広島県三次市長 福岡誠志
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴
2020/12/17 広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(1)
2020/12/19 広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(2)
2020/12/21 広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(3)
2020/12/23 広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(4)
2020/12/25 広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(5)
スマートシティー構想の骨子、市の職員有志が活発に議論
伊藤 確かに、DXのような事業は現場にいかに浸透させるかがキモだろうと思います。現場といえば、行政もまたそれ自体が、市の職員たちが業務に当たる現場でもありますよね。
福岡市長 その通りですね。そして、やはり市においても、「DX」と聞いてまだピンとこない職員は少なくありません。ひと通り知ってはいても、必要性やメリットを真に理解できているわけではない人もいます。
まずは職員一人ひとりが、今後の三次の未来はどうあるべきか、そのためにデジタルをどう活用するのか、イメージできていなければいけないと思います。職員の仕事もDXによって効率化でき、自分たちの働き方改革を進められるんだということを、意識するとしないとでは、DXの進み方もまるで違ってくるはずです。
そこで、当市では今年8月に、総務省から出向中の堀川亮副市長を本部長(CDO:chief digital officer)とする「DX推進本部」を立ち上げました。同時に、職員から有志を募って複数のワーキンググループを設置しました。各グループで、担当分野における現状と課題、未来にありたい姿の認識を共有し、課題解決の手法を研究しています。また、ワーキンググループで生まれたプロジェクトを実行に移すプロジェクトチームも発足させています。ワーキンググループは、日ごろその職員が所属している部署に関係なく、興味のある分野に手を挙げられるようになっています。一方、プロジェクトチームは主管課長をリーダーとし、関係部署の職員で構成します。活動は全て、勤務時間内に行います。
伊藤 スマートシティー構想の策定に当たっては、市民、産業、来訪者、市の職員という四つの視点で、重点的にスマート化を図る分野を検討するということでした。どうしても置き去りにされがちな「職員目線」を踏まえようという点が素晴らしいですね。職員は職員であると同時に地域に暮らす市民でもあるので、実は市にとって最大のステークホルダー(利害関係者)ですよね。昨今、社会から公務員への風当たりがどうも厳しい中で、首長が「職員目線」をうたわれるのは珍しいことであり、しかし大事なことだと思いました。
福岡市長 三次の人口規模からすると、三次市こそ最大の事業体なんですよね。実際に新卒者の採用も多く、主要な就職先の一つになっています。その意味では、ご指摘のように、市職員はまさにステークホルダーです。都会的な意味合いでいう公務員とは、位置付けが異なります。職員は職員としての仕事を全うしながら、親が農家であれば手伝いもしますし、地域での役割も担っています。職員として、あるいは農業従事者として、あるいは生活者としての視点で三次市をよく見ている人々ですので、課題の認識やその解決策の発案に、私も期待しています。
伊藤 ワーキンググループには、どのようなものがありますか?
福岡市長 防災・新型コロナ対策、観光、ネウボラ(出産・育児支援)、定住・空き家対策、建築産業、ペーパーレス化推進などのグループがあります。プロジェクトチームとしては、GIGAスクール、AI(人工知能)議事録、AIチャットボット、RPA(Robotic Process Automation)、スマート農業、鳥獣害対策、内部事務の効率化を推進する各チームを設置済みです。
スマートシティー構想は、私が市長選に立候補したときから提唱しているものですが、私一人ではここまで具体的なソリューション(解決策)にまで踏み込んで、思い描くことはできませんでした。若手職員を中心とした活発な議論から課題が明確になり、プロジェクトが動きだしました。
伊藤 人口5万人規模の自治体において、どの分野にどのような課題があり、それをどうデジタル化、スマート化して解決するかという議論は、それ自体にとても価値があるように思います。最終的に取り組むべき課題として採用したものも、不採用と判断したものも含め、議論の中身を参考にしたい自治体が全国に多々ありそうですね。
福岡市長 11月中旬に予定しているワーキンググループの中間報告を、私も楽しみにしているところです。今年度末までに取りまとめ、2021年春には「三次版スマートシティー構想」として発表する予定です。
市政にはトップダウンで進めるのが適した政策と、現場の意識改革をベースにしてボトムアップで進めるべき政策があって、組織には両方の要素が必要だと考えています。例えば、災害などの際は一刻を争いますから、トップダウンで素早く対応して市民の安全確保に努めるべきですよね。
一方で、DXのような政策はボトムアップで取り組むべきだと思うのです。トップダウンで取り組めば、〝初速〟は出るでしょうが、現場の担い手が意義を深く理解できていなければ、じきに失速していくのは目に見えています。
三次市DX推進職員研修会で講師を務めていただいた菅原直敏氏(神奈川県議会議員、Public dots & Company取締役)から、福島県磐梯町の取り組みについてお話を伺って(菅原氏は2019年11月、磐梯町のCDOに就任)、大いに参考にさせていただいています。磐梯町でもデジタル変革戦略室を設置し、職員向けのDX戦略説明会を開いていました。そうしたところに時間をかけて進めた方が、将来的なスピード感に結び付くのだと思います。
(第5回につづく)
【プロフィール】
福岡誠志(ふくおか・さとし)
昭和50年生まれ。広島県三次市出身。
広島国際学院大学卒業、広島修道大学大学院法学研究科修了。
平成10年湧永製薬株式会社広島事務所入社。
平成13年の初当選以降、三次市議会議員を5期務める。
平成31年、三次市長に就任(1期目)。
その他、全国若手市議会議員の会副会長、(一社)三次青年会議所第62代理事長。
伊藤大貴(いとう・ひろたか)
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。