民間事業者提案制度で地域に実益 ~丸山至・山形県酒田市長インタビュー(1)~

山形県酒田市長 丸山至
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役 小田理恵子

 

2022/04/18 民間事業者提案制度で地域に実益 ~丸山至・山形県酒田市長インタビュー(1)~
2022/04/21 民間事業者提案制度で地域に実益 ~丸山至・山形県酒田市長インタビュー(2)~
2022/04/25 まちの活性化へ、あらゆる方策を考える~丸山至・山形県酒田市長インタビュー(3)~
2022/04/28 まちの活性化へ、あらゆる方策を考える~丸山至・山形県酒田市長インタビュー(4)~

 


 

山形県の北西部にある人口約9万9000人の酒田市。日本有数の穀倉地帯である庄内平野に位置し、最上川の河口に開かれた酒田港を中心に、古くから日本海側の海上交易の要衝として発展してきました。市北部には日本百名山と日本百景に選定された鳥海山を有し、中心市街地から30分圏内でキャンプやスキー、マリンスポーツなどを楽しめる自然豊かなまちです。

 

今回は、そんな酒田市に実益をもたらすための施策に取り組む丸山至市長にインタビューしました(写真1)

丸山市長は、まちの暮らしをより良くするための手段として公民連携を積極的に進め、これまでに幾つもの民間企業と連携協定を結んできました。また今年1月には、まちづくりに熱意のある民間企業と随意契約を締結できる「民間事業者提案制度」の運用を開始しました。

1977年から市職員として勤務し、副市長を経て就任した丸山市長。行政実務に精通した市長の目に、昨今の自治体運営や公民連携はどう映っているのでしょうか。同制度の創設に至った経緯を中心に伺いました。(聞き手=Public dots & Company 代表取締役/一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

理念を具体化するために

(写真1)インタビューには丸山市長(中央)と共に市長公室の職員も参加

 

小田 酒田市は2022年1月に民間事業者提案制度の運用開始を公表しました。市のウェブサイトには「民間事業者と連携することによって、そのアイデアやノウハウを活用し、持続可能で良質な市民サービスの提供を目指す」とあり、公民連携を積極的に推進しようという意図がうかがえます。まずは制度の目的について、お聞かせ願えますか?

丸山市長 そもそもの目的は「自らの地域に実益をもたらすため」です。政治の世界では理念や方針といった抽象度の高い道筋が示されることが多いのですが、具体的にどうやるかについては、あまり表舞台に出てきません。私はもともと市職員で実務を担当しており、降りてきた業務を忠実にこなすことが職責でした。その立場から見て、地域の理念をかなえるためには実務面での具体化が必要だと常々思っていました。民間事業者提案制度は具体化の一つの事例ということになります。

 

小田 公民連携に着目されたのは、市長になられたタイミングということでしょうか?

丸山市長 いざ自分が市長になってみて感じたことをそのままお話ししますと、理念は打ち出せるものの、それをかなえるためのロードマップ(行程表)や具体的な手法を、職員に指し示すことに難しさを覚えました。そういった戦略や戦術を練る経験をこれまでしてこなかったものですから、自力では限界があると思ったのです。解決策として考えたのが民間の力を借りることでした。

酒田のまちづくりに対して意欲のある企業や団体にアドバイスを頂いたり、実際に行動部隊になってもらったりして、市の理念や目的を達成できればと考えました。公民連携の発想はそこから生まれています。

 

小田 そこから、すぐに民間事業者提案制度の立ち上げを考えたのですか?

丸山市長 いいえ、最初は民間企業と連携協定を結ぶことから始めました。意欲のある企業と行政がつながる手段として有効だと思ったからです。最初に結んだのは地元の荘内銀行でした。同行が東京・吉祥寺に支店をつくる際、そばに市の出先機関を設けていただきました。いわゆる都心に向けての情報発信拠点という位置付けで、観光や移住・定住に関するPRを行いました。市への納税が増えるような仕掛けとして、ふるさと納税のパンフレットも置きました。

また、酒田エリアに庄内空港があるという特性を生かし、株式会社ANA総合研究所と連携協定を結びました。ANA総研の社員の方に出向していただき、「鳥海山・飛島」エリアの日本ジオパーク認定や東京五輪・パラリンピックのホストタウン事業、かつて北前船の寄港地だった船主集落の日本遺産認定などで力を貸していただきました(写真2)

「無印良品」を展開する株式会社良品計画とは、パートナーシップ協定を結んでおり、地域活性化のために今もご尽力いただいています。

 

(写真2)日本遺産認定ストーリーの一部(出典:酒田市ウェブサイト)

 

このように、幾つかの民間企業と連携協定を結んだことで得られた成果もありました。しかし、市民の実益にもっと直接的に結び付くようなことをお願いしようとすると、現行の行政制度では限界があることが分かりました。例えば、契約行為を前提として地域の一角の開発を依頼することなどは、連携協定の範囲ではできませんでした。

そこで、やはり自治体として、きちんとした公民連携の制度を持つ必要があると考えました。公平性や透明性を担保しつつ、最終的にやる気のある民間企業と随意契約できる流れです。その一連の手続きを見える化しようということで、民間事業者提案制度の整備に取り組みました。

やる気のある企業とフェアにつながる

小田 制度の具体的な内容について教えていただけますか?

丸山市長 企業とコラボレーションする手法を大きく分けて二つ、細かく分けて三つ用意しています(図)。いずれも民間からアイデアを募集する形ですが、切り口が少し違います。

 

(図)民間事業者提案制度の流れ(出典:酒田市ウェブサイト)

 

一つ目は「自由提案型」です。これは文字通り、民間企業の皆さまから行政の課題解決について自由なアイデアを募集するものです。頂いた提案は、市職員と協議しながら事業の骨格をつくるところまで進めます。その後にプロポーザル方式の公募を行い、他の事業者の提案も募集した上で審査を行います。その際、最初にアイデアを寄せてくださった企業には一定程度、加点します。これで公平性を保ちながら、最終的に一つの企業と随意契約をする流れになります。

 

二つ目は「テーマ提示型」で、市がテーマや条件、事業などを設定して募集するやり方です。この中には二つの区分があり、一つ目が「事務事業に関する募集」です。例えば少子化対策や公共交通の拡充などが当てはまります。それらの課題を市から投げ掛け、手を挙げてくださった民間企業と協議を進め、事業の骨格をつくります。そこからは自由提案型と同じで、企画公募と審査を経て一つの企業と随意契約します。もちろん最初に応募してくださった企業には、審査の時点で一定のインセンティブを付与します。

 

もう一つは「公有財産に関する募集」で、これが三つ目に相当します。こちらは、統合されて使わなくなった空き校舎や消防署などの不要な公共施設の活用方法について、民間企業からアイデアを募集するものです。応募があった後の流れは、最初に述べた二つの型と同じです。

 

小田 この制度の目的は、最終的にやる気のある企業と随意契約することですが、そこに至るまでの流れを公平にしたわけですね。

丸山市長 はい。第三者的な立場で公民連携の流れを評価する検討委員会も設置しています。道筋をしっかり明記し、透明性を確保しています。

 

小田 制度をつくるに当たり、何かモデルケースにしたものはありますか?

丸山市長 既に横浜市や三重県桑名市が同様のルールを作っていることは知っていました。ですから、それに類したものを酒田市型でつくれないかと検討した次第です。すべて整えるまでに2~3年かかりましたが、制度がスタートしたことでより深く民間企業と協業できるようになるとの期待感があります。

これからは、行政課題をわれわれの力やアイデアだけでは解決できない時代です。民間の方々のアイデアもお借りし、課題解決を効率的に行っていこうと思っています。

 

第2回に続く

 


【プロフィール】
山形県酒田市長・丸山 至(まるやま いたる)

山形大人文学部卒業後、1977年に山形県酒田市に入り、商工港湾課長、企画調整課長、水道部管理課長、健康福祉部地域医療調整監、財務部長、総務部長、副市長を経て、2015年9月に市長に就任。現在2期目。

スポンサーエリア
おすすめの記事