ごみ問題、ITと科学技術で解決を!(3)〜「流出ごみの地産地消モデル」で地域産業の振興目指す〜

株式会社ピリカ代表取締役/一般社団法人ピリカ代表理事・小嶌不二夫
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役/官民共創未来コンソーシアム代表理事 小田理恵子

 

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第1回第2回に引き続き、「株式会社ピリカ」代表取締役・小嶌不二夫氏のインタビューをお届けします。「科学技術の力であらゆる環境問題を克服する」というミッションに、ITとデータを活用しながら「数値に基づいたごみ問題の解決」を目指すピリカ社。前回は、会社設立のきっかけとなったサービスごみ拾いSNS「ピリカ」(注1)について伺いました。今回はピリカ社が展開する他の解決策(ソリューション)について、お話しいただきます。(聞き手=Public dots & Company 代表取締役/一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

注1=ピリカ社が11年5月にリリースしたスマホアプリ。日常的に行うごみ拾いについて、場所や拾った物、回収量などを投稿し、仲間同士でコミュニケーションを図ることができる機能を持つ。ユーザーが回収したごみの総重量が画面上で確認でき、社会貢献活動の可視化につながる。

これまでに世界100カ国以上、延べ200万人以上が利用し、累計のごみ回収数量は2億個超に上る。新型コロナウイルス禍で大規模なクリーンアップキャンペーンが控えられるようになった近年は、小規模分散型の清掃活動の「見える化」のため、自治体が導入するケースも増えている。

路上ごみの分布状況を「見える化」

小田 前回は会社設立のきっかけとなったごみ拾いSNS「ピリカ」を中心に、ITやデータを活用してごみ問題を解決に導く取り組みについて伺いました。ごみの流出量や回収量は、実はこれまで詳細な定量化がされておらず、実施した環境対策が本当に効果があったのか、確かめ切れない状況だったというお話は大変興味深いものでした。

ごみ箱の設置が本当に地域のクリーンアップにつながるのか。どの地域の美化活動に行政の資源(リソース)を投下するのが最適か。これらはすべてデータを基に議論すれば、有効な環境対策の実施につながります。

さて、そんなデータドリブン(データに基づいた企画や戦略の立案・実行)な環境問題克服活動を続けるピリカ社ですが、今後、特に力を入れたいことは何ですか?

小嶌氏 やりたいことはたくさんあるのですが、今は路上ごみの分布調査に関する世界共通基準をつくりたいと思っています。

弊社のサービスに「タカノメ」があります。専用のスマートフォンで路上を撮影し、そこに映ったごみの種類や数を画像解析で読み取り、分布図にするものです。撮影したエリアの美化状況が可視化され、他地域との比較や美化活動の提案などに用いることができます。

「タカノメ」は、調査範囲を歩いて撮影する「徒歩版」の提供からスタートし、今年1月からは広域の調査にも対応できるよう、撮影用スマホを車両に取り付けて車道を調査する「自動車版」の提供を始めました(写真)。それを地方自治体の公用車やごみ収集車、物流企業の車両などに導入いただきながら、調査を拡大しているところです。

路上に落ちているごみの調査は非常に大切です。道路脇の水路などをたどり、いずれは海に流出する懸念があるからです。海洋ごみの8割は陸由来ですから、特に水はけがよく、ごみが自然界に流出しやすい道路のごみ対策は重要になってきます。

 

写真:目指す状態=タカノメ自動車版の開発

 

小田 企業が「タカノメ」を導入する動機は何なのでしょうか?

小嶌氏 普段車両を活用したビジネスを展開している事業者にとって、必要な事業として車を走らせつつも、環境への取り組みにつなげることで、事業や社会への付加価値提供ができる、その点に着目いただき、特に物流系の企業で導入が進んでいます。

「タカノメ」を実装した車両は今、関東・関西を中心に40台ほどが走行しています。規模の拡大はこれからですが、今の段階で得られたデータにも十分に価値があります。

 

小田 例えば、どんな価値がありますか?

小嶌氏 清掃活動に大きなインパクトを与えると考えています。これまでのごみ拾いは、駅前や市役所前といった「人が集まりやすい場所」に集中する傾向がありました。しかし本来なら、清掃活動は「ごみが集まりやすい場所」で行う方が効率が良いはずです。

私たちの元には時折こんな問い合わせが寄せられます。「数十人を集めて清掃活動を行ったが、ごみが思いの外、落ちておらず盛り下がってしまいました。ごみがある場所はどこですか」。こういった希少なリソースを活用し切れない事態を避けるためにも、「タカノメ」で得たごみの分布データを自治体と連携して公開できればと考えています。

 

写真:タカノメ自動車版利用イメージ

 

マイクロプラ、2割は人工芝の破片

小田 小嶌さんは前回、ごみの①流出量を測る取り組み②流出量を減らす取り組み③回収量を測る取り組み④回収量を増やす取り組み──という四つの活動すべてについて、ITや科学技術で効率化し、世界中で実施される取り組みにすることを目指すのがピリカ社だとおっしゃいました。

先ほどのお話は、ごみの流出量を測る取り組みで実態を把握し、回収量を増やす取り組みにつなげていくという事例ですね。そのほかに、活動を通じて進展があった事例はありますか?

小嶌氏 弊社の「アルバトロス」という、(プラごみが細かくなった)マイクロプラスチックの調査サービスで明らかになった、人工芝問題を紹介します。そもそも「アルバトロス」は、ごみの流出メカニズムの調査です。小型の調査装置を用いて河川や水路を調べ、どんなごみがどんな経路で流出しているのかを突き止めます。そのデータを基にした解決策は効率的であるという考え方です。

これまで「アルバトロス」で全国各地や世界中の河川を調査してきましたが、特に国内では流出したマイクロプラのおよそ20%が、人工芝の破片であることが明らかになってきました。

人工芝には大きく二つの種類があり、スポーツ施設で利用されるもの、そして家庭の玄関マットなどで利用されるタイプのものがあります。前者は自治体が保有したり運営を委託したりしているサッカーグラウンドやテニスコートであることも多く、自治体にとっては受け入れづらい結果になるケースもありました。

しかし、2021年には横浜市が自主研究という形で私たちの調査を受け入れてくださり、市として公式に人工芝流出対策を検討する動きを始めました。「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組み」が採択された19年の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の開催地である大阪府でも、複数の地域での調査や、対策につながるような技術開発を行っています。

民間では、とある人工芝メーカーが私たちと協力し、流出抑制技術の研究開発に取り組んでくださっており、流出した人工芝をキャッチするフィルターを作りました。このように、解決策が少しずつ形になってきています。

 

小田 データで見えた結果が自治体にとって都合の良くないものだとすると、問題を明らかにしながら解決策をつくるところまで併走するのは、大変なのではないかと感じました。

小嶌氏 これまでの経験上、段階があると感じています。人工芝の問題を発見したのは3~4年前ですが、当時は「問題を見つけてオープンにすれば、いろいろな人に知ってもらえ、勝手に解決に進む」と思っていました。しかし実際には、そこから2段階ほどステップが必要でした。

まずは問題に関係する自治体や業界に、問題の存在を公式に認めていただくというステップがあります。公然の事実として、組織の内外で議論が行われる状態に持っていく必要があります。そうならないと予算が付きませんし、技術開発も進みません。これに関しては、いろいろなメディアの力や自治体側の勇気がきっかけで進展します。

その上で、外部発信ができる状態になるまでに、もうワンステップあります。外部発信ができる状態というのは、解決策の道筋が見えている状態のことです。問題はあるが、それをある程度解決できる技術が開発されており、かつ自治体が使える状態になっていれば、住民に「安心してください」とアナウンスできます。

こういった段階を踏むことや、条件の重なりで自治体との併走はかなってきました。私は研究者であり、営業マンでもあるので、とにかく数を当たって理解していただける自治体や企業を見つけています。

 

小田 理解されるまでの最初の壁をどう突破するのかは、確かに難しいテーマですね。

 

第4回へ続く

 


【プロフィール】

小嶌 不二夫(こじま・ふじお)
株式会社ピリカ代表取締役一般社団法人ピリカ代表理事

大阪府立大卒。京大大学院を半年で休学し、世界を放浪。各国で大きな課題となりつつあった「ごみの自然界流出問題」の解決を目指し、2011年に株式会社ピリカを創業。ピリカはアイヌ語で「美しい」の意。21年に環境省「環境スタートアップ大臣賞」受賞。同年に「MIT Technology Review Innovators Under 35 Japan」選出。

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