【公園管理新時代】官と民に必要なマインドチェンジ~「エリア」で公園を管理できるのは誰か(中)

株式会社Public dots & Company PdC エバンジェリスト
SOWING WORKS 代表
元国土交通省 都市局 公園緑地・景観課長 町田誠
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴

2021/1/25  公園管理新時代―官と民に必要なマインドチェンジ(上)
2021/1/27  公園管理新時代―官と民に必要なマインドチェンジ(中)
2021/1/29  公園管理新時代―官と民に必要なマインドチェンジ(下)


伊藤 ここまでは小さな基礎自治体の場合だと思いますが、大都市の現状はいかがですか?

町田 大都市については施設管理者の専門家としての自負心が強過ぎて、仕事を外部に委ねない傾向がありますね。政令指定都市などは、公園行政の歴史も古く、「全部内製でやるべき、公園たるものこうあるべき」という美学があって、柔軟性に欠けるかもしれない。大きな組織のロジックが強過ぎて、自ら自分たちの仕事の限界をつくり出しているような気がします。

伊藤 そこを脱却した都市はあるんですか?

町田 ありますよ。強いリーダーシップを発揮する首長さんの下で進められるイメージと重なります。九州の方では、公の土地に対してもダイナミックな判断を昔から恐れずにやっていて、公有地に対する考え方も大胆。例えば、明治初期の歴史ある公園の中に、県庁を移して、街なかに公園を造り出すような。他の地域だったら「歴史のある公園を潰すべきでない」と萎縮しそうな所。

伊藤 状況は異なるけれど、大都市にしろ、小さな自治体にしろ、今こそマインドチェンジが必要というわけですね。

町田 昔は、国土政策的視点、国土の均衡ある発展を図るための公共投資が、津々浦々まで行き届いていたという実態があって地域の持続性がある意味担保されていた。しかし今は、「地方創生」の時代。特に小さな自治体などは、本気の改革のマインドでいかないと、地域経営上、立ち行かなくなるんじゃないかという心配は大きいです。

伊藤 国交省での大きな事業から、小さな町の公園の仕事まで、長期にわたり幅広く関わってこられた町田さんならではの視点ですね。

町田 公園に限らず、公共施設全体の仕事の経営的外部化を恐れないことが重要です。役所内部の慣習を引きずることが、市民や市民生活のためになっていないことに、気付かなければなりません。施設利用者を迎えるために、公務員が一日中座って受け付けをしていることの無意味さ。施設がもっとさまざまに使われるにはどうしたらいいか、管理に税金などのリソースがどれくらい投下されているのか、これらを恐れずに見直さないといけない。コロナ禍で、来年度から税収が下がり、一気に議論が進むのかもしれません。

「ファジー」を許せる文化や習慣を

町田 指定管理者制度は、2003年にスタートしてはや17年。柔軟な運用が可能な制度ですから、制度を進化させようと思えばできたはずです。しかし、残念ながら、指定管理者制度の適用数は増えましたが、「業務委託」の域を出ない制度運用になっているのが現状です。なぜこうなったかというと、制度導入時期に関係省庁から出された通達が、「個別の管理法がある場合には適用されない」など、かなり限定的な運用へと、現場をリードしてしまったのではないかと考えています。指定管理者制度は、利用者ファーストという点で、もっと可能性のある制度運用ができるはずです。

伊藤 スペインのバルセロナは、今でこそITを使ったスマートシティーと盛り上がっていますが、一番最初に取り組んだことって、道路の廃止なんですよね。碁盤の目状に区分けされた区画を一つの「スーパーブロック」とし、内部の道路は地元住民の自動車・自転車・歩行者のみが通行できるシステム。ウオーカブルな場所になったことで、コミュニティーも復活しつつあるそうです。日本は人口が縮退期だからこそ、社会の前提が変わっていくのは当然のことなので、これまでの前提を見直して、住民にとって何が一番ハッピーかを考えるべきフェーズなのではないでしょうか。

町田 スペインでできていることでも、日本で実現させるのはハードルが高いかもしれません。「この細街路は区画住民の車しか入れない」と決める場合、日本の公務員は、すべての街路への波及を危惧します。そういう部分を完全に払拭しようとすると大変ですが、これからは「多少ファジー(曖昧)でいい」と考えるようにすればいい。「ファジー」というものに公務員は慣れが無いと思いますが、ファジーを許す市民文化、地域文化、習慣が増えれば、公務員の仕事ってもっと創造的になると思う。歩行者専用道路にする社会実験が積極的に進められるかもしれないし、道路を廃止したら現実的に困る、接道要件の弾力的な運用を進めるというアプローチもあると思います。

伊藤 道路の廃止の可能性について伺いましたが、公園を廃止した事例はあるのですか?

町田 多くはないですけど、ありますよ。公園の廃止は「みだりにしてはならない」と法律に書いてあるだけで、裏を返せば、みだりじゃなければ廃止していいということです。杉並区の東原公園に保育所を建てる話がありましたが、あれは公園を一部廃止して建てましたね。

「下」につづく


【プロフィール】
町田 誠(まちだ・まこと)町田誠氏プロフィール写真

1982年旧建設省。旧国土庁、国土交通省等勤務の他、国際園芸・造園博覧会ジャパンフローラ2000、2005年日本国際博覧会(愛知万博)、全国都市緑化フェアTOKYO GREEN 2012において、会場整備、大型コンテンツのプロモート等に従事。さいたま市技監、東京都建設局公園緑地部長、国土交通省都市局公園緑地・景観課緑地環境室長、公園緑地・景観課長などを歴任。

 

伊藤大貴(いとう・ひろたか)伊藤大貴プロフィール写真
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

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