コロナ禍の困窮者支援の現場から 〜職も住まいも失った人々のSOS (前編)〜

コロナ災害対策自治体議員の会共同代表/東京都足立区議 小椋修平

 

2022/02/18  コロナ禍の困窮者支援の現場から 〜職も住まいも失った人々のSOS (前編)〜
2022/02/21  コロナ禍の困窮者支援の現場から 〜職も住まいも失った人々のSOS (後編)〜


 

新型コロナウイルス対策として、1回目の緊急事態宣言が発令中だった2020年4月、私は片山薫・東京都小金井市議と共に「コロナ災害対策自治体議員の会」を設立しました。首都圏を中心に約200人の自治体議員が参加しています。

 

コロナ災害対策自治体議員の会 オンライン研修会

コロナ災害対策自治体議員の会 オンライン研修会

 

その直前には、一般社団法人反貧困ネットワークや一般社団法人つくろい東京ファンド、そして法律家らによって、困窮者支援者・団体のネットワーク「新型コロナ災害緊急アクション」が組織されました。自治体議員の会はこうした動きに呼応する形で設立したものです。

パートやアルバイト、派遣社員、日雇い派遣、個人請負など、非正規労働者の困窮が年々深刻さを増す中、コロナ禍が追い打ちを掛けています。

 

本稿では「緊急アクション」や自治体議員の会の活動を通じ、私が接した非正規労働者の窮状の一端を紹介し、困窮者支援の現場で今、何が起きているのかをお伝えできればと思います。

緊急駆け付け支援員として奔走

20年4月、緊急事態宣言の影響でインターネットカフェが休業する中、困窮者支援団体には「所持金が数百円で今晩、泊まる場所もない」といった相談が殺到しました。

飲食業や製造業などに従事していた非正規労働者が職や住まいを失っており、東京の新宿や池袋で実施された支援団体による食料配布・相談会には毎回、例年の2〜3倍となる300〜400人近い行列ができました。

多くは中高年の男性ですが、それに交じって若者や女性、外国人ら、多様な人々が食料を求める姿に、支援団体からは「社会の底が抜けた」との声が上がりました。

やって来た人々はハローワークに登録していないケースが大半で、労働者としてはカウントされていないため、実態がつかめていません。職探しはスマートフォンを通じて行っていることも、時代の変化を実感させました。

 

そんな中、「緊急アクション」はホームページ(HP)を立ち上げ、相談メールフォームを設けました。

職も住まいも失った人々から寄せられたSOSに対し、私は緊急駆け付け支援員として昼夜を問わずに対応しました。当日の宿泊場所を確保するとともに後日、役所への生活保護申請に同行したり、アパートへの転宅に向け不動産会社に一緒に行ったりするなど、数多くの人々の支援に奔走しました。

 

寄せられた相談を幾つか紹介します。

▽飲食店などのパートを掛け持ちしている30代シングルマザー=緊急事態宣言でシフトを減らされ、収入が激減。貯金も底を突いた。

▽元契約社員の30代シングルマザー=緊急事態宣言で保育園が休園となって働きに出られず、職場の上司から嫌味を言われ続けて精神的に疲弊、退職して収入も途絶え、貯蓄もなし。

▽警備会社の派遣社員として、社の寮で生活しながら働いていた40代男性=コロナ禍で仕事が激減。シフトに入れず、寮費を払うとマイナスになるため退職するが、次の仕事が見つからず、所持金ゼロで路上生活に。

▽元ホスト、元バー店長の30代男性=コロナの影響で仕事が全くなくなり、家賃滞納でネットカフェ生活に。スマホの料金滞納で電話利用が停止されたために仕事も見つからず、過去に居住していたアパートのまま住民票は職権消除。所持金300円に。

▽ガールズバーで働いていた20代女性=コロナ禍で失業し、スマホの料金滞納で電話利用は停止。3年以上、ネットカフェ暮らしで所持金1000円に。

▽20代男性=北関東で製造業派遣として働いていたが、雇い止めで寮を退去。上京し、ネットカフェに宿泊しながら職探しをするも職に就けず、所持金500円に。

▽女性=コロナの影響で、居酒屋で働いている夫の収入が途絶え、生活費を入れなくなった。貯金もなくなり、日に日に夫からの暴力がエスカレートしている。

 

(出典:新型コロナ災害緊急アクションHP)

相談者の傾向

「緊急アクション」に寄せられた1000件以上の相談から見えてきた困窮者の傾向は、次の通りです。

▽所持金が1000円を切った状態での相談が過半数である(ぎりぎりの状況になるまでSOSを出せない)。

▽08年のリーマン・ショック後の年越し派遣村では、20〜30代はわずかで、中高年男性が圧倒的に多かった。これに対し今回、「ホームレスになった」と連絡してきたメール発信者のうち、かなりの割合を占めるのが若い世代で、8割超が20〜40代である。

▽日雇いやスポット派遣で収入を得ていたが、コロナ禍で収入が途絶え、野宿生活を強いられている。当初からアパートを借りる費用がなく、ネットカフェで数年暮らしていた。

▽一人暮らしの大学生からの相談も目立つ。コロナ禍でアルバイト先の飲食店が閉店してしまい、家賃の支払いに困っている。

▽女性からの相談が全体の2割を占める。その8割超が10〜20代である。女性は宿泊、飲食、性風俗、小売りといった業種に非正規で従事している割合が高く、コロナ禍による解雇の影響を強く受ける。特に40代以降の世代は、精神的な困難に直面している。

 

他に、生活保護の申請時に家族や親族に援助依頼の通知を行う「扶養照会」や、住居喪失状態で生活保護を申請すると、劣悪な施設に入所させられる「無料低額宿泊所」の問題もあります。これについては後ほど触れます。

 

私自身が相談対応した人の傾向は次の通りです。

▽失業給付や住居確保給付金など、社会保障を一切受けていない。利用要件を満たしておらず、実際に利用できた制度は社会福祉協議会の貸し付けか、生活保護のみ。

▽複雑な家庭環境や生い立ちで、親からの暴力やひとり親家庭、親も生活保護というケースが多い。高校卒業後は家族と一切連絡を絶っており、実家や親族に頼れない人が大半で、家族がセーフティーネットとしての機能を失っている。

▽高卒か高校中退で大卒は1割もおらず、全員が非正規の低賃金で働き、雇用が不安定。

 

学歴や家庭・雇用環境が貧困と相関関係にあるのではないか、選ばなければ仕事はいくらでもあるのではないかといった指摘もあります。しかし製造業や現場仕事の派遣で、単純労働の不安定雇用が続き、社会保障も十分ではありません。何年働いても低賃金で、不安定雇用から抜け出せない労働環境ではキャリア形成ができません。

このため、非正規の不安定雇用でしか採用されず、正規職には何十社と不採用が続いた人を、数多く目の当たりにしてきました。

職や住まいを失っても、身なりは比較的きちんとしており、一見では困窮していると全く分からない場合も多くあります。貧困がなかなか目に見えず、実感しづらい部分があります。「まさか自分がこう(ホームレス状態に)なるとは思っていなかった」と言う人も多いのです。

「荷物をすべて捨てて自殺しようと思っていた」(50代男性)、「電車に飛び込もうと思ったけど足が震えて、できなかった」(40代女性)、「相談メールに返信がなければ(生きるのを)諦めようと思った」(20代女性)などと、自殺をほのめかす場面も1度や2度ではありませんでした。

 

後編に続く


【プロフィール】

小椋 修平(おぐら・しゅうへい)
コロナ災害対策自治体議員の会共同代表/東京都足立区議

1974年三重県生まれ。自身の非正規雇用の経験を踏まえ、雇用を変えるには政治を変えるしかないとの思いから、2000年藤田幸久前衆院議員(当時)の秘書として政治の道へ。07年東京都足立区議選で初当選。現在4期目。

スポンサーエリア
おすすめの記事