作物を育てるように、まちをつくる〜長久保耕治・青森県東北町長インタビュー(2)

青森県東北町長 長久保耕治
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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農業と組織づくりの共通点

小田 ご自身が生産者でもありますが、その経験を踏まえて行政を見たときに何か通じるものはありますか?

長久保町長 町長に就任し、いくばくもたっていませんが、通じるところはあると感じています。

農業はまず良い土壌をつくるところからスタートします。良い土に良い種をまき、肥料を与え、しっかりと管理する。そうすることで良い実がなります。

これは行政も同じだと思います。組織の風土は土壌です。まずはそれをどうつくるか。そして、そこで働く職員は種です。種から芽が伸びて良い仕事や良い結果を生み出すためには、肥料や日光、水など、外からの働き掛けが必要です。それは町民の皆さんが担ってくださいます。

このように、農業を通じて行政を見ることもできます。私が良い土をしっかりとつくれば、町民の皆さんに興味を持っていただけたり、応援していただけたりするのではないかと考えています。

 

小田 私もいろいろな人から組織づくりに関する話を伺うのですが、磐石な組織をつくるためには狩猟型より農耕型の考えが必要だと感じます。

良い土壌や良い組織は、一朝一夕にはできません。日頃のこつこつとした努力が実を結びます。長久保町長がおっしゃったことはまさにそれを表しており、とても共感します。農業に携わっているからこその説得力です。

長久保町長 農業は自然が相手です。突然、雨が降ったり風が吹いたり日照りになったりと、いろいろなことが起こります。それは組織や町にも言えることで、いろいろな考え方や行動をする人がいます。

ですから、目の前で起きたことに一喜一憂せず、包括的に捉えることが大切だと思います。全体の中で土づくりから種まき、収穫まで一貫して捉え、皆で協力しながら恵みとなるような取り組みを行いたいのです。そのためにどういった心持ちで進めるかが大事です。

 

小田 町民と、どういう関係性であることが理想ですか?

長久保町長 町民も職員もある種、私の応援団です。いろいろな叱咤激励やご指導を頂きます。そういうご意見を大切にしながら、やはり皆でまちをつくり、皆で喜びを分かち合えることが理想です。そうしてできたまちを未来に託せば、未来の東北町の皆さんも「先輩たちが築いた土台を引き継ぎ、自分たちも未来に喜びを共有できるようなまちをつくっていこう」と思ってくださると思います。

ですから、まずは「土づくり」です。問題から目をそらさず、あえて口に出して皆さんと共有する。私一人だけでは、どうすることもできません。皆さんで一緒に考えていきましょうと働き掛け、対話することが一番良いのではないかと思います。

 

小田 土づくりと同じで、粘り強く対話しながら、まちづくりを進めるということですね。

長久保町長 農業をしていて常々思い知らされるのは「柔軟さが必要だ」ということです。農業は天候によって、あすの予定ががらっと変わることもしばしばです。例えば翌日は雨との予報が出ていたとしても、いざそのときになると突然、晴れることもあります。

時には声が出ないほどの出来事もあるのですが、それに対して「自分の予定はこうだったのに」と嘆くよりも、柔軟に対処する力の方が農業では問われます。農業を続けていくと、だんだんとそういうものが身に付いていきます。

まちづくりも同じで、自分が想定していないことも起こるのが自然だと捉え、あらゆる意見や事象を受け入れながら柔軟に進めていこうと思っています。

 

小田 今の言葉も、農業を長く続けていらっしゃるが故ですね。やはり人や組織づくりには時間がかかります。

長久保町長 それほど簡単ではないですよね。いまひとつ伸びなかった芽が、あるときに急に伸びることもありますし、逆もしかりです。

農家の間では、よく「青物を褒めるな」と言います。順調に葉を茂らせているからといって安心するなという意味です。葉が茂ると実が小さかったり、実がならずに葉のままで枯れてしまったりするときもあるからです。

この言葉は「最後に実がなるまで、しっかり手をかけよ」ということを示しています。葉が茂ったから、花が咲いたからといって喜んではいけません。最終的に理想とするところに到達するまで、きちんと見ることが大事です。

 

※イメージ

 

町民、職員とは対話の積み重ね

小田 就任1期目なので、組織づくりは現在進行形だと思います。これまでのお話から対話を重視されている様子が伝わりますが、何か変化の兆しは見えてきていますか?

長久保町長 私は歴代町長の中で最も年齢が若いのです。町民は高齢者が多く、役場の職員も課長は私より年上です。それ故か、まるで弟や子どものような感覚で親しみを持っていただいているのではないかと思います。もちろん仕事をする上では、お互いに立場をわきまえ、めりはりのあるやりとりをしています。

私は子育て世代でもあります。同じように子育てにいそしむ親御さんにも共通性を感じていただけるのではないかと思います。このように、私にはいろいろな側面があることから、気軽に話し掛けやすいとは言っていただけます。私からも気軽に話し掛けるので、なおさらそう思っていただけるのかもしれません。

町民の皆さんには「役場の雰囲気が明るくなった」と言われます。職員が笑顔で仕事ができる環境づくりに多少は貢献できているのかなと思います。

 

小田 これまでいろいろな首長にインタビューしてきましたが、若い首長は年配者との意思疎通に苦労されているとも聞きます。長久保町長もそう感じることはありますか?

長久保町長 「若いから頼りにならないのではないか」といった考えを持つ人も、もちろんいらっしゃると思います。それは対話を重ねることでカバーするようにしています。

私は行政の経験がほとんどないまま、町長になりましたから、素直に「教えてください」といろいろな課に伺い、積極的に話し掛けるようにしています。

また町民の声もよく聴き、それを私一人ではなく、皆で分析するようにしています。そういったボトムアップ的な体制を就任当初から打ち出してきました。

 

町民の皆さんからは、広報誌に添付した葉書や各庁舎に設置している意見箱、さらにはインターネット交流サイト(SNS)も活用しながら、ご意見を頂いています。そうして集まったご意見を私と職員で一緒に確認や分析をしながら、実行できることはすぐに行うよう心掛けています。

やはり、投じた意見が町政に反映されると、町民は「打てば響く」と感じ、職員に「町が良くなった」と感想をくださいます。そうすれば職員も仕事により自信を持つでしょう。このような好循環を、積極的な対話からつくっていければと思っています。

一般的にいわれる若さ故のデメリットは、自分の気持ちの持ち方一つ、方向性一つでメリットに変わると思います。若いから親しみやすい、若いから行動が早いなど、いろいろとあります。それらをきちんと分析して活用するのが大切です。

 

小田 長久保町長ならではの、農業になぞらえた組織づくりのお話に大変興味を覚えました。

人も組織もすぐには形になりません。町民や職員と対話を重ねながら、まず「良い土壌」をつくるというお考えには、スピードや効率を重視するあまりになおざりになっている物事の基本を教えていただきました。

次回は畜産・酪農業や漁業など、他の1次産業に関する取り組みについても伺います。

 

第3回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2022年10月31日号

 


【プロフィール】

青森県東北町長・長久保 耕治(ながくぼ こうじ)

1972年生まれ。東京農業大農学部を卒業後、地元の青森県東北町に戻って就農。2014年同町議に初当選。21年4月同町長に就任し、現在1期目。座右の銘は「我以外皆我師也」。

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