コロナが生んだ社会の不可逆的な変化が自治体を変える(下)

株式会社Public dots & Company
代表取締役・伊藤大貴

2020/7/27 コロナが生んだ社会の不可逆的な変化が自治体を変える(上)
2020/7/29 コロナが生んだ社会の不可逆的な変化が自治体を変える(中)
2020/7/31 コロナが生んだ社会の不可逆的な変化が自治体を変える(下)


予測できない変化が日常というニューノーマル

2008年のリーマン・ショックによる金融危機を境に金融関係者、経済学者の間でよく使われるようになった「new normal(ニューノーマル)」という言葉があります。「新常態」という意味で、危機が起きた後にはもう元には戻らないことを指し、転じて、非連続な変化が日常的に発生し、社会生活がそれに慣れていくことをニューノーマルと呼んだりもします。アフターコロナは、ニューノーマルの始まりです。

爆発的感染は避けられたとしても、新型コロナウイルスとの付き合いは数年に及ぶ可能性が各所で指摘されている通りで、新型コロナウイルスが社会に与える影響が軽微になるまで、外出や移動に一定の制限が加わった状態がずるずると続き、社会がそれに慣れていくのがニューノーマルです。人々の行動様式も企業の経済活動も、外出や移動に制限がかかった状態が前提条件として再設計されていきます。もう元の社会には戻らないというのが、今、共通認識として形成されつつあります。新型コロナウイルスによって社会がアップデートしていると言い換えてもいいでしょう。

その視点で地方自治体を見ると、興味深いことに気付きます。今まで「政治は誰がやっても同じ」と思い込んでいた事実が、ニューノーマルの世界では当てはまらないことに社会は気付いてしまいました。今回の危機に直面して、図らずも、各地の県知事あるいは市長が横並びで比較されることになりました。歴史上、初めてのことです。北海道の鈴木直道知事や大阪府の吉村洋文知事、政令市だと千葉市の熊谷俊人市長、福岡市の高島宗一郎市長などは非常に良質なリーダーシップを発揮しましたし、4月中旬現在で一人の感染者も出していない岩手県の達増拓也知事の行政手腕も注目されました。

一方で、記者会見を開いても何を言っているのか分からない、あるいは問題の本質を理解していない知事や市長の姿もテレビを通じて全国に報道されました。過去にこれほどまでに分かりやすく、自治体リーダーの手腕によって、地域の安心・安全が変わるという事実が明らかに比較されたことはありませんでした。私がかつて議席を頂いていた横浜市では、保育園で感染者が出たときに「保護者には感染の事実を伝えずに、園を運営するように」と行政指導をしていて、横浜市民ならずとも、全国を驚かせたのは記憶に新しいところです。自治体リーダーのガバナンス(統治)が効いていない自治体では、こうした有事の際に、現場がこれまでの経験で判断・行動していくために、誤った対応を取ってしまうことが多くなりがちです。「市長や知事は誰がやっても一緒」というのは単なる思い込みで、実はリーダーこそが重要であると判明したことで、これからの投票行動にも影響が出てくるかもしれません。

新型コロナが政治と行政の姿を変える

「危機は未来への到達速度を短縮する」。今回の新型コロナウイルスについての社会の動きを見ていて、思うことです。既に抱えていた課題が今回の騒動で一気に解消に向かい始めています。こうした社会の動きから、一つ感じることは、地方の可能性です。まず、ポジティブに言えば今回、「東京に一極集中することの意味は何か」が問われ、大抵のことはオンラインで対応できることが判明した今、仕事の場所は地方都市でもよいのだということを実感しました。従って、地方都市が首都圏から人を受け入れ、人口が分散する未来はあり得る未来です。自治体トップが明確なビジョンを持ち、政策を打ち出せば、十分に訪れる可能性の高い未来と言ってもいいでしょう。

一方で、ネガティブなことを言えば、今のこの社会の変化を地方都市が肌感覚として理解しているでしょうか。ここは大きな分かれ目になります。東京で経営や生活をしていても、今目の前で起きている本質的な変化に気付いていない企業や人が当然、存在します。これだけ日々、感染者が増加し、繁華街から人が消え、朝晩の通勤ラッシュが相当緩和された、そういう変化を見ていながら、それでもなお、社会の本質的変化を肌で感じていない企業や人が存在するのもまた、事実です。東京ほど劇的な変化を目の当たりにしていない地方都市には、社会の変化を感じにくい側面があります。新型コロナウイルスによる社会の変化は、少子化、人口流出に悩んでいる地方都市にとっては、突如として目の前に現れた大チャンスです。このチャンスを掴めるか逃してしまうかは、変化をしっかりと感じ取っているかどうかに懸かっているでしょう。

(おわり)


プロフィール
伊藤大貴(いとう・ひろたか)伊藤大貴プロフィール写真
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

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