「しがらみのないフェアな町政」を目指して~山崎結子・青森県外ヶ浜町長インタビュー(2)~

青森県外ヶ浜町長 山崎結子
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2022/11/07 「しがらみのないフェアな町政」を目指して~山崎結子・青森県外ヶ浜町長インタビュー(1)~
2022/11/09 「しがらみのないフェアな町政」を目指して~山崎結子・青森県外ヶ浜町長インタビュー(2)~
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2022/11/16 資源は活用、負債は次世代に残さない!~山崎結子・青森県外ヶ浜町長インタビュー(4)~

女性首長ならではの壁も

小田 外ヶ浜町の皆さんは山崎町長に行政組織の変革を期待しているのではないかと思います。青森県初の女性首長というところにも、その期待の片りんがうかがえます。しかし長年の慣習が残る組織で、かついまだに男性優位である政治の世界では、苦労も多いのではないかと思います。

山崎町長 壁が厚いと感じることはまだ、たくさんあります。議会は反対派の方が多いですから。

 

小田 今もですか?

山崎町長 外ヶ浜町議会の定数は11ですが、就任当初は2対9で反対されていました。今は5対6になりましたが、まだ劣勢です。

 

小田 反対の理由は何でしょうか?

山崎町長 町のためになる合理的な反対意見であればいいのですが、そうではないものもあります。私の発言の仕方にも改善の余地はありますが、それ以前に「よそ者だから」「女性だから」という理由で主張が受け入れられないと感じる場面もよくあります。

 

小田 議員は全員男性ですか?

山崎町長 全員男性で平均年齢が65歳です。

 

小田 私も市議を務めた経験がありますが、そのときに感じたジェンダーギャップを思い出しました。性別や年代でイメージをひとくくりにするのは乱暴とはいえ、やはり傾向として女性の意見が年配の男性に受け入れられないところはありますよね。

山崎町長 地道に味方を増やすほかないと思っています。選挙で住民の負託を受けて町長を務めているわけですから。

 

小田 議事録は公開されていないのですか?

山崎町長 現在は開示請求の手続きをしていただければ閲覧できるようになっています。

 

小田 公開した方が、どんな議論が交わされているのかを客観的に理解できる方が増えると思います。今後そのような方向に進む予定ですか?

山崎町長 個人的には議会の様子を動画投稿サイト「ユーチューブ」で配信すればよいと考えています。外ヶ浜町は合併して誕生した自治体なので、支所があります。各支所は議会が中継で見られるよう、インターネットでつながっています。ですから、外部に公開すればよいだけの話です。しかし現状は反対派の議員が多く、いまだに実現できていません。

 

小田 現在は全国的に議事録公開が進んでいます。外ヶ浜町も実現できることを期待します。

山崎町長 情報はできる限りオープンにしていきたいところです。

 

「かまど消し」回避へ

小田 長らく続いた組織体制の変革に女性首長が挑むことは、想像以上にエネルギーを要するのではないかと思います。その様子を見ている住民から、何か声を頂くことはあるのですか?

山崎町長 住民には応援してくださる方が多いです。特に年配の女性からは、よく励ましの言葉を頂きます。「私たちが若かった時代には、こんなふうに声を上げることはできなかった。代わりに頑張ってほしい」といった声が多いですね。そんな声を励みにしながら、町が将来的に良い方向に進むことを考えています。目の前の課題に一つずつ取り組む毎日ですね。

 

小田 町財政の推移を見ると、山崎町長が2017(平成29)年に就任されてから、行財政改革にかなり注力された様子がうかがえます。特に建設関連の支出を絞っているところと、基金残高を着実に増やしているところにです()。これは「町が将来的に良い方向に進む」ための取り組みですね?

山崎町長 私たちの世代の政治家は「負債を次世代に残さない」ことを考え続ける必要があります。旧三厩村地区には青函トンネルがありますが、それを建設した時代は今では考えられないくらい、潤沢な予算があったそうです。国策でも公共事業を推進していましたから、当時はいろいろな公共施設が地域内に建設されました。

それから30年ほどがたち、今はどうなっているかというと、あまり活用もされないまま、維持費が掛かり続けています。これは明らかに次世代の負債となるものですから、集約できるものは集約するよう働き掛けています。

そんな中、当時の時代の面影を知る方からは「町は何も造ってくれなくなった」といった声を頂くこともあります。その気持ちも理解しつつ、やはり将来に負担を残さないためだと丁寧に説明し、ご理解いただくことを地道に行っています。

 

(図)出典:「令和2年度外ヶ浜町財政概要」より抜粋

 

(図)出典:「令和2年度外ヶ浜町財政概要」より抜粋

 

小田 今のお話は多くの地方自治体の悩みでもあります。緊縮財政は、ある一定年齢を超える方からは支持されにくいですよね。若年層からは比較的、理解を得られやすいのですが。どのように説明して理解を促しているのですか?

山崎町長 青森の方言で財政のことを「かまど」と言います。そこから派生し、浪費で財産をなくすことを「かまど消し」と言うのですが、選挙時の街頭演説ではその言葉を用いて説明しました。町の財政状況をお伝えするとともに「今の時代にかまど消しになってはいけない」と訴え掛けたところ、理解を示してくださる住民もいらっしゃいました。

 

小田 住民になじみのある言葉で呼び掛けたのですね。現在、財政健全化のために着手していることを教えていただけますか?

山崎町長 最低限やらなければならないハードの整備に予算を捻出するため、予算全体の引き締めや調整を行っています。その整備とは、町の病院の新築移転とごみ処理施設の焼却炉の交換です。

外ヶ浜中央病院は築35年が経過しており、施設の老朽化が進んでいます。これまで何度も増改築や修繕をしてきたため、全体的な維持費がかさみ続けている状況です。今後、地域の中核病院としての機能を保つためには、新築移転が最も良い選択だと判断されました。これに関しては、しっかりと予算を確保して取り組んでいきます。

ごみ処理施設も同様で、焼却炉が老朽化してきたため、交換が必要な時期になっています。ただし、こちらは長期的に見て維持費が町財政をかなり圧迫すると考えているため、なるべく小さな予算規模で実施できればと考えています。

 

小田 ハードの整備に関しては、地域のニーズや長期的なコストバランスなど、多角的な視点での判断が必要ですね。山崎町長が財政の手綱をしっかりと握りながら考えている様子がよく理解できました。病院とごみ処理施設のお話は、次回も触れていきたいと思います。

 

今回までは主に、青森県初の女性首長になるまでの経緯や、男性優位の岩盤組織に女性の立場から分け入っていく際の所感を伺いました。いまだに珍しいと認識される女性リーダーが縮退社会のまちづくりを担う場面では、やはり難しさを感じることも多々あるということが分かりました。

そんな中でも財政健全化を粛々と進め、基金を増やすなどして堅実な行政運営を行おうとしている様子からは「住民の期待に応えるため」という一貫した芯の強さを感じます。

次回のインタビューからも、引き続き山崎町長のリーダー像に迫るとともに、町の課題解決に向けた取り組みについても伺います。

 

第3回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2022年9月26日号

 


【プロフィール】

青森県外ヶ浜町長・山崎 結子(やまざき ゆいこ)

1981年東京都世田谷区生まれ。成城大文芸学部文化史学科卒。青森県を地盤に曽祖父、祖父、父が国会議員を務めるなど政治が身近な環境で育つ。2017年3月同県外ヶ浜町長選で初当選し、同県初の女性首長として翌4月に就任。現在2期目。

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