「しがらみのないフェアな町政」を目指して~山崎結子・青森県外ヶ浜町長インタビュー(1)~

青森県外ヶ浜町長 山崎結子
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2022/11/07 「しがらみのないフェアな町政」を目指して~山崎結子・青森県外ヶ浜町長インタビュー(1)~
2022/11/09 「しがらみのないフェアな町政」を目指して~山崎結子・青森県外ヶ浜町長インタビュー(2)~
2022/11/14 資源は活用、負債は次世代に残さない!~山崎結子・青森県外ヶ浜町長インタビュー(3)~
2022/11/16 資源は活用、負債は次世代に残さない!~山崎結子・青森県外ヶ浜町長インタビュー(4)~


 

少子高齢化と人口減少の一途をたどる「縮退社会」に突入した日本。そんな時代における地方自治体の都市経営や官民共創、そして地域のリーダー像とは、いかに在るべきなのでしょうか。このような問題意識から装いも新たに本連載を開始し、時代の潮流を探ります。

 

青森県外ヶ浜町は、2005年3月に蟹田町、平舘村、三厩村が合併して誕生しました。津軽半島の北東部に位置し、人口は約5400人、高齢化率は約50%です。そのトップを担っているのが、同県初の女性首長である山崎結子町長です。

41歳の女性リーダーは、外ヶ浜町政をどのように推し進めているのでしょうか。縮退社会における自治体運営について、女性首長ならではの体験も含めて伺いました。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

「こう着政治」を断つ

小田 今回のインタビューの趣旨は、縮退社会における自治体リーダー像を深掘りすることです。青森県初の女性首長として活躍される山崎町長のお考えや、これまで取り組んでこられた施策について伺います。

また、政治の世界におけるジェンダーギャップ(男女格差)についても、思うところがおありでしょう。そのあたりも含め、お話しいただければと思います。まずは、町長になろうと考えたきっかけを教えていただけますか?

山崎町長 私の生い立ちにも関係があることですので、その点も含めてお話しします。

私は政治家一家に生まれ育ちました。曽祖父(岩男氏)は町長(青森県の旧大湊町〈現むつ市〉)、青森県議、衆院議員、青森県知事というキャリアを持ちますし、祖父(竜男氏)と父(力氏)はどちらも参院議員でした。子どもの頃から、国連平和維持活動(PKO)や環太平洋連携協定(TPP)といった国際的な制度に関する話題が身近にあり、政治とはこのような制度やルールを用いて人を救う活動だと思っていました。

もちろん選挙活動も当たり前のように、そばにありました。父が選挙に出るとなれば、ポスター張りやチラシの配布を手伝ったり、選挙カーに乗って地域の皆さんに応援をお願いして回ったりしました。

 

小田 政治の世界を内側からよく知りつつも、あえてそこに飛び込んだのですね。

山崎町長 最初から政治に興味があったわけではありません。政治は男性社会だと思っていましたから、むしろ自分に政治家としてのポジションが回ってくるとは考えてもいませんでした。しかし父の選挙活動を手伝う中で、次第に町の課題が見えるようになってきました。特に印象的だった出来事が二つあります。

一つは、ホタテ貝の養殖残渣をめぐる問題です。外ヶ浜町ではホタテ貝の養殖が盛んですが、養殖籠などに付着する小型貝類などの残渣の処理が滞り、臭気を発するという問題が深刻です。これについて、地域住民から「何とかしてほしい」という声をたびたび頂いていました。

それに対し、当時の私は「父に伝えます」と答えていたのですが、父が選挙で敗れて具体的な施策が打てないまま、落選のおわびとごあいさつに伺うことになりました。その際、住民の皆さんから「また養殖残渣の問題は何も進まずに終わるのか」と厳しいご意見を頂き、とても申し訳ない気持ちになったことを覚えています。

 

オンラインのインタビューに答える山崎町長(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

もう一つは、山崎家が選挙の必勝祈願で訪れる神社がある地域で火災が起きたことです。14~15軒の家屋が一気に焼けてしまう激しい火災でした。

その火災は夏に発生したのですが、年が明けても焼け跡がそのままの状態で放置されていました。なぜかと住民に尋ねてみたところ、「政治的なしがらみがあり、片付けられない」という答えが返ってきました。このように、政治的な意図で地域がこう着状態に陥っていることについても、何とかしなければならないと思いました。

当時の私は東京で民間企業に勤めつつ、まちづくりに興味があったので地元の青年会議所に所属していました。山崎家は政治的な側面からまちづくりに関わっていましたが、私自身はいわば経済的な側面からまちづくりを見ていたことになります。

縮退社会におけるまちづくりでは政治、経済の両面から地域を見ていく必要があります。ちょうどその頃、地域内ではこれまでの延長線上でない、新たなリーダーシップが必要だとする機運が高まっていました。そんな流れから私に白羽の矢が立ち、外ヶ浜町長選への立候補に至りました。

 

小田 出来事やタイミングがすべてつながり、今に至っているのですね。

山崎町長 地域の深刻な問題に触れ、だんだん政治が「自分ごと」になっていったタイミングでの出馬でした。もちろん昔から父の選挙を間近で見ていたので、「誰もが応援してくれるわけではない」と理解していました。それでも、やれることは精いっぱいやろうと覚悟し、町長選に挑んだことを覚えています。おかげさまで今は2期目を務めさせていただいています。

 

小田 地域の状況や政治の内情をよくお分かりになった上で「腹をくくった」のだと察します。「地域内で新たなリーダーシップが必要だとする機運が高まっていた」とおっしゃいましたが、それまでの町政運営にはどのような問題があったのでしょうか?

山崎町長 一言で表すと「こう着政治」です。利害が一致する一部の方の意見が大きな力を持っていたという話はよく耳にします。

本来、新しいリーダーを選ぶ際には、地域のことをよく分かっている地元議員に期待が寄せられるのではないかと思います。一方で私は東京で生まれ、30歳ごろまで東京で暮らしていました。地域の方からは、外ヶ浜どころか青森のことすら分かっていないように見えたと思います。

それでも「しがらみのない人を」という理由で、私を町長に選んでいただきました。従来の流れを断ち、新しいまちづくりの流れをつくることを期待されているのだと思います。

 

第2回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2022年9月26日号

 


【プロフィール】

青森県外ヶ浜町長・山崎 結子(やまざき ゆいこ)

1981年東京都世田谷区生まれ。成城大文芸学部文化史学科卒。青森県を地盤に曽祖父、祖父、父が国会議員を務めるなど政治が身近な環境で育つ。2017年3月同県外ヶ浜町長選で初当選し、同県初の女性首長として翌4月に就任。現在2期目。

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