愛知県豊橋市議・古池もも
(聞き手)Public dots & Company パブリック人材育成事業部/東京都目黒区議・田添麻友
2022/07/25 それぞれが望む生き方を受容し合える社会に(1)〜社会のバイアスを意識し、すべての政策に反映させよう! 〜
2022/07/27 それぞれが望む生き方を受容し合える社会に(2)〜社会のバイアスを意識し、すべての政策に反映させよう! 〜
2022/08/01 それぞれが望む生き方を受容し合える社会に(3)〜表面化したジェンダーバイアスを地道に正す〜
2022/08/03 それぞれが望む生き方を受容し合える社会に(4)〜表面化したジェンダーバイアスを地道に正す〜
バイアスが社会に与える影響
田添 改めて、ジェンダーバイアスとは何か、ということを伺いたいのですが。
古池氏 生理があるとか、性器の違いなどで男女の特徴を分けるのが肉体的な性「セックス」で、女性は気が利いて優しい、男性はリーダーシップがあるといった社会的・文化的に形成された考えで、男女を分けるのが「ジェンダー」です。
中でも「女性は子育てなどのケアが得意」というジェンダーが強固で、子育てや介護は男女共に可能ですし、能力に差はないはずなのに育児や介護、家事労働が女性に偏重しています。同時に「男性は社会で働くことに向いている」というジェンダーもあり、男性の家庭内労働への参画が阻害されています。こうした社会的な性にひも付く偏見のことをジェンダーバイアスと言います。
例に挙げたジェンダーバイアスはささいなことのように思えるかもしれませんが、積もり積もって社会に大きな影響を与えています。性別役割の意識が強いと、男性は職や収入を失うことへのリスクを強く感じ、失業が鬱や自殺につながります。一方、女性は家庭内労働を担う前提で社会進出を望まれ、時間の調整が利く低賃金の非正規雇用につながりやすいのです。
こうした状況は少子化にも影響します。これまでは「女性の社会進出が進んでいる国ほど出生率は高い」という調査結果に基づき、日本は女性の「社会進出」に取り組んできました。しかし働く女性が増えるだけでは、出生率は上がらないのです。
家事・育児を女性が主に行い、仕事もするとなれば、女性は時間的にも精神的にもゆとりがなくなります。低賃金労働に従事している場合、経済的な余裕もありません。社会が変わらない状況下で、女性が自分の幸福を追求しようとするとき、子どもを産まない選択をするのは当然のことです。
このような状況が生じているのは、「女性はケアに向いている」から無償で家事・育児を担うべきで、「そのために仕事をセーブするべきだ」と男性も女性も思っている、思わされているせいです。ジェンダーバイアスによる社会的損失はとても大きいと思いませんか。男性の積極的な育児参加で第2子の出生率が大幅に上がるという調査結果もありますが、いまだに男性が育休を取得することの難しさばかりが議論されています。
女性が給与を減らし、仕事を辞めている現状をどう思っているのでしょうか。期間が決まった休みすら取らせることができない企業は、将来の介護離職をどのように防ぐのでしょうか。「男性は外で働き、女性は家庭を守る」というジェンダーバイアスは、少子高齢化という日本最大の社会課題の明確な阻害要因であるにもかかわらず、解消に向かいません。多くの人が性別による労働の区分は、普遍的で揺るぎないものだと思い込んでいるからです。
歴史をひもとけば、人類は集団で子育てをしてきたのであって、子育てやケア労働は女性がするものだという考え方も戦後の高度成長期に固定された考え方です。
私たち政治家は、この属性はこうあるべきだといった社会通念を一つ一つ捉え直し、個人の生き方を固定化させない社会を目指すべきです。まず男女間の差別の課題を学び、偏見を自覚した上で表現や内容を見直し、すべての政策に生かしていかなければならないと思っています。
課題は「性別による無意識の偏見」
田添 古池議員がジェンダーバイアス問題に取り組む中で覚える課題感を教えてください。
古池氏 個人が自分の偏見を認め、すべての人を同等に扱うだけでは、この問題は解決できません。既に差がある状態なので、不平等の継承を断ち切り、差をなくすための政策的な取り組みが必要となります。
いわゆるポジティブアクションが必要なのですが、私たちは誰もが性別による無意識の偏見を持っていて、異性に対する思い込みだけでなく、男性も女性も無意識のうちに自分はこうあるべきだと強く思い込んでいるため、不平等である状態そのものに気付けません(注2)。
本日ずっと使っていた「バイアス」という言葉は、偏見という意味なので、偏見に基づいて分類すれば、それは差別です。しかし、自分は差別などしていないとみんな信じています。だから、これまでの判断は偏見だったと気付いてしまうと、自分を否定される気持ちになってしまうのです。
問題に向き合うことは痛みを伴いますから、バイアスに気付けないのです。単に否定するのではなく、その考え方が社会構造にどのように影響していくのか、つながりをきちんと説明することが大切ですし、過去の偏見に基づく行為を責めない空気感が必要だと感じます。
私は任期中の4年間で、まずバイアスに気付いてもらうこと、バイアスを知ってもらうことに注力しようと考えました。バイアスに気付いてもらうために大事なのは、言語化だと思っています。
以前、庁内でとある表現について指摘させていただいた際、担当課の女性の課長から「自分もはじめに見たときに違和感を持ったが、何が悪いのかが言葉にできず、そのままにしてしまった。古池議員が問題点を言語化してくれたことで、違和感を伝えることができ、修正することになった」と報告を受けました。多くの方は違和感を言語化する作業に慣れておらず、不快に感じたとしても放置せざるを得ない状況にあるのかなと感じます。
議員になってから、ほとんどの時間をジェンダーに関する調査・研究に充ててきました。最近では庁内の方に「これはジェンダーですか」と聞かれることもありますし、発言に気を付けていただいているなと感じることも増えました。小さな課題であっても、これは駄目だよと言うだけでなく、必ず問題点を言語化するようにしています。
政治家がジェンダーについてしっかり学び、言語化していくことで、確実に意識は変わっていくと思います。
田添 古池議員の地道な活動が功を奏してきたようですね。長い間に培われた「当たり前」を、バイアスとして説明することは確かに難しいです。今回紹介いただいたような事例ベースでの情報提供は、多くの読者にとって気付きをもたらすと思います。次回も引き続き、古池議員が相対してきたジェンダーバイアスの事例を中心にお話しいただきます。
注2=内閣府男女共同参画局「令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」
https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/seibetsu_r03.html
(第3回に続く)
【プロフィール】
古池 もも(ふるいけ・もも)
愛知県豊橋市議
一人会派「とよはし みんなの議会」代表。2児の母。多摩美術大卒。2019年統一地方選で行われた同市議選で、最多の5928票を得て初当選。現在も中小企業でデザイナーとして働きながら、ジェンダーをめぐるオンライン座談会などを開催している。