コロナ禍の困窮者支援の現場から 〜職も住まいも失った人々のSOS (後編)〜

コロナ災害対策自治体議員の会共同代表/東京都足立区議 小椋修平

 

2022/02/18  コロナ禍の困窮者支援の現場から 〜職も住まいも失った人々のSOS (前編)〜
2022/02/21  コロナ禍の困窮者支援の現場から 〜職も住まいも失った人々のSOS (後編)〜

自治体議員の会の活動

「自治体議員の会」では、支援団体に寄せられた相談に対し、各議員が連携して生活保護申請の同行をはじめとしたサポート活動を展開。

相談事例を共有して課題を可視化するとともに、見えてきた課題について議会で質問したり、厚生労働省や東京都に要請を行ったりしました。また食料配布・相談会に相談員やスタッフとして参加するほか、生活保護行政をテーマとした議員研修会などを開催しました。

取り組みの特徴としては、全国の超党派の自治体議員と現場の最前線で活動している困窮者支援団体、家庭内暴力(DV)被害者や女性支援団体、福祉事務所職員OB、社会福祉の専門家、司法書士、弁護士などが多様なネットワークを形成し、横の連携で首都圏を中心に全国各地の相談に対応してきたことです。

ご関心を持たれた自治体議員の皆さまには、ぜひ活動に参加いただければと思います。

スマホは必需品

20年4月に「緊急アクション」が相談メールフォームを立ち上げてから、現在までに1000件以上の相談が寄せられました。その約半数は、所持金がなくスマホの料金滞納で電話利用が停止状態となったため、コンビニエンスストアや駅など、フリーWi─Fiのある場所から発信されたものでした。これもコロナ禍での特徴です。

 

(出典:新型コロナ災害緊急アクションHP)

 

スマホや携帯電話がなければアパートの入居契約ができず、雇用者としても採用されないため、生活保護を受けることが決定すれば、まずスマホの契約です。しかし住所や身分証がないことで、スマホを契約できない人が多いことが課題でした。

そこで、つくろい東京ファンドが最大2年間、無料でスマホを貸す「つながる電話」貸し出し事業を実施。これまでに170台以上を貸し出しており、私が支援した人もお世話になりました。

生活保護に対するネガティブなイメージ

コロナ禍での困窮相談の大半は、生活保護でしか救うことができないケースでした。しかし、過去の生活保護バッシングなどが影響し、相談者には生活保護に対するネガティブなイメージが根強くあります。

所持金が数百円になり、住まいがない状態でも「生活保護だけは絶対に受けたくない」「生活保護は嫌です」という若者が後を絶ちませんでした。

また「行政に相談するのはハードルが高い、敷居が高い」という若者や、生活保護制度自体を知らない若者もいました。このため、生活保護をはじめとする各種の支援制度や相談先を記したパンフレット、ポスターを駅やネットカフェなどに設置したり、若者の使用頻度が高いインターネット交流サイト(SNS)上で相談を受け付けることなどを要望したりしています。

扶養照会、改善の一助に

生活保護制度には、申請者の親やきょうだい、親族に援助の可否を尋ねる通知を出す「扶養照会」という手続きがあります。私は以前から何度も、この扶養照会がネックとなり、申請を諦めた人を目の当たりにしてきました。

そもそも親やきょうだい、親族に頼れる状況にある人は、実家に戻っていたり仕送りなどの援助を受けていたりするので、扶養照会は果たして意味があるのだろうかと疑問に感じていました。

そこで、扶養照会を経て援助が行われた実績について、足立区議会で質問してみました。

その結果、19年度に区へ新規申請された2275件のうち、何らかの援助が行われたのはわずか7件(0.3%)であることが明らかになりました。この件は数多くのメディアや国会で取り上げられました。

つくろい東京ファンドをはじめとする支援団体が、当事者の聞き取り調査や扶養照会廃止の署名活動などを行い、厚労省に要望したところ、扶養が見込めない場合は扶養照会しなくてもよいとの通知が出され、改善の一助となりました。

貧困ビジネス施設、住まいの貧困

首都圏では、家賃の滞納や派遣切りに伴う寮退去でネットカフェ暮らしが続くなど、さまざまな事情で住居を喪失した状態の人々が多くいます。そうした人々が生活保護を申請すると、保護費の大半を搾取される劣悪な施設に入所することが保護要件になるという、生活保護法の居宅保護の原則に反する運用が常態化しています。

無料低額宿泊所、いわゆる貧困ビジネス施設の問題です。私は長年、この問題を指摘し続けてきました。相談者の中には過去に劣悪な施設に入所させられ、「二度と施設に行きたくない」「生活保護だけは嫌だ」という人が少なくありません。

 

役所が「実家に戻るように」「頑張って仕事を見つけてください」などと促し、保護申請をさせない「水際作戦」を展開していることも、私たち自治体議員の会や支援団体が必ず申請に同行する理由の一つです。

相談者へのアンケートでは、住居を喪失した理由として、3割強が「仕事をやめて家賃等を払えなくなった」、2割強が「仕事を辞めて寮や住み込み先を出た」ことを挙げました。

相談者の平均月収は12万円弱。住居の確保に際して問題となることについては、6割強が「アパート等の入居に必要な初期費用(敷金等)をなかなか貯蓄できない」ことを挙げました。

このような理由から製造業派遣や夜の街など、寮付きの仕事しか選択肢がない人が多かったのも特徴です。

 

そこで支援団体は、

①災害救助法を応用し、民間の空き家や空き室を借り上げる「みなし仮設」方式の住宅支援を導入するとともに、公営住宅の入居要件を緩和する(60歳未満単身者の入居を認める)
②住居確保給付金を普遍的な家賃補助制度にする
③路上生活者のための個室型の緊急シェルターを整備するとともに、NPOと連携してターミナル駅や繁華街で巡回相談を実施し、福祉事務所を経由せずに緊急シェルターに入所できる仕組みをつくる

といった政策提言を行っています。

メディアによる発信が後押し

長年、若者の就労支援や貧困問題の現場に携わってきて感じることは、マイノリティーや社会的弱者が抱える課題は、当事者や関係者でないと、なかなか理解も共感もされないということです。

私自身も就職氷河期でアルバイトや日雇い派遣、派遣社員など、非正規雇用の当事者であったからこそ、こうした問題に取り組んできたという経緯があります。仮に大学卒業後、正規職で失業することなく、生活に困る経験もなく、順風満帆に過ごしていれば、ここまで真剣に取り組んでこなかったでしょう。

 

一方、メディアで報道され、可視化されることにより社会全体で問題を認識・共有し、国会や地方議会で取り上げられて国や自治体が動くというケースを、何度も目の当たりにしてきました。

今回のコロナ禍における貧困問題をめぐり、私はメディアからの取材には全面的に協力し、この2年近くの間、新聞をはじめとするさまざまなメディアで取り上げられました。

特に、前述した生活保護の扶養照会の問題では、私の議会質問が数多く紹介され、メディアによる発信が事態の改善を後押ししてくれたと実感しています。

 

雇用、住まい、セーフティーネット、家庭・教育環境など、これまで見えなかった課題が複合的に絡んでおり、容易ではありませんが、現場の課題を一つ一つ可視化し、引き続き改善に向けた取り組みを進めていきたいと思います。

 


【プロフィール】

小椋 修平(おぐら・しゅうへい)
コロナ災害対策自治体議員の会共同代表東京都足立区議

1974年三重県生まれ。自身の非正規雇用の経験を踏まえ、雇用を変えるには政治を変えるしかないとの思いから、2000年藤田幸久前衆院議員(当時)の秘書として政治の道へ。07年東京都足立区議選で初当選。現在4期目。

 

 

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