巻き込みとアジャイルで進める自治体DX 〜佐藤淳一・福島県磐梯町長インタビュー(1)〜

佐藤淳一・福島県磐梯町長
(聞き手)株式会社Public dots & Company

2021/09/27  巻き込みとアジャイルで進める自治体DX 〜佐藤淳一・福島県磐梯町長インタビュー(1)〜
2021/09/30  巻き込みとアジャイルで進める自治体DX 〜佐藤淳一・福島県磐梯町長インタビュー(2)〜
2021/10/04  先例にとらわれず、一人ひとりが考える組織文化をつくる 〜佐藤淳一・福島県磐梯町長インタビュー(3)〜
2021/10/07  先例にとらわれず、一人ひとりが考える組織文化をつくる 〜佐藤淳一・福島県磐梯町長インタビュー(4)〜


 

福島県磐梯町について「全国に先駆けて自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組み始めた町」と認識している読者の方も多いことでしょう。

人口約3400人のうち、約35%が65歳以上の高齢者で構成される同町が、なぜデジタル変革に取り組むのか?その理由は、同町が2020年3月に発表した「磐梯町総合計画」に記されています。

「自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまちづくり」を基本理念に掲げたこの計画には「人に優しいテクノロジー」の文言が。これはすなわち(行政職員も含めた)住民の利便性が向上し、暮らしに価値を生み出す手段としてのテクノロジーであるということです。

同町のデジタル変革には民間の有識者が加わり、官民フラットな立場で議論や改善を繰り返す共創型のプロジェクトが進んでいます。そして、民間企業で採用される「アジャイル(ゴールに向かってトライ・アンド・エラー〈試行錯誤〉を繰り返しながら素早く改良していくこと)」の姿勢で運営を行っていることも特徴的です。

今後ますます官民共創の機運が高まり、同町のように民間人材との共創に取り組む自治体も多くなっていくことでしょう。そこで今回のインタビューでは佐藤淳一町長(写真1上)に、アジャイル型の行政組織に変革していくプロセスについて、詳しく伺いました。(聞き手=Public dots & Company:以下「PdC」)

「アジャイル」はごく自然な感覚

PdC 磐梯町の全国に先駆けたDXの取り組みは、他の自治体でも認知が進んでいると思います。その情報に触れる公務員の方はおそらく「事業の進め方」に興味・関心があるのではないでしょうか?

企画系の事業をアジャイルで、走りながら考え進める方針に対して「頭では理解できるものの実際に現場ではどう動くのか?」や「上長の理解をどう得るのか?」など、全国の公務員の方が知りたいことはたくさんあると思います。

まず、行政をアジャイルで運営することそのものについての、佐藤町長の考えをお聞かせ願えますか?

佐藤町長 私の中で「アジャイル」という考え方は、何かに取り組む上では当たり前のことだと思っています。私は民間企業出身ですから、目標やゴールがあり、そこに試行錯誤しながら向かっていくというのは、ごく自然な感覚です。

しかしこれは民間企業に限っての話ではなく、行政でも同じです。行政運営も経営であることに変わりはありませんから、アジャイルの考え方はあってしかるべきです。

ところが、行政の方の言葉としてよく耳にするのが「できません」というせりふです。その「できません」は、前例踏襲からつくられた既成概念であることがほとんどです。その既成概念を突破することが、実は最も高い壁だと思っています。

 

PdC 関わる人のマインドセット(ものの考え方)を変えることは、大きい組織になればなるほど難しいかもしれないですね。

佐藤町長 その通りで、大きな組織ほど難しいと思います。それぞれの部署に、同じことの積み重ねでできた既成概念がありますから。そして、部署が寄り集まって全体になったときにも、そこに全体としての既成概念があります。企業でもこのような傾向はありますが、行政に関してはさらに強いかもしれません

「できない理由」を突き詰めた先の「できる」

PdC 磐梯町の場合は、それぞれの課や職員の既成概念を突破するためにどのような工夫をしているのですか?

佐藤町長 職員から「できません」と意見が上がった場合、基本的には「なぜ、できないのか?」を突き詰めます。「法律上できないのか?」それとも、「条例上できないのか?」「その他に理由があるのか?」ですね。

これが例えば法律上の問題であれば、法律の中での運用を模索すればいいですし、条例上の問題なら条例を変えることを検討すればいいわけです。その他の理由については、既成概念であることが多いですから、最終的には「できない理由がない」というところに行き着きます。

ですから結論としては、首長の判断の下「できない理由がないのであればやりましょう」という方向性になります。

 

PdC 法律や条例に照らし合わせながら従来のやり方を変えた事例には、どのようなものがありますか?

佐藤町長 議会のオンライン化はまさにそうです。(※)

磐梯町では現在、全ての委員会でオンライン開催が可能となっていますが、最初は「できない」「あり得ない」の声があちこちで上がりました。それに対して、法律や条例で一つ一つ確かめていったのです。

すると、本議会の採決については法律上できないことが分かりました。委員会の運営については条例で定められているので、条例を変えればオンライン開催が可能であることが分かりました。ですから、議会承認の上、条例を変更し、委員会のオンライン開催ができるようにしました。

このように、「できない」と思っていたことを「できる」ようにしたときの、ハードルを越える感覚を職員の皆さんと共有することが大切だと思います。

 

(※)関連記事
地方自治体はトライアンドエラーで独自の行政運営を|福島県磐梯町デジタル変革オンライン審議会の挑戦(1)
地方自治体はトライアンドエラーで独自の行政運営を|福島県磐梯町デジタル変革オンライン審議会の挑戦(2)

 

第2回に続く


【プロフィール】

佐藤 淳一(さとう・じゅんいち))
福島県磐梯町長

1961年9月生まれ。日本大学工学部卒業。磐梯リゾート開発(現在、星野リゾート アルツ磐梯などを運営)に入社後、星野リゾートの東京営業所長や磐梯リゾート開発の取締役総支配人を歴任。2015年に磐梯町議会議員。2019年6月から現職。

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