SDGsに見る、官民連携から官民共創へのシフト(4)

株式会社Public dots & Company代表取締役
伊藤大貴

2020/7/17 SDGsに見る、官民連携から官民共創へのシフト(1)
2020/7/20 SDGsに見る、官民連携から官民共創へのシフト(2)
2020/7/22 SDGsに見る、官民連携から官民共創へのシフト(3)
2020/7/24 SDGsに見る、官民連携から官民共創へのシフト(4)


SDGsによって加速する官民共創


前述したデンマークのMind Labで8年間勤務をし、その後、Denmark Design Center(DDC)のCEO(最高経営責任者)に就任したクリスチャン・ベイソン氏がいます。彼が2019年に来日した際のインタビューの中で非常に示唆に富んだことを言っています。「未来においてより良い社会をつくり出していくためには、行政府と民間企業と市民社会とが、より高度なやり方で協働する必要があります。かつてはプライベートセクター(企業)がお金を稼いで、それを行政府が税金として集めて分配するという考え方でした。こうした社会像はもはや通用しなくなっています。(中略)これまで世界のさまざまな行政府をリサーチしてきて分かったのは、魅力的な行政府には共通した特徴があるということ。それは、オープンでコラボレーティブ、多様な能力や資格を持った人が参加している、長期的な展望を持っている、などです」。官と民を横断する形でキャリアを歩んできたベイソン氏の言葉には重みがあります。

官民共創は世界的な流れです。欧州では10年ほど前から、具体的な動きが見られ、今それがより大きな動きとなってきました。日本にもこれから本格的にその流れがやってくるのは間違いありません。それを後押しするのがSDGsです。

皆さん、SDGsの17のゴール、すべて列挙できますか? SDGsの締めくくりと言ってもいい、17番目のゴール、それは「パートナーシップ」です。官民共創で新しい社会像をつくっていくことを目標に設定されているのです。SDGsに熱心に取り組む企業でも17番目のパートナーシップを掲げるところは少なくありません。ただ、実際にはパートナーシップの在り方については、まだ答えを持っている企業や自治体が少ないのが現状です。それは内閣府地方創生推進事務局が発表している「地方創生SDGsローカル指標リスト」を見ると明らかです。17番目の「パートナーシップ」の指標評価について、検討中の記載が多いのです。これはある意味仕方のないことで、日本は長らくプライベートセクター(企業)とパブリックセクター(行政)の役割を明確に分けてきたことで、そこには共創で社会に価値を創造するという取り組みはありませんでした。「欧州ですらそうだった」(ベイソン氏)わけですから、10年遅れの日本では仕方のないことです。

大切なことはSDGsという社会の共通認識が登場したことで、日本でもいよいよ官民共創時代が本格的に到来しようとしている事実です。そして、これは誰かがお膳立てをしてくれて進んでいくものにはならないでしょう。共創の重要性と価値に気付いた企業、自治体からその取り組みが始まり、形になったものを周りで見ていた人たち(企業や自治体)が「自分たちもやりたい」と思うようになり伝播していくのだろうと思います。

パブリックマインドを共通指標に数値化


そして、その萌芽は既にあります。手前味噌になりますが、私たちPublic dots & Companyはアウトカムを大切にした官民共創事業のプロデュース、企画、開発を手掛けており、その話を聞き付けた企業、あるいは自治体から問い合わせを頂いています。もう少ししますと、具体的な取り組み事例として社会に対して発信できる日もやってきます。その日は決して遠くない未来です。私たちは企業に伴走することもあれば、自治体に伴走することもあります。アウトカムを共有して、共に創る時代だからこそ、企業への伴走と自治体への伴走が両立します。社会をデザインしていく新しい考え方、官と民による共創はきっと市民に喜ばれるサービスをつくることになるでしょう。

そして最後に一つ。官民共創時代に重要なことは、事業性と公共性をバランスよく設計すること。そのために重要なのは「パブリックマインド」です。私たちはこの夏、パブリックマインドの具体的な指標を大学の協力を得ながら、開発しようと思っています。リクルートを創業した江副浩正氏が1963年に開発したのがリクルートテスト(現SPI)でした。社交性や慎重性といった性格、挑戦欲求や探究欲求といった意欲など、数値化することが難しそうなものをスコアにしたのがリクルートテストでした。私たちはこれから、パブリックマインドという一見数値化が難しそうなものをスコアにするための指標を開発します。これがあれば、本格的に到来する官民共創時代に企業と自治体がコミュニケーションをとるための一つの指針になることでしょう。

(おわり)


プロフィール
伊藤大貴(いとう・ひろたか)伊藤大貴プロフィール写真
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

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