コロナが生んだ社会の不可逆的な変化が自治体を変える(中)

株式会社Public dots & Company
代表取締役・伊藤大貴

2020/7/27 コロナが生んだ社会の不可逆的な変化が自治体を変える(上)
2020/7/29 コロナが生んだ社会の不可逆的な変化が自治体を変える(中)
2020/7/31 コロナが生んだ社会の不可逆的な変化が自治体を変える(下)


日立、NTTの衝撃

このテレワークの流れはもう止まることはありません。その実感は地方都市の人よりも東京在住の人の方が強く感じているでしょう。それはなぜかというと、企業のマインドセットが変わってしまったからです。例えば、日立製作所は3万3000人もいる社員の約7割を対象に、2021年4月から週2〜3日のテレワークの導入を発表していますし、NTTもグループ280社の間接部門を対象に在宅勤務5割以上の方針を打ち出しています。IT系企業になるともっと踏み込んでいて、GMOペパボは新型コロナでのオンラインワークで業務にほとんど支障がなかったことから、「原則」在宅勤務体制へシフトする意思決定をしました。

ここまで大胆な対策でないにしても、緊急事態宣言中にテレワークを経験した人は広範にわたりました。例えば、2020年2月28日の日経新聞によると、136社へのアンケート結果として、在宅勤務に切り替えた企業が46%に上っていました。企業を列挙してみると、キリン、花王、KDDI、GMO、三菱商事、資生堂、楽天、パソナ、パナソニック、リクルート、電通等と日本を代表する企業がずらっと名を連ねています。

在宅勤務へシフトしたことで、オンラインツールは一気に花開きました。Zoom、Slack、Microsoft Teams、Google Meet。まだほかにもありますが、皆さんもこのいずれかを一度は使ったはずです。それくらい、この新型コロナの第1波の期間に、日本中がオンラインツールに慣れたというのは、大きな社会変化です。ポイントは、強制的であれ、まず使ってみるという環境を経験したことです。オンラインを使わないと「いけない」から、まずは使ってみるという状況が日本に生まれました。この意義は大きいと考えます。

トライ&エラーを繰り返せる環境

一般的に日本は失敗を許容しない社会。新型コロナウイルス問題が発生していない平時に、「オンライン会議をやりましょう」と提案しても、できない理由、やらない理由をずらっと並べられておしまいだったでしょう。民間企業ですらそうですから、ましてや自治体ではオンライン会議なんて100%無理だったと言ってもいい。仮にオンライン会議まで辿り着けたとしても、最初のログインがうまくいかない、接続できてもマイクが音を拾わない、画面が映らない、画面共有ができない、などと色々なことが起きて、「だからオンライン会議なんて、ダメなんだよ」と一蹴されるのがオチ。そして、「やっぱダメだよね」と一度評価を下されてしまうと、オンライン会議はもう選択肢に上がらなくなってしまいます。IT企業をはじめとする一部のアーリーアダプター(初期採用層)を除けば、企業ですら、こんなものでした。

ところが新型コロナウイルスによって、在宅勤務、テレワークが前提になったことで、多少の使いにくさ、不慣れな部分があっても、こうした各種ツールを使わざるを得ない環境になりました。「ログインできないけど、どうしたらいいの?」「これ、ちゃんと音、聞こえている?」「画面共有できた?」。こんな会話がこの数カ月、東京を中心に日本各地で繰り広げられました。少し前までのネガティブキーワードが、一瞬にしてポジティブキーワードに変わってしまったわけです。

期せずして、ビジネスシーンでは今、新型コロナウイルスのおかげで、失敗の許される、つまりトライ&エラーのできる環境が出来上がったことになります。もし、今、このトライ&エラーを実行していない企業があるとすれば、致命的です。各社はオンライン会議を通じて、業務の因数分解を無意識のうちに行いました。つまりオンラインでもできることと、オンラインだと難しいことの切り分けをオンライン会議への移行によって無意識のうちに実験したことになります。そして意外なほど、オンラインで困ることがないというのも多くの実感でしょう。

デジタルシフトを議会が実感したインパクト

私は今後、地方自治体のデジタル対応が一気に進むと考えています。それはなぜかというと、こうした変化に最も慎重だった議会がオンラインの重要性を理解したからです。頭ではなく、肌感覚として理解したので、これは大きな原動力になります。これまでどれだけペーパーレスだ、何だといっても、「パソコンやタブレットを使えない議員もいる」など、よく分からない理由を付けて、議会の電子化はそれほど進みませんでした。

しかし、今回のように社会全体がオンラインに対応し、それがないと社会が回らない状況に直面したことで議会も動き始めました。国会では「オンライン審議」案がアイデアとして出ていますし、総務省は地方議会の委員会についてはオンラインでの開催は問題ないとの見解を示しています。議会の動きに目を向けますと、磐梯町議会(福島県)は既にオンラインで常任委員会を開催していますし、取手市議会(茨城県)も常任委員会に準じる災害対策会議をオンラインで開催しました。ほかにも大阪市議会もオンライン開催を可能にする条例改正を行い、南箕輪村議会(長野県)や北上市議会(岩手県)もオンライン常任委員会の検討を始めるなど、これまでオンラインへのハードルが最も高いと思われた議会が一気に舵を切っている様子には目を見張るものがあります。

良くも悪くも議会は自分たちが理解したこと、かつ効果を実感したものについては行政に対して積極的に勧めてくる傾向が強いですから、今後、地方行政における各種事務のオンライン化、デジタル化は急速に進む可能性があります。

「下」に続く


プロフィール
伊藤大貴(いとう・ひろたか)伊藤大貴プロフィール写真
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

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