400年の伝統を強みに~松尾佳昭・佐賀県有田町長インタビュー(2)~

佐賀県有田町長 松尾佳昭
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2022/12/21 400年の伝統を強みに~松尾佳昭・佐賀県有田町長インタビュー(1)~
2022/12/23 400年の伝統を強みに~松尾佳昭・佐賀県有田町長インタビュー(2)~
2022/12/27 挑戦を楽しみ、新たな伝統に~松尾佳昭・佐賀県有田町長インタビュー(3)~
2023/01/05 挑戦を楽しみ、新たな伝統に~松尾佳昭・佐賀県有田町長インタビュー(4)~

外国人の富裕層に着目

小田 有田焼は多様なニーズに応えられるとのことでしたが、私も有田町を訪問した際にいろいろな製品を見たことがあります。値が張るものからリーズナブルなものまで、種類が豊富でした。これらを売っていくに当たり、町として、どのような戦略を立てているのでしょうか?

松尾町長 就任当初は、まず国内での販路拡大を考えていました。ただ、いろいろな方とお会いして意見交換するうちに、外国人の富裕層向けに展開できるのではないかという話になりました。このアイデアは私一人では思い付かなかったので、本当にありがたかったです。

もう一つ意識しているのは、「モノ」を売るのと同時に「コト」を売るということです。有田焼単体の消費で終わらせるのではなく、さらにその先の、有田焼も含めた町の伝統文化の体験などを売り込むことが重要だと考えています。

 

小田 有田町は、在日外国人向けのふるさと納税サイト「ふるさとジャパン」()に参画しています。これは、今のお話が一つの形になったということでしょうか?

松尾町長 「ふるさとジャパン」には、モノの返礼品として有田焼の器を、コトの返礼品として有田焼の陶芸体験(写真2)や、町の歴史・文化に触れる1泊2日のツアーなどを出品しています。

先ほど申し上げた「在日外国人の富裕層向け」というターゲティングは、このサイトを運営している株式会社ラグジュリーク(東京)とのつながりから生まれました。

同社は富裕層や知識層のインバウンド(訪日客)を中心に、旅行やコンテンツのプロデュース、企画運営などを行っています。新型コロナウイルス禍でインバウンドがストップしたため、在日外国人に目を向けたサービスを検討されており、それが「ふるさとジャパン」でした。このサービスに参画する自治体を募っていると聞き、すぐに手を挙げました。

 

これは私の性質で、ファーストペンギン的アクションです。誰もやったことがないことにいち早く取り組むのは、多くの経験や学びを得る機会になります。職員にもそう伝えています。

「ふるさとジャパン」への参画に当たっては、同じ気質の職員を担当に置き、現場で一生懸命に動いてもらいました。

 

(写真2)陶芸家の十四代李参平氏(左)が指導する陶芸体験=有田町提供

 

小田 最初はある程度の仮説を立てて動くものの、新たなつながりから得たヒントを基に、その都度チャレンジしたり、戦略の軌道を調整したりしているのですね。

松尾町長 つながりから生まれるアイデアには未知の可能性があります。むしろ、つながりをつくることを意識しています。

私自身、面白い人同士をつなげることもありますし、それがある種の学びや楽しみでもあります。有田町を訪問した方々に町内のいろいろな方々を紹介し、つないでいます。

 

町の戦略を練る上では、外部と積極的に情報交換することも大切にしています。

「有田のトップセールスをしたいなら、月に1度は東京に行くこと。それが難しいなら、せめて関門海峡は渡ること。有田の課題を有田の内側から眺めていては、町長は務まらない。世の中の流れを感じ、見てくることだ」

これは有田焼を扱う、とある会社の社長から頂いた言葉で、今でも指針としています。役場内だけであれこれ考えていても、アイデアには限界があります。やはり外部とつながって刺激を受け、時代の潮流を肌で感じて、まちづくりを進めていく必要があります。ですから今でも可能な限り、月に1度は九州から出ています。

 

小田 そのフットワークの軽さが新たな活路を見いだすのですね。

松尾町長 町長としての立場をフルに生かすことも、私の仕事だと思っています。コロナ禍になる前は、海外の姉妹都市などにも積極的に行きました。町長という立場を生かし、つながりやチャンスを得ることが目的です。

例えば3年前には、姉妹都市交流40周年を記念した式典出席のため、ドイツのマイセンに行きました。そこで駐独の日本大使と話す機会がありました。そのことがご縁で次の訪独の際、日本大使館で有田に関するシンポジウムを開催するチャンスを頂きました。こういったことは、有田焼の関連会社の社長でも町議でもなく、町長だからこそ可能なことです。

基本的には面白い人に会ったり、話題の場所に行ったりすることを大切にしています。その中で生まれたアイデアや方向性を施策に反映している感じですね。

 

=株式会社ラグジュリーク(東京)が10月1日にサービス提供を開始したふるさと納税プラットフォーム。地方自治体と連携し、「体験型返礼品」の企画開発、提供などを行う。プラットフォームとなるウェブサイトは、在日外国人向けに多言語対応している。

 

体験をパッケージプランに

小田 「ふるさとジャパン」への取り組みから、有田町は富裕層をターゲットにしつつ、産業育成に注力されているのだと理解しました。その他の取り組みについても教えていただけますか?

松尾町長 ある町外の企業が文化庁採択の事業で、有田の伝統文化体験をパッケージにしたプランを打ち出そうとされています。海外富裕層のインバウンド需要をキャッチするのはもちろんのこと、国内の富裕層にも受け入れられるような内容を目指します。

具体的には、①1992年に当時の天皇、皇后両陛下が泊まられた「竹林亭」での宿泊や料理の提供②「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)2011」の日本酒部門で最優秀賞に選ばれた地酒「鍋島」の酒蔵オーベルジュ宿泊③有田焼を代表する陶芸家の今右衛門先生、柿右衛門先生との交流などをパッケージングし、有田の風土を存分に楽しんでいただけるプラン──を考えています。

400年の伝統文化が息づいた街並みやそこで生まれる体験は、特に欧州系の方には感動していただけると思います。

 

「クリエイティブ・レジデンシー・有田」という取り組みも、2016年から佐賀県と共同で行っています。これは有田焼創業400年をきっかけに始まったもので、海外のクリエイターが有田に滞在し、有田の文化や歴史、自然をヒントに創作活動を行うという取り組みです。これまで欧州を中心に20組以上のクリエイターが町に滞在し、作品を生み出しました。

コロナ禍での休止を経て、今年は2年ぶりにオランダから複数のクリエイターを受け入れます。この事業で町との関係を築いた海外のクリエイターは、帰国後も有田の情報を発信してくださいます。その影響で有田に興味を持ち、来てくださる方も多いのです。コロナ禍の状況を見ながらの運営となりますが、在日外国人向けの施策とバランスを取りながら進めていきたいと考えています。

 

小田 「有田焼と有田町の文化に価値を感じてくれる人は誰か」と、マーケットインの発想を常にお持ちなのは、さすがですね。外の情報にアンテナを立て、時流に合わせて柔軟に動いたり、時に大胆にチャレンジしたりする姿は、さながら経営者のようです。

次回も、コロナ禍のピンチを切り抜けた「Web有田陶器市」に関する施策を中心に、有田町のチャレンジについて伺います。

 

第3回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2022年11月14日号

 


【プロフィール】

佐賀県有田町長・松尾 佳昭(まつお よしあき)

1973年生まれ、佐賀県有田町出身。福岡大法卒。有田焼ブランドメーカー勤務、参院議員秘書などを経て、2006年有田町議選に初当選し、連続3選。18年4月有田町長に就任し、現在2期目。

スポンサーエリア
おすすめの記事