「反デジタル派」が取り組む自治体DX ~小野広暁・福島県磐梯町デジタル変革戦略室長インタビュー(4)~

福島県磐梯町 小野広暁
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役 小田理恵子

 

2022/03/25 「反デジタル派」が取り組む自治体DX ~小野広暁・福島県磐梯町デジタル変革戦略室長インタビュー(1)~
2022/03/29   「反デジタル派」が取り組む自治体DX ~小野広暁・福島県磐梯町デジタル変革戦略室長インタビュー(2)~
2022/04/05 現場が中心のトランスフォーメーション~小野広暁・福島県磐梯町デジタル変革戦略室長インタビュー(3)~
2022/04/07  現場が中心のトランスフォーメーション~小野広暁・福島県磐梯町デジタル変革戦略室長インタビュー(4)~

 

行政サービスの本質

小田 外から見ると、磐梯町はトップダウンと外部人材の力によって、ものすごいスピードで変革が進んでいるように感じます。しかし実際は小野室長をはじめ、デジタル変革戦略室の職員の方が庁内のハブ(結節点)となり、粘り強く他の課に働き掛けておられるのですね。外部人材の方と接する中で、何か印象に残っているエピソードもおありですか?

小野氏 磐梯町に移住して働いてくださっている常勤の方が1人います。その方が初めて役場に来たとき、私が「出勤簿にハンコを押してください」と伝えたのです。そうしたら、その方は目を丸くしながら「出勤簿なんて初めて見ました」とおっしゃいました。これまで全く違う世界で働いていたのだと実感する出来事でしたね。

 

小田 それは確かにカルチャーショックですね。

小野氏 その通りです。私自身、デジタル変革戦略室に配属される前は総務課に長くいましたから、パソコンなどのデジタル機器はそれなりに使いこなしているつもりでいました。

しかし、2021年4月に戦略室の室長になり、外部人材の方も交えて「Microsoft Teams」上で仕事を展開したり、オンラインで会議したりしていると、「こんな働き方があるのか」と発見することばかりです。

最近ようやく画面上の資料の内容が頭の中に入ってくるようになりました。ペーパーレスの時代とはいえ、これまでずっと紙の資料でやりとりしていた者にとっては、段階的に慣れていくプロセスが必要だと感じました。

 

小田 その感覚は私も分かります。ですから、それも使い分けで、紙の方が頭に入る資料については適宜プリントしてもいいと思います。もちろん組織のデータ管理のルールに基づくことが前提になりますが。ディスプレーの技術が進化してくれば、もっと肌感のあるコミュニケーションがオンラインでもできるのではないかと思っていますが、現状は難しいですね。

まだ私が慣れないせいもありますが、モニターが発する情報からはすべては読み取れない気がします。オンライン上のやりとりは、私の中では電話の業務連絡のようにビジネスライクな感覚です。

一方で、何でもデジタルにすればよいというものではないと思います。人が何かを生み出したり考えたりするようなクリエーティブな作業、もしくは哲学的な部分はむしろアナログの方に良いと思います。

ですから、磐梯町が取り組まれている「デジタルは手段であって目的ではない」というDXの考え方はとても共感できます。

人の心地よさや幸せにつながる手段として有効ならデジタルを使えばいい話で、そうならないのにデジタルを無理やり使うのは本末転倒です。バランスが難しいところでもありますが。

小野氏 行政内部の業務をデジタルに置き換えることに違和感はありませんが、それで終わりになってしまうのは本末転倒です。

われわれが本当に力を入れるべきは、業務効率化で浮いた時間や労力を使って住民サービスを手厚くすることです。行政サービスの本質は、人が困っていることを肌身で感じ、その人に手を差し伸べる術をつくることです。

私は個人的に「働く」を、傍を楽にすると書いて「傍楽」と表現したりするのですが、町民の皆さんに対しても職員に対しても、そんな接し方をしていきたいと思っています。

正直なところ、大きな予算を投じてデジタル化を進める他の自治体をうらやましいと思うときもあります。しかし私は磐梯町職員ですから、自らの自治体でできることをコツコツと積み重ねていくのみです。

 

デジタルで選択肢を増やす

小田 これまでのお話を伺って、小野室長のような哲学をお持ちの方が、デジタル変革戦略室長に抜てきされたのは必然だと感じました。

小野氏 私は昔から行政の遅さや冷たさに対し、ずっと反発してきました。「傍楽」がしたいからです。町民の皆さんから給料を頂いている以上、その業務を100%完全にやり切るという意思でずっとやってきています。

 

小田 今は時代が目まぐるしく変化していて、あらゆる場面で「変わるか、変わらないか」のせめぎ合いが起きていると思います。

そこにテクノロジーが入り込んでいるので少し話がややこしいのですが、テクノロジーを使うのはあくまでも人間が幸せになるためです。「使うこと」自体に振り回されてはいけないと思います。

磐梯町は佐藤町長をはじめ小野室長ら、組織の足腰となる方が本質を捉えていらっしゃるので、これからの展開も楽しみです。

小野氏 公務員の役割は「人の幸せを追求すること」です。

その時々で最適な手段を選び、最大の住民サービスを展開していくことが使命とも言えると思います。しかし公務員も「人」なので、変わるか変わらないかのせめぎ合いに苦しむこともあります。そんな人の集まりが組織ですから、さらに変化を促すのは難しいです。コツコツやっていく他ないと思います。

一方で時間は無限に与えられているわけではありません。政策のスピードとも照らし合わせながら、調整を繰り返すことになりそうです。

 

小田 とはいえ、デジタルの大きな利点の一つが、物理的な距離のデメリットを解消できることだと思います。町として今後、外の地域や人材とどうつながっていくのか、方針はありますか?

小野氏 佐藤町長からは、外部人材をさらに役場に入れていくと伺っています。同時に町長は、職員をどんどん外に出すともおっしゃっています。人材交流で役場内に良い刺激や影響をもたらし、行政デザインを進めていくのでしょう。

私自身は最近、テレワークを試しています。磐梯町は22年3月までに職員のテレワーク環境を整えることにしていますので、その効果検証です。出先施設などの空きスペースを使い、役場以外の場所で業務がどのくらい進むのかを確認しています。

そこで実感したのが、紙の書類とハンコで決裁を行うと業務のボトルネックになるということです。これがオンラインでできるようになれば、公務員も場所を選ばずにかなりの自由度で働けるようになると思います。

これはあくまでも構想ですが、介護など何らかの理由で外で働けない公務員に対し、選択的にテレワークができる環境を整えていければと思っています。

実行するとなると、要綱を作ったり一人一人に説明したりと、やはりコツコツとした働き掛けが必要にはなると思います。それでも「傍を楽にして人の幸せを追求する」ことが公務員の役割ですから、取り組む価値はあると思います。

 

 

【編集後記】
4回にわたってお届けした小野氏へのインタビューから自治体DX、ひいては自治体のリデザインに向き合う現場の職員の姿を見て取った方も多いのではないでしょうか。

多くの自治体にとって、DXは組織変容を伴う活動です。そもそも何のために変わるのか。公務員としての役割は何か。自らの地域をどうしていきたいのか。デジタル化を進める一方で、個人や組織全体の熱量、つまりは究極のアナログを問われることになります。

今回お届けしたかったのは、一自治体のDXの事例ではなく、一つの組織が自らの使命感に向き合い、「トランスフォーメーション(より良い方向への変容)」していくエピソードです。本稿を通じ、変わることや試行錯誤することに意義を見いだしていただければと思います。

 

(おわり)

 


【プロフィール】

小野 広暁(おの・ひろあき)
福島県磐梯町デジタル変革戦略室長

福島県磐梯町出身、在住。1989年磐梯町役場入庁。前職の人事担当時に「デジタルは人間を分断する邪悪なツールである」と町長に進言するも、なぜか2021年4月よりデジタル変革戦略室長に命ぜられる。自身の頭の中は完全なアナログ思考。

スポンサーエリア
おすすめの記事