携して成果が出せれば、その後も仕事が継続的に舞い込んでくるという発想です。つまり、単なる受発注の関係になるわけです。さらに、大きな自治体と組んだという実績をレバレッジ(てこ)にして横展開しようとする考えもあります。

堀江町長 それは民間企業のマーケティングの方針にもよりますね。政令指定都市レベルの自治体を対象にしているのであれば、一つの手段ではないでしょうか。ただし、行政はやはり公共心(パブリックマインド)を持つ民間企業とつながりたいと思っていますので、過剰に利益を追求する企業との共創は避けるのではないかと思います。

社会への溶け込みを実感

PdC 日野町が民間企業と共同開発した新型コロナワクチン接種のウェブ予約システムは、4月から本格的な開発が始まり、7月には運用開始となりました。スピーディーに進んだ官民共創プロジェクトでしたが、自治体目線で配慮したことについて教えていただけますか?

堀江町長 やはりインターネットを使ったシステムですから、「スマートフォンやパソコンを持っていない方は使えないだろう」という意見が当然出てきます。行政はすべての住民にサービスを提供する責任がありますから、インターネットが使えない方に対しては、電話で予約ができるようにしました。

自動音声応答やコールセンターで直接オペレーターが対応するなど、ウェブシステムも含めて予約される方の使いやすさに配慮した設計になっています。

 

新型コロナワクチン接種のWeb予約システムに対応する職員(出典:町長オフィシャルブログ)

 

新型コロナワクチン接種のWeb予約システム運用開始当日。稼働状況を自らチェック(出典:町長オフィシャルブログ)

 

PdC 住民の方からはどんなフィードバックが得られましたか?

堀江町長 統計をとったわけではありませんが、「スムーズに予約できました」という声は頂きました。特別に大きな反響はありません。しかし、それがむしろ住民の皆さんの感想を表していると思いました。つまり、ウェブで予約できるシステムが既に社会に溶け込んでいるということです。

ワクチンに限らず、今はいろんなものの予約や申し込みがウェブでできますから、その流れに違和感なく入っていけたのだと感じました。

 

PdC 今後も、何かテクノロジーを活用した行政運営は考えていらっしゃいますか?

堀江町長 具体的にどんなテクノロジーを、ということまでの構想はありませんが、災害に対する危機管理に貢献できるような町の在り方を考えていきたいとは思っています。今はいつどこで甚大な災害が起こるか分からない時代なので、迅速に危機に対応できるシステムがあると、日野町だけでなく日本中が助かりますから。

 

第4回につづく


【プロフィール】

堀江 和博(ほりえ・かずひろ)
滋賀県日野町長

1984年生まれ。滋賀県出身。立命館大卒業、京都大公共政策大学院修了。民間企業、町議を経て2020年7月に第6代日野町長に就任(県内最年少首長)。住民、企業、NPOなどとの共創関係を築き、新しい発想で課題にアプローチしている。

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