それぞれが望む生き方を受容し合える社会に(1)〜社会のバイアスを意識し、すべての政策に反映させよう! 〜

愛知県豊橋市議・古池もも
(聞き手)Public dots & Company パブリック人材育成事業部/東京都目黒区議・田添麻友

 

2022/07/25 それぞれが望む生き方を受容し合える社会に(1)〜社会のバイアスを意識し、すべての政策に反映させよう! 〜
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2022/08/03 それぞれが望む生き方を受容し合える社会に(4)〜表面化したジェンダーバイアスを地道に正す〜


 

「男らしい」「女らしい」と他者から評価され、モヤっとした経験が誰しもあるのではないでしょうか。なぜその言葉に違和感があるのか、理由を説明できますか。

国は男女共に望む生き方ができる社会の実現を理想に掲げていますが、いまだに男女の役割に関する固定的な観念や、性別による差別・偏見が解消されません。そこで今回は、こうしたジェンダー(社会的な性)をめぐる課題の解決に取り組む愛知県豊橋市議の古池もも氏を紹介します。

現在1期目の古池氏は、ジェンダーの課題解決のために政治家を志したそうです。なぜ、この課題に政治家の立場から取り組もうと決意したのか。ジェンダーに基づくバイアス(偏見)が社会にどのような影響を及ぼすのか。古池氏が語る事例は、男女共同参画について改めて考えるきっかけとなるでしょう。(聞き手=Public dots & Company パブリック人材育成事業部/東京都目黒区議・田添麻友)

出馬のきっかけ

田添 古池議員がジェンダーバイアスの課題に政治家として取り組むことを決めた理由や、市議になるまでの経緯を教えてください。

古池氏 政治家になってからは、ジェンダーバイアスが社会構造に大きな影響を与え、女性の貧困問題などにつながっていると訴えていますが、出馬した当時はそこまで広い視野は持っておらず、もっと個人的な課題感から議員を志しました。

愛知県は大きな工場も多く、収入の安定した男性が多い地域です。このため、性別役割分担の意識(男性は働き、女性は家庭のことをやる方が良いという考え)が、なかなか解消されない地域だともいわれています。

そんな地域ではありましたが、私は祖母も母もハードに働く家庭で育ちましたので、当然のように働く母親になりました。仕事が好きで、残業もほぼ毎日でしたが、会社の上司や同僚、両親に「旦那さんにご飯を作ってあげなくていいのか」「早く帰ってあげないと、子どもがかわいそうでしょう」と言われたり、夫に家事への協力を求めたら「家事ができないくらい大変なら、仕事を辞めたらいい」「周りの家の夫より手伝ってあげている」と言われたりしました。そこで初めて「女は仕事をしてもいいが、その前に家事・育児を完璧にしないといけない」という社会の意識に気付いたのです。

 

結婚したら夫のために家をきれいにし、食事を作る。子どもを産んだら、子どもが第一で寂しい思いをさせてはいけない、職場では「子どもで迷惑を掛けて」、保育園では「仕事で迷惑を掛けて」毎日謝りっ放し。でも、これは私自身もどこかでそういうものだと思い込んでいた母親像でもあったのですね。改めて自分がやってみると、同じことをしても夫はかわいそうだと言われ、私は当然だ、もっと頑張るべきだと言われる。明らかに不均衡なわけです。

私が悩んでいるのは世間の一般的な考え方との違いなので、当時は周囲に訴えても理解してもらえず、味方はいませんでした。けんかするよりは我慢しようかとも考えましたが、この生活を自分の娘が将来経験することになるかもしれないと思うと耐えられず、身近な人が変えられないなら世論を変えられないかと思いました。

一人の母親ではなく、政治家になれば、このおかしな状況に対して大きく問題提起できるのではないかと思い立ったのが2018年の冬です。ちょうど女性活躍が叫ばれていた時期で、がむしゃらに頑張る女性をキラキラなイメージでもてはやす風潮にも違和感を覚えていたので、2019年2月に出馬を決意し、銀行でお金を借り、会社の有給休暇を使って選挙活動を行いました。

 

田添 今も民間企業にお勤めなのですよね?

古池氏 中小企業でデザイナーとして働いています。職業柄、メディアが人に与える影響はとても大きいと思っているので、行政が発行するチラシや広報誌は細かくチェックするようにし、特にジェンダー観を強化するような表現や行政が使うべきではない表現については、細かく意見させていただいています。

 

田添 デザイナーとしてのスキルを生かし、自らの政策を分かりやすくリーフレットにしたと伺いました。

古池氏 リーフレットは、分かりやすいつくりにしたいと思っていました。政治をA4サイズで説明するのは難しく、一般的に数ページに及ぶ政治家の政策を読んでもよく分からない方が多いと思います。プロフィル欄を見て、何だか肩書のすごい人がなるものだと思ってしまう。でも本当は、政治家とは誰もがチャレンジでき、多様な人がやるべきだと思っています。

私はすごい人ではないし、何の肩書もありません。だからこそ「日常を必死に生きているただの市民ですが、こんなことをおかしいと思っています。あなたもそうじゃないですか」と、共感を得るためのリーフレットにしました。当選することも大事でしたが、女性の議員を増やすことも目標だったので、私のようなすごくない人も選挙に出られるなら、自分もやれるかもと思っていただけるような内容にしました(写真)。

 

古池氏が作成したリーフレット。推薦文も同年代の友人にお願いした
という。

 

田添 周囲の反応はどうでしたか?

古池氏 夫は「すごいじゃん、頑張ってね」とあっさりしていましたが、政治家のイメージは一般的にあまり良くないですよね。そのように見られることを心配し、両親にはものすごく反対されました。また女性の課題を解決したいと話したら、「そんなのは政治でやることではない」とも言われました。しかし、自分を含めて多くの女性が悩んでいるはずだと考え、押し切って出馬することにしました。

選挙期間中は身近な方からたくさんのアドバイスを頂きましたが、「難しいことは分からなくても、若くてかわいい政治家であればいいのだから」と慰められたり、「もっと女の子らしく高い声で話した方がいい」「難しいことは言わず、子育てのことだけに絞った方がいい」といった内容も多かったです。

身近な人にすら、私の目指すところを理解してもらえない、それだけ特殊なことをやろうとしているのかという孤独感が常に付きまといました。今は夫も両親も周囲の方々も、私の議会活動やインターネット交流サイト(SNS)での発信を通じ、理解しようとしてくれていると感じます。

 

行政の広報物にあるジェンダーバイアス

田添 ここからは古池議員の日々の活動について伺います。ジェンダーバイアスをなくす取り組みについて、具体的にどんなことを行っているのでしょうか?

古池氏 日常で目にするテレビCM、雑誌、何気ない一言の中に、性別役割を固定させる表現が含まれています。当たり前になり過ぎて、私たちはその違和感に気付けないことが多いのです。行政はそのような状態に課題感を持ち、市民に対して多様な生き方のイメージを新しく打ち出していくべきなのですが、現状はまだ固定的なイメージを発信する側になっている場合があります。そのため、主には広報物や発信の内容、言葉や絵の意図を細かくチェックし、問題点を言語化することで、担当者の中にある無意識の偏見に目を向けてもらうようにしています。

 

田添 差し支えない程度で、これまでにどんな指摘をされてきたのか、教えていただけますか?

古池氏 例えば2020年12月の定例会で、婚活事業と出産時期を含めたキャリアプラン教育について質問し(注1)、市民だけでなく市役所内からも多くの反響を頂きました。婚活事業の中で行われた講座は外部講師によるものでしたが、女性に「愛されるために」とのタイトルでアイドルやアナウンサーのような服装を勧めたり、「(男性の)服を掛けてあげましょう」といったケア役割のアドバイス、気遣いとして会計時に財布を出すことを勧めていました。反対に、男性にはお金に細かくけちなことをマイナス要因として伝えていました。

資料の冒頭には「男女の役割を決めつける意図はありません」との注意書きがあり、「男女の役割を決めつける」可能性を市が一定程度、認めていると受け止めました。それなのにどうしてこの講座を行ったのかというと、男女を分かりやすい構図に当てはめた方がカップルが成立しやすい、結婚を望む方の思いを最短でかなえるためには、多少のことは目をつぶった方が良いと考えているからだと思われます。

そもそもの話ですが、相手がいない状態で結婚したいと考えるのは、結婚しないと生活できない社会構造がある、一般的だとされる生き方から外れてしまう、独りだと不安だ、そのような空気感も一定程度あるのではないでしょうか。「結婚しないといけない」と周囲から言われている方がこの講座に参加した場合、どのような考え方になるでしょうか。自分らしく生きる選択ができるようになるでしょうか。市が目指すべき社会とは逆行する事業内容だと思われます。

 

また、ライフキャリアプラン教育の質問では、市の広報誌について指摘させていただきました。この号は表紙と巻頭の特集で、学生を対象に開催したセミナーを紹介する内容でした。見開きで大学生の男子1人と女子2人が、それぞれ考えたライフプランを紹介しています。

男子学生は、子どもを2人授かるも実家の両親に子どもを見てもらう予定、育児休暇が数日取れたらいいなと考え、仕事には影響がありません。一方で女子学生は、2人とも子どもを産む前にお金をためたいと書き、1人は第1子出産とともに仕事を辞め、パートタイムに転職するプラン。もう1人は、子どもが幼稚園に入る時期に家でもできる仕事に変更するプランとなっていました。男性のキャリアに出産と子育てが全く影響しないのに対し、女性は退職や転職、長期間の休職で将来の収入の変化を気にしています。

仕事をセーブすること、家庭に入ることを、悪いこととして捉えているわけではありません。ただ、男女で役割が明確に分かれてしまっていること、異なる選択肢が示されていないことが問題なのです。

 

男女に関係なく望む生き方ができる社会の実現が行政の仕事ですから、若者個人の選択だから、実際の結果だから仕方がない、と終えるのではなく、この結果に課題感を持つべきなのです。もし課題感を持ったなら、表現方法が違うものになったはずです。この号は表紙も、若い女性が「結婚」「出産」と書かれた階段を上る絵となっており、一本道で結婚や出産をステップアップとして見せる表現でした。

子どもがいてもいなくても、男女共に望む生き方を継続でき、そこに男女の差が生じない社会の実現を目指すのが、男女共同参画を掲げる行政の役割ではないかと思います。明確な課題意識を持ってほしいと市に伝えました。

 

田添 市の対応はどのようなものでしたか?

古池氏 当時の部長は「細かな事業内容まではチェックできていなかった。今後はしっかり確認するようにします」とわざわざ言いに来てくださいました。婚活事業については、男女共同参画の担当課が内容をチェックすることを約束していただきました。また、広報物のガイドラインも作成し直してもらいました。

どこの市にも男女共同参画の計画があり、基本の考え方はしっかりしているはずです。しかし、その考え方が事業の末端まで行き届かないのです。

また、男女共同参画の担当者の意見が各事業に反映できる仕組みになっている役所は、意外と少ないのではないかと感じます。本来であれば、男女共同参画や人権、多文化共生などは計画の一番高い位置に据えられ、すべての事業に反映されるべきものだと思います。

注1=豊橋市議会インターネット映像録画中継/令和2年12月定例会/12月9日本会議一般質問・古池もも議員
http://www.toyohashi-city.stream.jfit.co.jp/?tpl=play_vod&inquiry_id=817

 

第2回に続く


 

【プロフィール】

古池 もも(ふるいけ・もも)
愛知県豊橋市議

一人会派「とよはし みんなの議会」代表。2児の母。多摩美術大卒。2019年統一地方選で行われた同市議選で、最多の5928票を得て初当選。現在も中小企業でデザイナーとして働きながら、ジェンダーをめぐるオンライン座談会などを開催している。

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