コロナが生んだ社会の不可逆的な変化が自治体を変える(上)

株式会社Public dots & Company
代表取締役・伊藤大貴

2020/7/27 コロナが生んだ社会の不可逆的な変化が自治体を変える(上)
2020/7/29 コロナが生んだ社会の不可逆的な変化が自治体を変える(中)
2020/7/31 コロナが生んだ社会の不可逆的な変化が自治体を変える(下)


「厚生労働省は、中国中部の湖北省武漢市で原因不明の肺炎が発生しているとして、渡航者などに注意を呼びかけた。2019年12月以降、59人の患者が確認されており、病原体は特定されていない」。日本経済新聞が、初めて新型コロナウイルスに関する記事を出したのが2020年1月6日。その3日後に「中国、肺炎患者に新型コロナウイルス」と、ここで初めて「新型コロナウイルス」の言葉が登場しました。その後、「神経とがらす中国当局」「新型ウイルス感染で初の死者」「春節へ拡散警戒」「人から人の可能性も」と、刻一刻と状況が変化していきました。そして国内で初確認されたとの報道が出たのが1月16日。武漢渡航歴のある30代男性でした。

どんなことでも、「たられば」は意味がないことを承知の上で、この年初の報道を振り返ると、「ここに戻れたら」と思う人は1人、2人ではないはず。しかし、あの時を振り返っても、社会はもう元には戻れません。いわゆるニューノーマルへの対応が求められているのです。本稿では今年上半期を振り返りながら、新型コロナが社会に与えた影響とそれがとりわけ、自治体のこれから、社会のこれからにどんな影響を与えたのかを論考してみようと思います。自治体職員の皆さんも、10万円の特別定額給付金の事務作業では大変な苦労を経験したでしょうし、それを通じて、マイナンバーの在り方、本当の意味でのデジタルへの移行の重要性を痛感されたことと思います。ほかにも2交代制の難しさ、小学校・中学校のオンライン教育に伴う機会の平等性に対する考え方など、短い時間の中で迅速な判断を下していかないといけない、難しい状況が続いたことでしょう。

空気を変えた志村けんさんの死

第2波の到来もささやかれている中で、新型コロナを過去のものとして捉えてはいけませんが、改めて振り返ってみますと、ジェットコースターのような日々でした。記事冒頭で触れた今年1月初旬の時点ではまだ、国内の受け止めは我が事ではなかったですが、2月というと、横浜港にクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」が寄港し、乗客に感染者が発生していることが分かり、3500人の乗客・乗員に大規模な検疫が実施されていた頃です。ダイヤモンド・プリンセスの対応をめぐって、ワイドショーが政府や厚労省を批判しており、まさかその後、当のテレビ局がクラスター(感染者集団)の発生源になるとはつゆほども思っていませんでした。まだ、新型コロナが人ごとだった時期と言ってもいいかもしれません。

社会の空気が一変したのは、喜劇王・志村けんさんが新型コロナで突然、亡くなったニュースからでした。ほかにも同じ頃、屈強な体を持つ元プロ野球選手の病室からのツイッター投稿、報道番組のキャスターや番組プロデューサーまでもが新型コロナウイルスに感染、あるいはそれが原因で亡くなりました。社会が最も不安に駆られていた時期かもしれません。米国株式市場でも連日のように、相場安定のため取引を一時中断する「サーキットブレーカー」が発動され、国内株式市場でも秋のつるべ落としのように株価がどんどん下落し、その下落幅は30%近くに達しました。そしてとうとう4月の緊急事態宣言の発出後は、東京都内からは文字通り、人が消えました。

危機は未来への距離を一気に縮める

前置きが長くなりました。新型コロナウイルスによって生じた行動変容は、明るい未来を導くものになるだろうと思います。特に日本において長らく課題とされていたことが誰の目にも明らかな形となって、突き付けられることになったからです。

何といっても、テレワークを多くの人が経験したことの意味は大きい。それがもたらす未来は地方自治体がオンラインで全国にいる専門家とつながり、プロジェクトを進行できる未来です。その影響力はふるさと納税の比ではありません。一般論ですが、東京で暮らす地方出身者は以前から程度の差はあれ、地方への後ろめたさを感じながら生活していたと聞きます。自分が生まれ育った故郷に戻らずに、東京をはじめとする都市で暮らし、もう戻れないことが分かっているからこそ、故郷が廃れていくことに対して後ろめたさを感じると聞いたことがあります。ふるさと納税はそういう人たちの気持ちに寄り添うことが当初の目的でしたが、結果、この制度はこうした人たちの心の隙間を埋めることはありませんでした。

そこで、今回のテレワークです。オンラインで仕事をすることが当たり前になりました。もちろん、そこにはオンラインではできないことがあるのも明らかになりましたが、一方で打ち合わせも含めて大抵のことはオンラインでできることがはっきりしました。オンラインで仕事ができることが分かったからこそ、お金ではなく、ビジネススキルやノウハウで自分の生まれ育った街のために何か貢献したいと思う人たちと自治体が直接つながる機会が到来しています。

テレワークには、これからの日本の自治体の在り方を大きく変える可能性すらあります。自分が育った街のために何か貢献したい、そういう気持ちを抱えた人が日本中にたくさんいます。オンラインに慣れた今、こうした人材と自治体が積極的につながっていくことで、地方自治体にとってはお金を出しても来てもらえなかった優秀な人材、それも自分たちの街に強い思いを持った人材とつながることができます。

「中」に続く


プロフィール
伊藤大貴(いとう・ひろたか)伊藤大貴プロフィール写真
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

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